廃校の戦い
閑話休題。
小さな町の跡と思われる廃墟と、その先には廃校が見える大通り。
「あれがこの島の廃校……尊くんと落ち合うハズになっている場所だね」
「うん。……無事だといいね」
廃屋の探索を続けると、麗奈ちゃんは支給品と思われるエネルギーバー二本と水の入ったペットボトルのセットを二つ発見する。
麗奈ちゃんはその片方を僕に分けてくれた。
食糧も水分も乏しかった僕達は、廃校へ向かう途中でそれらを食べ切ってしまった。
廃屋に残っていたトイレで用も達し終え完全に準備を完了した僕と麗奈ちゃんは、ようやく待ち合わせ場所である廃校へと辿り着く。
しかし、そこに尊くんの姿は無かった。
「尊くんは……まだ来てないか」
「そうだね……でも、瓦礫が流れていった方向からすると、一旦港の方まで行って遠回りすることになるから……まだ、着いてないのも仕方ないんじゃないかな?」
「それもそうだね。じゃ、しばらく待っていようか」
「……ねえ、環くん。人……いない?あっちの方に」
「え?どこ?見えないけど」
校庭に残っていた鉄棒に座って尊くんを待っていると、麗奈ちゃんが何やら妙な事を言い始めた。
麗奈ちゃん曰く、電波の発信源を探す能力を応用して、スリープ状態のスマホから「僅かに発された電波」を感知し、「自分達以外の発信源が二つ、出所を感知できる範囲の外」にあるという事を認識したのだという。
そして数分後。
案の定、その人影は廃校へと足を踏み入れた。
「隠れといて良かったね」
「……だね」
予め、「資料室」と書かれていた教室の中へ身を隠していた僕達は、見るからに殺気立っている二人組の様子を窓から観察する。
二人は、何やら話を始めたかと思えば、男の方はあっという間に、かつて森で僕に襲いかかってきたトカゲ人間と化した。
「あ、あれ!あの女の子、変な夢の中で見た人!」
「麗奈ちゃんを『おかしく』した超能力者か……。それにトカゲ人間の方……。間違いない。麗奈ちゃんと合流する直前、森の中で僕を追いかけ回してきたトカゲ人間だ」
「えっ!?環くん、あのバケモノと会ってたの!?」
「ちょっと待って声デカいよ麗奈ちゃん」
次の瞬間、トカゲ人間の視線がこちらへ向いた。
「「……バレた」」
「ミツケタゾ!浮美!背中ニ乗レ!」
「ええ!アイツらを追いかけて、翔太郎!アンタと会った男の方が、おそらくアタシが今まで『理解』していない唯一の生存者!ここで取り逃がす訳にはいかない!」
「言ワレナクテモ!……ソウ言エバ浮美、オマエ……女ノ方ニハ痛イ目ニ遭ワサレタヨウダナ?」
「ええ。女の方は、『
「ヘェ。ソイツハ手強ソウダ!」
トカゲ人間は、地に伏した状態で高速移動を始める。
壁を登り、窓ガラスを叩き割り、あっという間に二人は資料室へとやってくる。
それは、彼らが走り始めた瞬間に動いた僕達が教室から廊下へ出るまでと同じ時間で行われる。
圧倒的なスピード、圧倒的なパワー。
そして、渇き以外の環境にはある程度対応できる適応力。
それが、かのトカゲ人間の力。
森の近くに建てられている廃校は、屋内外を問わず湿っぽい。
「うわあああああああっ!?何アレ!?いくら何でもバケモノ過ぎるよ!」
「足は速いし怪力だし!どうすりゃいいんだぁぁこんなの!!」
「尊くん、大丈夫かな!?」
「……結構待って、向こうから敵も来て……それなのに、まだ来てない尊くんが無事だと思う?」
「……っていうことは」
「ダメ、だったんじゃないかな」
文字通り、犯人の正体見たりである。
トカゲ人間の爪が、俺達の希望ごと朽ちた校舎を破壊していく。
「グオオオオオ!!」
「「ひいいいいいいいい!」」
僕と麗奈ちゃんは、壁や下駄箱を盾にして攻撃を紙一重で避けながら、何とか校庭へ出る。
しかし、その途中で麗奈ちゃんはスマホを落としてしまったらしい。
それは即ち、麗奈ちゃんは他人に依存しないで能力を活かすことができる道具を失ってしまったということを意味する。
「無駄よ。アンタ達は、大人しくアタシ達の前に倒れるの。……あの共感能力者みたいにね」
「やっぱり、お前が!」
「やったんだな……ッ!」
