第3話

その日の放課前

授業を1時間潰して、契約結婚の説明会が行われた

やってきたのは市役所職員だと名乗る女性

容姿から察するに20代だろう

夜斗はその人物を知っている



「ニュースで知ってる人もいるかもしれませんが、事実婚の制度が契約結婚に名前を変えて再制定されました。これに伴い、事実婚…契約結婚扱いとなるのは10年から5年に短縮されています。手元の資料の7ページをご覧ください」



職員の指示を受けて資料を捲る

つい数分前に配られたものだが、すでに夜斗は何度も読み返し頭に叩き込んでいた



「契約結婚になると、国から補助金が出されます。また、いくつかの税金が免除または軽減されます。同棲と見做されるのは、男女一組が同じ住所に住民票を持っていること。平たく言えば、男女が同じ場所に住むと届け出ることになります」



つまり、ただ住むだけでは同棲とは見做されないということになる



「また、三等親では契約結婚扱いとはなりません。これについては婚姻に関する法律で定められてるものと同じです」


(そもそも5年以上暮らすからな、大抵。妹とかと契約結婚扱いになったら割と困る)


「ここからは質問を受け付けます。挙手してください」



挙手はない

夜斗もさしたる疑問点はない。というよりは興味がないのだ

一年後に同棲解消しようと思っている夜斗からすれば、今質問する意味は全く無い



「以上で説明会を終わります」



壇上から降りる女性を見送っていると、顧問が何か声をかけていた

遠すぎてあまり見えないため、夜斗は耳を澄ませることにした



(集中聴音)



周囲のざわめきを意識から外し、捉える音を少し離れた場所に変える

そして方向を限定して、顧問と女性の話を聞く



『相変わらず肝が据わってるな』


『貴方譲りよ。久しぶりね、八城やしろ?』


『久しぶり、だな。莉琉りる



顧問…八城は、夜斗の従兄の元同級生だ

そのため古くからの付き合いがあり、その交友関係もある程度知っている

その中でも、あの女性…莉琉とその関係者は夜斗とも仲がいい



『兄貴は元気か?』


『音信不通よ。舞莉まりも、久遠くおんもね》』


『俺も最後に会ったのは何年前だったか…。ああそうだ、夜斗に会っていくか?』


『そうね、いい機会だわ?』


(何故俺の名前を出した!?)



今名前の上がった二人と莉琉の兄も、夜斗と交流があった関係者だ

しかしある時からメールに返事がなくなり、電話も解約されてしまっており連絡が取れていない



『夜斗、聞いてるだろ。後でお前の家の近くにあるワクドナルドにこい。時間は18時半だ』


『あら、聞いてるのね。イケない子だわ?』


(バレてらー。了解)



顧問に向けて目を向け頷くと、満足げに立ち去っていった

どうやら見送りも顧問の仕事に入るらしい



(はぁぁぁ…。厄介だなぁ、あの2人は…)



心のなかで大きくため息をついて、解散となった体育館に一人残った



「…顔を出してやったらどうだ、久遠」



誰もいなくなったはずの体育館にそう言い残して、ゆっくりと立ち去っていった

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