第7話
翌日土曜日、親友・
「つーことで、マジ感情読めんのやわ」
「なんで呼ばれたんだ俺」
「そこについて同意します。何故私たちなんですか?嫌がらせですか?」
「いや聞けって。マジ色も音も取りづらいんだぞ」
「先輩にそこまで言わせるなんて…」
「深刻だな…」
雪菜はどうやら同棲自体は気にしていないらしい
しかし、夜斗が本当に弥生を好きになりかねないと懸念しているのだ
初対面の時から昨日のことまでを一通り話し終えてフライドポテトを食べ尽くす
「そんなわけだ。マジで読めないけど、それが面白い」
「要するに楽しんでるのか」
「まぁな。お前らも多少興味あるだろ?」
「少しありますね、正直。緋月さんは?」
「ない…といえば嘘になるな」
ちなみにこの二人、実は初対面だ
自宅が近隣のため、夜斗が無理やり呼び出すのも割といつも通り
今回は初めて二人を同時に呼び出したというだけだ
「来週日曜日会わせてやるよ。橘の許可は取ってある」
「手が早いな。日曜日は空いてるぜ」
「私も空いてます。でしたら、日曜日ここに集合でいかがでしょうか?」
「それでいこう。来週土曜から同棲開始なんだが場所は駅前なんだ。ここならバス停も割と近い」
国が用意した賃貸は利便性の高い場所で、しっかり配慮したのか2LDKという高級仕様
さらにそのマンションには管理人もおり、宅配ボックスも完備されている
「じゃそんな感じ。とりあえず今日解散で。霊斗、雪菜送ってやってくれ。俺はこのあとちと野暮用で行かなきゃいけないとこがある」
「は、はぁ!?呼び出したんだから責任は負えよ!」
「悪いが急用だ。当初は俺もその予定だったが、先程かつての友人から連絡があった。故に急ぎ向かわねばならん」
夜斗の声音から真剣さを感じとった霊斗は、大きく長いため息をついた
「神崎さん、そういうことらしいので…送ります。家知られたくないということでしたら近くまでという形で…」
「いや、家まで送れ。うちの生徒会に、このあたりでの不審者情報が来ている。顧問からさっきメールが来た」
「そういえばきてましたね。けど私を襲うような物好きいませんよ」
「神崎さん可愛いからなぁ…。わかった、家まで送る。意地でも」
「か、かわ…。ありがとう、ございます…」
「じゃあな。雪菜はまた学校で、霊斗は来週」
「はい、お疲れ様でした」
「じゃあな、気ぃつけて帰れよ」
「お互いにな」
夜斗は小走りで店を出て自転車に乗った
そして国道をかなり飛ばして、少し離れたトンカツの店に入る
「来たわね?」
「待たせた。八城は?」
「すぐ来るわ?多分ね」
夜斗を呼び出したのは莉琉と八城だ
どうやらここで食事をしつつ話をしたいらしい
「待たせた」
「あら、思ってたより早いわ?5分位ね」
「仕事が立て込んでるんだよ、許せ。夜斗、よくきたな。まぁとにかく店に入ろう」
莉琉と合流してから15分ほどで到着した八城を先頭に店に入る
奥の座敷に案内され、一通り注文を済ませると八城がテーブルに肘をついて夜斗と莉琉を交互に見た
「さて、集まってもらったのは他でもない。夜斗」
「おう?」
怪訝そうな顔で答える
「…莉琉と、結婚するんだ」
「ああ、それはめでたいことだな。式はいつだ?悪いがスーツしかないぜ?」
「最終的には契約結婚するつもりだわ?けど、先に結婚式をするのも悪くないって話になってるのよ」
「はーん。まぁ悪くないな。契約結婚目当てで同棲するのも、可能ではある」
結果的に離婚率を下げるのが目的であり、間接的に少子高齢化の対策として動作するのが契約結婚の制度だ
先に式を上げるのも悪いことではなく、なんなら政府は歓迎しているまである
「それで、その…友人代表スピーチを頼みたくてな?」
「なんで俺やねん。久遠は?」
「組織規定で出られないらしいわ?」
「へー。つか再会から結婚が早くね?」
一番の疑問をぶつけつつ、八城と莉琉をスマホで撮る
最初のツーショットであることはあとから知らされた
「元々私は八城が好きだったわ?けど連絡が取れなくて、ただ初恋引き摺る残念な人になっただけでね」
「まぁ…それは悪いと思ってるよ。俺もずっと莉琉が好きで、仕事が落ち着いたら連絡取ろうとしてたんだ。その折アレで再会したから、トントン拍子で話が進んだんだ」
「そこまではいいんだ。けど俺がやる意味は何だよ?他に友達いないんか?」
「いるけど、久遠以外で最も近しい友人はお前しかいなくてな」
「ああ…そういうことか。他から反感買うだろ」
「呼ぶのは久遠たちと家族、それと夜斗と橘さんだけよ?」
「少なっ。友達呼ばないのかよ」
「招待状は出すが、ほぼ同僚としてだな。莉琉も同じだ」
「友人が同僚か…やりづらそうだ」
霊斗が同僚…と考えるだけでも身震いする
少なくとも、学校に無許可とはいえ2年間コンビニバイトをしている霊斗に接客で勝てる気はしない
「そこで夜斗なのよ。苦渋の決断ね?」
「歳の差結構あるぞ。あんたら22とかだろ」
「仕方ないわ?」
クスッと笑う莉琉の手は八城に握られている
それを見て若干羨ましいと思ってしまうのも無理はないだろう
「…まぁ構わんが、それくらいならメールで良かっただろ」
何が目的だ?と目で問いかける
八城と莉琉は顔を見合わせて笑った
「敵わないわ?」
「だな。もう1つ用件としてあるのは、ちっと面倒見てほしい奴がいるんだ」
「…?同棲するから一緒に暮らせってのは無理だぞ。できる限り橘が不安がることは消しておきたい」
「そう難しいことじゃないわ?八城の妹…
「漣…ああ、あいつか」
八城の妹はかつて夜斗のクラスメイトだったこともある
その時は不思議ちゃんとして広まっていたが、今なら理由がわかる気もする
(超天才美少女として新聞に取り上げられる漣。大学から進学を望まれ、伊豆長岡の大学に通うことが決まっている…だったか)
「簡単なことだ。たまに顔を出して話相手になってほしい。知らないやつよりは、旧知の者のほうが話しやすいだろう。漣は立場上妬まれやすく、無意識に負担になってるかもしれないからな。和らげてやりたいんだ」
「……」
少し黙り思考する夜斗
本来弥生と同棲が決まった時点で、SNSを始めとする女性関係は断ち切るつもりでいた
というのも、利害関係による同棲だとしても何かしら負担になると考えたからだ
「けど移動手段がないぞ」
「教師なめんな。お前が車とバイクの免許並行で取ったの報告きてんだよ」
「プライバシーもヘッタクレもないな…。けどどのみち機体がない」
「だから、これをあげるわ?」
莉琉がポケットから出したのはなにかの鍵だ
その鍵に刻印された文字を見て驚愕する
「ば、バイクの鍵!?どういうことだよ!」
「卒業祝いよ?私たち五人からね」
どうやら兄や舞莉とも連絡が取れたらしく、5人で出し合って買ったらしい
いつの間にそんな企みをしていたのだろうか
「け、けど俺の好みの車種だろこの鍵…いつの間に…?」
「神崎に聞かれただろ。乗りたいバイク」
「あ、ああ…だからか…」
少し前…といっても先週だが、夜斗は雪菜からきたメールに答えていた
たしかにその時、乗りたいバイクを聞かれている
それにしても手配が早すぎるだろう
「…バイク乗ったら校則違反だろ」
「それは揉み消してやるよ。他の教師に見つからず違反しなけりゃあな」
「…なんでそこまで俺にやるんだ?弟でも妹でもない、赤の他人に」
「他人じゃないわ?私たち5人からすれば、一番の友達で一番信頼してるもの。これくらいじゃあ足りないわね」
笑顔を向けてくる莉琉
どうやら自分が思っていたより、自分はこの5人にとって大切にされていたらしい
「…なら、ありがたく受け取っておく。依頼も受けるよ、元から断る気はないしな」
「そう言ってくれると思ったぜ。まぁ行くのは4月からでいいぞ、漣もまだ西部にいるからな」
県内で最も賢いと言われるのは西部女子高等学校だ
それどころか、全国から秀才が集まるのがそこである
しかしながら、そんな西部女子高等学校ですら浮くほど天賦の才を持つのが漣だという
「わかった。ちなみにバイクはどこにあるんだ?」
「久遠の実家にあるわ。しばらく止めてていいそうよ」
「じゃあ借りとくかな…。4月には同棲先に移す」
「伝えとくわ?」
莉琉に渡された鍵には交通安全のお守りがつけられている
それは成田山新勝寺という名前が入ったものだ
(成田山新勝寺…確か千葉県、だよな。そんなところまでお守り買いに行ってくれたのか)
一年で奉納するのがもったいないくらいに込められた想いに、小さく笑う
成田山新勝寺は交通安全において、最強としてネットに乗るほどの神社だ
「名義変更は4月でいいわ?今は私だから、時間が合えばいつでも」
「わかった。職場が三島だから、帰りがけにでも役所に寄る」
莉琉の勤務地は静岡県沼津市の市役所だ
実家からも、同棲先からも若干遠いが大した問題ではない
「ありがとね、夜斗。夜斗のおかげで八城と結ばれて、久遠とも再会できたわ」
「…礼は国に言え。うちの学校に莉琉がきたのは国が作った制度の説明なんだからな。八城と莉琉が再会しない限り、久遠が姿を見せることもなかったはずだ」
「けど、久遠からのメッセージを確実に伝えてくれたのは事実だ。だから俺たちは添い遂げることができたし、夜斗が久遠に気づいたから再会できた」
「それは…そうだが…」
鍵を握りしめる
ただの成り行きだ。夜斗が狙ってそう運んだわけではない
偶然の重なりを上手く利用しただけであり、少し罪悪感に苛まれた
そう考えるとこの鍵すらも、罪悪感を増長する呪いにすら思えてしまう
「偶然の重なりは必然だ。完全な偶然というものは、いくつも重ならない」
それは夜斗の口癖だ
八城に直接言った記憶はないのだが、どうやら雪菜や煉河に言ったのを聞いていたらしい
「……」
「ま、今は納得できなくていい。俺らの歳になれば嫌でもわかる」
「そう、なのか…?」
「多分な。ひとまず、飯にしよう」
ちょうど到着したトンカツ定食に横目を向けた八城は、少し笑っているように見えた
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