第15話
ポーションを作るのに必要なのは、水と薬草と瓶だ。
蒸留された水か、濾過された水。
しっかりと洗った薬草。
ガラスの瓶が望ましい。
そこで、俺は『サイコキネシス』で無理矢理圧縮しまくった鍋に水を入れ、古典的な蒸留の方法を取った。
ある程度なら濾過もできたのだが、完全な飲み水にするには炭が欲しい所だったので、後に回した。
比較的古典的な方法でも、ガラスを持たない俺には相当難しい問題で、結局複数の鍋を『サイコキネシス』で持ったり、『サイコキネシス』で蒸発した水を掻き集めたりした。
さて、次に薬草だが、今回は無難に飲んで良し掛けて良しの薬草『癒善草』を使う。
そこら辺に生えている生命力と繁殖力の強い植物で、地球で言うならミントに近い物だろう。
かと言って、この世界ではそこまで園芸というモノが盛んではなく、『癒善草』を駆除するのは本業の農家くらいだとのこと。
その為、簡単に手に入るのだが、質が問題だった。
『癒善草』は意外と謎が多く、色々な本や、姉が置いて行った学校の教科書を読んでみても、その性質を詳しく解明しているモノは無かった。
むしろ、放置していても育ち、勝手に広がって、人体に有益であるのなら、それで良いと言うのがこの世界の基本なのだろう。
気に食わない。
あるモノをそのままに受け入れるのは良い。
だが、それを探求し、より効率的で合理的な結果に結び付けないのは腹立たしい。
「そのため、この『癒善草』の性質についてある程度研究をする。」
まず、どの部分に治癒の効果があるのか、飲んでも掛けても良いのは何故なのか、質の良い『癒善草』を栽培するにはどうすればいいのか。
昔やっていた牧場を経営するゲームでは、肥料をやれば勝手に野菜や果物が成長していた。
だが、この辺りには牛フンや鶏フンを使った農業は無い。
おそらく、移動距離での問題や、そもそも肥料というものが無い可能性もある。
そのため、1から肥料を作るのは本当に時間が掛かるので、ここで一つの材料を使う事にする。
その説明の前に、『癒善草』について、ある程度分かった事を言おう。
『癒善草』は魔力を活性化させる薬草だ。
飲めば体内の魔力が活性し、掛ければ患部の魔力が活性する。
その事に気付けたのは、俺が『癒善草』を使った時とハクが『癒善草』を使った時の効果にあった。
精霊の加護も含め、圧倒的に魔力が多い俺は、今の質の悪い『癒善草』でも、縫合が必要な傷までなら治すことができる。
しかし、ハクが使った場合は、簡単なかすり傷でもそれなりに掛かる。その差は自然治癒と大差ない程で、四六時中薬草を取り換え続けてやっと2倍の治癒力が見られる程度だ。
ハクの現在の魔力は5。
1年前よりも2だけ増えた。
俺がおかしいだけで、これでもハクの魔力の成長度はすごい。
称号【幼児】はその全ステータスを90%ダウンさせるので、それだけみれば、ハクはたった1年で20もの魔力を身に着けたことになるからだ。
さて、閑話休題。
ここで注目するのは、魔力を活性化させる『癒善草』の効果は、万人に等しいという訳ではないということ。
つまり、俺が目指すべきなのは、どんな人間にも抜群の効果を発揮するポーションという事だ。
そこで、例えばの話だが、『癒善草』が元から活性化する魔力を持っていればどうだろう。
人の体の魔力を使わずに、『癒善草』に内包された魔力から人体を治癒できれば。
そう思った俺は、すぐさま庭の一角に畑を作った。
『癒善草』を植え、その近くに一つの穴を開けた。俺の手が一本入る程度の大きさの穴だ。
そんな俺の発想は、予想を遙かに超える形で裏切られる。
俺の薬草を使った実験は、1日で終わった。
『癒善草』が、ものの10秒程で育ったのだ。
グネグネと伸び、葉を広げ、周りにも徐々に増える。
魔力を与えた『癒善草』は、魔力を内包するだけでなく、とてつもない速さで成長した。
そこから採取した葉でポーションを作り、『サイコキネシス』で空中に保持した。
宇宙での水の様に、水玉が波を打ちながら、幻想的に浮遊している。
そんなファンタジックな光景を、俺は無視した。
すぐさま『サイコキネシス』で腕を切り、その箇所にそのポーションを掛けた。
できたばかりの傷が、見る見るうちに治癒される。
それは今までと同じ。ではハクならどうだろうか。
俺は今朝、ハクが転んで膝を擦り剥いたと聞いた。
ハクにポーションを試す為に、全力を出して走った。
◇◆◇
結果だけを言うと、大成功だった。
魔力を持った『癒善草』は、多く魔力を持たないハクの怪我を治癒させてみせた。
しかし、その成果はそれだけではなかった。
そう、ハクのステータスの魔力だけを見る。
◇ ◆ ◇
魔力5(+10)
◇ ◆ ◇
なんだこれ、(+10)ってなんだ。
+の文字に見覚えが無いわけではない。
俺が精霊の加護で得た魔力+1000。
しかし、ハクは精霊と契約をしたわけでも、まして俺が精霊というわけでもない。
ポーションを飲んだだけでステータスが上がる。
これはまさしく、あのレベルだけを上げる飴の様な代物だろう。
「ハク、魔法を使ってみてくれ。」
「ん?ああ!やってみる!」
ハクは俺の真似事で、一度『サイコキネシス』を成功させている。
その才能には驚かされたモノだが、その後魔力切れを起こした為、俺が禁止していた。
それを許可されたからか、ハクは嬉しそうにして木剣に手をかざす。
「ふんっ!!」
力み方が体育会系だが、魔力は感じる。
じっくりと見ていると、木剣は数センチだけ宙に浮いた。
「おおっ」
「ばっ!!はぁー、はぁー......」
『サイコキネシス』中、ずっと息を止めていたのか、顔を真っ赤にさせながら、ドヤっとした顔でこちらを見る。
大変可愛らしいのだが、それは置いておこう。
「さて、ステータスを見てみよう。」
「うん!!」
ハクは胸を張るが、聴診器は当てない。
ハク自身が開いたステータスを覗くだけだ。
◇ ◆ ◇
魔力6
◇ ◆ ◇
ん?
魔力の横についていた(+10)が無くなって、魔力が5から6になっている。
これはどういう事なんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます