第10話
一方東部商業科高校経理専科1年生教室では
(…居心地、悪い…)
眉をひそめながら本を読む弥生
共感覚の関係で、嫌でも周りの感情が読めてしまう
(…興味・羨望・軽蔑…?代わってくれるなら代わってほしいまであるけど)
少しイライラしながらも、いいところまでストーリーが展開した紙媒体の本に注目する
しかし、そんな安寧の時を邪魔するものが現れた
「橘、ちょっといいかしら」
「…何の用?
工業科高校の生徒会長の妹に声をかけられて、さらに眉をひそめながら無表情ながら端正な顔を向ける
「顔貸しなさい」
「ここでダメなら応じない。外に出るのがめんどくさい」
「…別にいいけど。橘、たしか夜斗さんと同棲するのよね?」
「…なんで知ってるのかわからないけど、そう。今週土曜から駅前のどこかで」
「どこかって…」
「興味がないから、住所だけ聞いて見にはいってない。荷物は後で冬風がレンタカーを出してくれる手筈だから引っ越し業者も手配してない」
「えぇ…杜撰すぎるわよ…。じゃなくて!」
「…何?」
嫌そうな顔を意図的に作って白鷺妹に向ける弥生
「貴女、そのまま結婚する気でいるの?」
「しない。義務だから一年は同棲するけど、地球滅亡クラスの奇跡が起きなければ結婚まで同棲することはない」
「そ。ならいいわ」
「……冬風を好きなの?」
そう言われてフリーズした白鷺妹
顔を真っ赤にしたあと弥生に詰め寄った
「ばばばバカ言わないで!誰があんな庶民を好きになるのよ!?」
「…何故そこまで躍起になって否定するのかわからないけど。まるで本当に好きかのよう」
「そんなわけないでしょ!?わざとお兄ちゃんに頼んで学校で問題起こしてもらって私が謝りに行くことで会話の機会を作るなんてことしてないわよ!」
「……お兄さん可哀想…」
実際そのせいで教師陣からの評価は右往左往している
なにせ成績優秀でありながら、半年に一度程度の頻度でいきなり問題行動をするのだ
それ以外では質実剛健を具現化したような生徒だと評されている
「やってないって言ってるでしょ!?」
「……そう。なら、RaimuのIDもいらない?」
「え」
「そんなに好きなら冬風に許可とってあげようかと思ったけど、好きではないなら要らないね。余計な気遣いだった」
「な、なんで持ってるのよ…?」
「…同棲する手前、事務連絡には使えるから」
Raimuというものは日本全国誰でも使っている無料電話アプリだ
チャットの機能もついているため、老若男女問わず利用できる上、スタンプの機能もついている
「で、どうなの?」
「……ほ、ほしいわ」
「なら、冬風に渡していいか確認する。許可が出たら渡す」
「…いいの?同棲してる人に女関係あったら、なんとなく不安にならないかしら」
「あくまで利害関係だから構わない。毎日家に連れ込まれたらさすがに困るけど、たまに連れ込むくらいはどうでもいい」
「そう…ま、まぁもらえるならもらっておくわ!」
(((すごい…。あの白鷺を手玉に取ってる)))
クラスメイトが心のなかで驚きと称賛の声を上げる
白鷺妹といえばわがままツンデレ美少女で通っており、教員ですら扱いに困ることが多い
そんな中いとも簡単に立場を入れ替えてみせた弥生
(…これくらいの駆け引きは、可能)
嬉しそうに立ち去っていく白鷺妹の背を眺めて自分のスマホを取り出す
そして夜斗に向けてRaimuのチャットを送り、すぐにポケットに入れた
が、数分で返信が届き再度取り出し確認する
『却下だ。同棲する手前、そういう女性関係は一切断つ』
また眉をひそめながらチャットを始める弥生
『そこまで期待していない。この状況なら、世間的にもやめる必要はない』
『俺の義理心情の問題だ。世間がどうとかじゃない。来年じゃだめなのか?』
『さっき許可を取れたら渡すと伝えた』
『そうか。なら、橘の顔を立てるためにもそいつは許可しよう。で、誰?』
『白鷺という同級生女の子。確かそっちの生徒会長の妹』
『ああ、何回か会ったことあるんだよな。会長がやらかすたびに謝りに来てた気がする』
『そう…。聞いてないけど』
『だろうな。他のやつには渡すなよ』
『了解。冬風は存外義理堅い』
既読がついて数分経ったが返信はこない
会話の終了と判断してスマホを仕舞い、白鷺妹に声をかけた
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