第11話

弥生から届いたチャットに少しイラッとしながら返信しようとしてやめた

夜斗は軽く舌打ちしながらソファーで体を起こし、体を伸ばす



(義理堅い、か。当たり前だと思うがなぁ?)



むしろそれをやらないほうがよくわからない、というのが夜斗の思うところだ

そこに愛がなくとも、言いようのない不安に襲われるかもしれないと考えたに過ぎない



(まぁいい。とりあえずSNSもアカウント消すかぁ)



毎日のように告白してくる小学生とSNSで繋がっている

が、だからと言ってアカウントを消す覚悟が揺らぐことはない



(情が移るとそれはそれで負担になるかもしれないしな)



アカウント設定を開き、なんの躊躇いもなくアカウント削除の手続きを実行する

自分で作ったアカウントは全部で5つあるが、それら全てに同じ処理を施していく



(完了、っと。雪菜は…まぁ、雪菜だけは許してもらうか)



そもそも消す必要はないと言われているにも関わらず、Raimuに雪菜を残すことについての許可を得ようとする夜斗

弥生が言うように、義理堅いようだ



「やっぱり、もう来てるんですね」


「雪菜…もう放課か?」


「いえ、7限です。私は課題出し終わってるので」


「そういうことか」


「やぁ、二人して仲良さげに話してないで奥に行きたまえよ」


「佐久間もか」



スマホをしまったところでちょうどドアを開けた雪菜と、少し遅れた佐久間が生徒会室に入る

それぞれが自分の席に移動し、パソコンを起動した



「君を狙う恋敵は思いの外多いね、夜斗」


「……なんのことだ」


「とぼけなくてもいいよ。これだけアピールされて気づかないほど、君は鈍感になれないだろう?」


「まぁな。何が言いたい?」


「ボクらは一年間を待てるほど余裕ではなくてね。しっかり君を狙っていくつもりでいる」


「ほう?」


「だがしかし義理堅い君のことだ、SNSはアカウントを消してRaimuも一部残し消すつもりだ。違うかい?」


「義理堅いかはさておき、そのとおりだ」



佐久間の完璧な予想に舌を巻く夜斗

こんなことはよくあるのだが、毎度一分のズレすらない予想に驚かされる



「その一部に、ボクらは入ってるのかな?」


「…少なくとも、卒業までは残すつもりだ。特別理由がない限りは」


「そこまで予想通りだよ。彼女を残すこともね」



どうやら雪菜を残すことは予想済みらしく、チラッと雪菜に目を向けて笑った

雪菜はパソコンに集中しており、そんな佐久間に気づくことはない



「…運命を変えないためには仕方ないことだ」


「おや、理系の君から運命などという不確定要素の塊みたいな言葉を聞けるとはね」


「茶化すな。お前の悪い癖だぞ」


「はは、さすがよくわかってるね。それじゃあ確認だ。君は特別な理由があれば残すんだったね」


「…まぁ」



佐久間が見せてきたのはとある病院の特殊入館証だ

ある立場以上でなければそれを保有することは許されない



「…!漣の…」


「そう。君が4月から毎週のように通わされる伊豆長岡大学附属病院の特殊入館証だよ。そしてこれは、最上位フロアへの立ち入り権限がある。言いたいことはわかるだろう?」



笑いながら渡してくる佐久間



「…お前が窓口になるのか」


「大方正解だよ。ま、こういうときに利用してこそのコネだからね」



佐久間がどこまで知っているのかはわからない

が、夜斗が八城に頼まれて漣に会うことは知っているようだ

更にそれを知って入館に必要な手続きを、自分経由でやれるようにした



「…俺の手間は減るが、いいのかそんなことで」


「構わないよ。ボクにとって、夜斗との関係を断つ方が困るんだ」


「…まぁ、仕方ないな。残すしかない」


「それは僥倖だね」


「何の話ですか?」


「なんでもねぇよ」



しばらくは作業を続け、目処がついたところで帰ることにした夜斗

意地でもついてくる雪菜と共に生徒会室を後にした



「あれ?冬風は?」


「帰ったよ。神崎さんと一緒にね」


「そっか。まぁ明日でいいや」


「君もそうしてるとマトモだね。妹の頼みは断れないのかな?」


「なんでそれを…?」


「女の勘だよ。気にする必要はない」


「まぁかわいい妹の頼みだから断れないんだ。っていうのと、冬風も彼女の一人作っておくべきだと思うんだ」


「…まぁ、そうかな」



窓の外に目を向ける佐久間

様子を見に来た白鷺が不思議そうに眺めるが、それを気に留める様子はない



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