第17話
【無】属性魔法の『ボックス』の中には、およそ1000個のポーションが入っている。
その内100個が新型ポーション。他は既存ポーションだ。
これを、少しずつ町で売る。
定価が分からない以上、俺は勉強しないといけない。
「ちょっと遊びに行ってきます!」
「ええ、いってらっしゃい。」
父の仕事での外出からすこしして、いつもの時間がやってくる。
俺がハクと遊ぶ時間だ。
そこで俺はハクの家とは別の方向。
町に向かって走る。
体力づくりの一環だとは思っているが、早く終わらせないといけないため、【無】属性の魔力を足に纏い、高出力の走りを決める。
一歩一歩が広がり、速度も上がる技だが、狭い空間だとただのタックルマシーンと化す。
使いどころが限られる魔法でもあるだろう。
「FOOOOOO!!!」
今、俺は風になっている。
向かい風が体の温度を下げ、内臓は上下に、脳味噌は左右に揺さぶられ、全身を針が突き刺す様な感覚が走る。
無理矢理動かされている両足の裏は既に靴がすり減り、摩擦熱で発火しそうだ。
「すとーっぷ!!」
急激に止まった衝撃で、内臓が腹から飛び出しそうだった。
「ぐぼっ、ぐはっ、はっ、はっ!」
何度か咳き込みながら、全身の痛みに耐え続けて蹲った。
「この方法マジ死ぬ。二度目の人生終わるところだった......」
圧迫される内臓。
揺れる世界と燃える足。
この世の地獄と言える現象だった。
「もうすぐそこだからこのまま歩くか。」
体力がほぼ全て削られ、身体は激痛に見舞われているが、歩けない程ではなかった。
伊達に忍耐100越えではない。
ドロドロとした身体の感覚を味わいながら、俺は町に入った。
◇◆◇
町の中は意外と大きく、様々な店が並んでいた。
正直、二度目の人生初の町なので、大きく見えても仕方が無いとは思うのだが、子供らしく興奮せずにはいられなかった。
とはいえ、いつまでも目を光らせているわけにはいかないので、早速俺はポーションを売れそうな場所を探す。
ここが異世界の定番だというのなら、商業や狩人の為のギルドが有る筈だ。
が、今まで読んだ本にそんな職業は載っていなかった。
それでも、あの本が全部正しい訳ではない事も、世界の全てを書いている訳ではない事も分かっている。
そこは見て覚えるしかないだろう。
偏見や常識というのは新たな発見の妨げだ、事実俺は称号の条件に長い間気付かなかったのだから。
「お、見かけない坊やだ、おつかいかな?」
道の端に開かれた露店から、中年のオッサンが話し掛けて来る。
見た目の印象からは連想できないような優しい口調だ。
「はい、家でポーションを作ってるから、こっちで売ろうって。」
「そうかそうか。偉いね。ところで君の名前は何だね?」
「ノアです。」
「自己紹介が出来るのなら、五歳は越えているのかな?その割には随分な筋肉だ。力仕事を手伝ったりしているのかな?偉いね。」
偉い偉いと褒めてくれるが、何故だろう、違和感を覚えてしまう。
それにこの男、よくよく見ればどこかおかしい。
まず目が異様だ。優しく細めているように見えているのだが、これはどうやら本当に閉じているらしい。
そんな状態でよく俺の事を認識できたものだ。
それに露店の状態。
売っているのは簡単なアクセサリーなのだが、そのどれもが魔力の籠った代物だ。
「やっと気付いたかい。偉いね。」
「お前、何者だ。」
「いやいや、私はただの盲目の、君の仲間ってだけかな。」
仲間......転生者?
「私は魔王軍の諜報部隊の隊長。世界各地を回って転生者を探している。」
「それに見つかったと。」
「端的に言えばね。私は君をスカウトしに来たんだ。」
「断る。」
「悪い話じゃ......早くない?」
正直、魔王軍とか興味無い。
一週目から裏ルートに入るRPGが無いように、俺もそんな無粋は行わない。
何より、魔王軍とか意味が分からない。
「魔王軍は君の様な転生者を集めた集団さ。全員が君の様にチート能力を持ち、」
「あ、じゃあ俺チート能力持ってないんで、他を当たってください。」
「へぁ!?え、え、なんで?なんで持ってないの?」
このオッサン、言語崩壊ぶりが半端じゃないな。
余程混乱したのだろうが、俺の居場所を知る事ができたのなら、それくらい知っていそうなのだけど。
「こ、こんな停滞した世界なら自由に破壊したり、女を囲ったりしたいと思うだろ?」
「いや、全然。ゲーム性の違いに文句があるのなら他のゲームをすれば良い。ここはこういう世界なのだから、郷に入っては郷に従え。ドラ○エをしているのに、グラ○フの様な破壊活動をするなんてナンセンスだ。まあ勇者はすぐに空き巣をするけど。」
やれやれ、こいつらにも事情があるのだろうが、今の少しの会話だけで、なんとなく分かった事がある。
「お前ら、クリエイティブモードでフルダイヤの滅茶苦茶
「......は?」
「すまん。昔の癖だ。とりあえず、お前らに構っている程俺は暇じゃない。世界征服ごっこがしたいなら構わないが、俺の生活圏で暴れるなら俺はお前らの敵だ。」
どうやら、NPCキルが大好きなヤツらなのだろうが、俺はそういうルールブレイカー気味なやり方は好きじゃない。
たった一人のキャラクターが死ぬだけでも泣くんだ。好き好んで殺す訳が無いだろう。
「今ここで君を排除することもできるが?」
「だからなんだキッズ。のこのこと自己紹介をしている間に、俺が何もしていないとでも?」
ご高説の間、俺は男の全身を魔力で覆っていた。
いつでも目の前の男を八つ裂きにできるように。
PVPは別に気にしない。
「ふっ、どうやらタダ者ではないらしい。チート能力を持っていなくてもここまでの魔法を使えるとは。きっとこれからも我々は君に接触するだろう。」
「そうか。敵対するなら邪魔をするし、俺の生活を乱すなら戦う。俺の目標を邪魔するつもりなら、迷い無く殺すからな。」
「そうかい......ところで、君の夢は?」
「この世界の完全攻略。差し当たって、今は全ステータスのカンストが目標だ。」
俺の言葉を聞いて、男は高笑いする。
何か可笑しい事を言っただろうか。
「そうかそうか。頑張ってくれ。俺が知る限りでは、999はカンストじゃないぞ。」
「それは知ってる。」
「へぁ!?......え、えっと、じゃあ、これ解いて?」
驚きと気恥かしさからか、情けない声で魔力の解除を乞う男。
こういう場面では普通、拘束を抜けて瞬間移動をすることによって、相手との力量差を見せつけるだろう。
「じゃ、じゃあ、また。」
「ああ、またな。」
手を振って歩いて行く男の背中を見て、俺は複雑な心境のまま反対方向に歩いた。
道草を食ってしまったが、俺の目的はポーションの売買であって、転生者探しではないのだ。
気を取り直して行こう。
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