第16話

 自家製の『癒善草』を使ったポーションを何度か使い、ハクの魔力が10を越えた辺りでなんとなく分かった効果の詳細だったが。


 『癒善草』ポーションを使うと、持ち前の魔力にプラスして上限を越えて増やす事ができる。

これは消費すると無くなるが、成長はステータスに反映するため、魔力の上限を上げる事ができる。

 つまりかなり無理矢理な方法で魔力を増やす事ができるわけだ。


「大変な物を作ってしまった。」


 実験の終わりと共に項垂れる俺の隣で、ハクが魔法を使って遊んでいる。

火や風を巻き起こしても魔力が尽きない事が楽しいのか、自家製ポーションを飲んでは魔法を使い、ポーションを飲んで魔法を使いを繰り返していた。


 飲んだポーションは魔力に変換されるわけでも、胃の中で消えるわけでもないので、多分近いうちに腹を下す。


「うっ!?お、お腹がぁあ!お腹ぁああああ!!!」


 ハクは突然、腹と尻を押さえて自宅へと走って帰って行った。

注意はしていないが、それ見た事かと言っておく。


 しかし、俺は出来あがったこの代物をどう処理するべきなのか迷っていた。

魔力の増強に使うにも、俺は十分にそれ以上の恩恵をもたらしてくれる精霊と契約をしているし、ハクも今回の件でポーションを飲むのは控えるだろう。


 だからと言って、近くの町で売っても良いのだろうか。

正直今の今までこんな物を作った人間はいない気がする。

 少なくとも、いたとしたら本に載っている。

 未だに使い辛い効果の『癒善草』ポーションなんて流通していない。


 いや、もしかしたらこの自家製ポーションの様な物を開発しているが、金額が高過ぎて簡単には手に入らないから多少不便でも『癒善草』のポーションを使っている可能性も。


『んー。魔力が増える様な効果のポーションは今の所エーテルくらいですね。大発明です!』

「ですよねー。」


 希望は断たれた。

これで残った道は売るか使うかだけになった。


「かと言って、俺は使っても意味が無いだろうし。」


 自分の魔力を自分に上乗せするというのは、できるのかどうか検証していない。

しかし、増加量がハクと同じ程度であるのなら、雀の涙程の、ちょっとの差だ。


『売ったら世界に大きな影響を与えちゃいそうだしね~。』

「そうなんだよなぁ」


 この薬によって、世界の魔法事情が変わり、全てとは言わずも八割以上の人類が魔法を使えるようになったら、きっと【無】属性も無能魔法とは言われないだろう。

 しかし、そうなってしまえば俺の目標達成のハードルは大きく上がる。


 未だこの世界に関しては無知だが、例えば他国よりも高い戦力を保有してしまえば、俺が英雄になることは不可能。つまりその道は断たれる。

 仮に英雄の道を目指したとして、それは戦国時代に最強と呼ばれた宮本武蔵並みの戦力と武勇伝が必要になる。


 そして、仮にこのポーションを広める事での偉業を目的としているのなら、恐らくは失敗に終わる。

俺の持っている魔力量は【精霊の加護】の+1000を見ても分かる様に、明らかに大きい。

 しかし、世界は広く、俺以上の魔力を持つ者もいるだろう。

そうなれば、俺はそいつの前座として、名前すら覚えられない者となる。


 俺が高いハードルに意気揚々と挑める人間だったら、あるいは迷わなかっただろう。

しかし、目的も定めていないうちから、そんな事をしても良いのか、俺は迷ってしまう。


『じゃあ、ただのポーションとして売ったら?』

「えっ?」

『魔力が増えるって効果は教えずに、ちょっと効き目が良いポーションって事で売ったらどう?元々その目的で作った訳だし、普通の薬草を使ったポーションと混ぜて売ったらそこまで気付かれないわよ。』

『俺も同意見だ。人間はステータスなんざ基本的に見ねェ。というか、ちょくちょく見ているのはお前みたいな異世界人くらいなもんだぜ。』


 パルエラとマキが言った事に、俺は目から鱗が零れる気持ちだった。

確かに、俺は訓練の実感を得る為に頻繁にステータスを見ているが、停滞した世界であるこの世界の住人はそこまで頻繁にステータスを見ない。


 つまり、混ぜて売れば問題無いという事か。


『発表するならもっと時間が経ってからでもいいし、バレるにしてもそう早くではない筈よ。』

「ふむ。なら、その方法をとっても良さそうだが。」

『だが?』

「別に普通の『癒善草』を使わずとも、全て同じポーションでも良いんじゃないか?」


 出所を撹乱する為にそういった意見を出したのだろうが、そもそもステータスを見ないなら発覚に時間が掛かり、出所なんてさらにその先だ。

 なら、魔力を消費する訓練に使える『癒善草』栽培も行い、同時進行でポーションを作れば良い。


『はは!良いじゃねェか、お前らしい選択だと思うぜ。』

「そうと決まったら早速取りかかるか。」


 俺は全身から魔力を放出しながら、『癒善草』の成長を促した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る