何か、何か対抗手段はないものだろうか。
何とか逃げることには成功したものの、終始僕を圧倒したトカゲ人間と、義経との戦いの後、見張りも兼ねて外を散歩していた麗奈ちゃんの精神を、一時的にとはいえ狂気に陥れる夢を見せた少女。
まさか、その二人が共闘しているとは。
最悪だ。
この状況に尊くんが来てくれたら、捨て身ではあるが状況は好転するかもしれない……などと淡い期待を抱きつつも、実際に尊くんが来てくれたところで、一回でも殴られてしまえば、それが死に直結しかねない二人を前にしているのだから、そう上手くはいかないだろうという絶望が脳裏をよぎる。
「【コイントス】!」
僕は走りながら、投げ捨てるようにコインを手放す。
結果は表。
「……これでも、天命は僕の味方をしてくれてるみたい」
「追いつかれそうだけど……ヒッ……」
もはやここまで、万事休すである。
運にさえも見放された僕達は、とうとうここで死ぬのだ。
僕の肩甲骨に、とうとうトカゲ人間の爪が触れる。
「環くん!伏せて!」
「へぇ!?」
もはや冷静に物事を考えることができない僕は、そのまま転ぶように伏せることで、何とか背中を傷つけられる程度で済んだ。
そして、その瞬間。
「【
麗奈ちゃんの判断力に関心する間も無く、彼女はその姿を雷と化してトカゲ人間を吹き飛ばした。
「ガ、ハァ……!」
「何ッ!!?しょ、翔太郎!?」
夢の能力を使う少女は、トカゲ人間が吹き飛ばされる瞬間に背中から飛び降り、地面を蹴って何度か宙返りをすることで衝撃を殺す。
一体、何が起こったのか分からない。
あの麗奈ちゃんの奇妙な姿は何だ?
それにトカゲ人間を吹き飛ばした、落雷のような力。
「麗奈……ちゃん……!?」
「ハァ、ハァ……!土壇場だったけど成功して良かった!どうだ見たかっ!これが私の力だーっ!」
例によってワープしたのだろう、校舎の中から飛び出してきた麗奈ちゃんが叫び声をあげる。
「何今の!?」
「さっき、あの二人を『飛んでくる電波』から探知したでしょ?アレみたいな感じで、さっき、折角スマホ落としちゃった訳だし……今までみたいに落としたに瞬間移動するんじゃなくて、『電波に乗っている自分を電磁波の塊として実体化』すれば、こうして超スピードで殴れるんじゃないかなって思って!そろそろ能力にもイイ感じに慣れてきたし、こういう使い方もしていかなきゃね!」
「すごい……!このパワーがあれば、きっとトカゲ人間にも勝てるよ!」
「まっかせて!水は電気をよく通すからね、相性バッチリだよ!」
麗奈ちゃんはゆっくりと歩き始め、トカゲ人間が倒れているジャングルジムを挟み、僕と向かい合うように立った。
「グゥ……!ナ、舐メヤガッテエエエエエエエエエ!!」
トカゲ人間は麻痺している身体を叩き起こし、瞬く間に麗奈ちゃんとの距離を詰める。
「【
「ゴアアア!!」
しかし、麗奈ちゃんは僕のスマホへ高速移動しながら電磁波として姿を現し、そのままトカゲ人間の腹部を抉るように殴りつける。
「ひひひ……身体中湿っぽいトカゲ人間に、電磁波のパンチは効くでしょ!」
「ク、クソ……!!」
「このままトドメの一撃を決めて、全身を麻痺させる!尊くんの恨み、晴らさせてもらうよッ!」
「フ、フゥゥ……!甘イワァッ!喰ラエッ!」
「なっ……!?」
翔太郎は全身を使って、付近の砂を巻き上げる。
「砂ハ電気ヲ通サナイッ!コレナラ、オ前ノ『
多少の金属が含まれているとはいえ、石や砂の類いは電気を通さない。
翔太郎は地面を掘り起こして石と砂を大量に巻き上げることで、麗奈ちゃんの高速移動を妨害したのだ。
「……そうだね。地頭の問題だけでも、確かに有利だね。……私の方が、だけど!【
しかし麗奈ちゃんはそれをラッシュで落とし、さらに距離を詰める。
「ナ、何故ダッ!オレノ巻キ上ゲタ砂ノ量ハ、超スピードデ何トカナル話デハ無イハズ……!」
「いいや……これは砂じゃあない……。『泥』だよ!泥!」
「ド、泥……ダト……!?」
「そう、泥!君……二回も電撃を喰らっておいて、自分の身体がビッショビショなの……知らない?」
「……ハァッ!?」
翔太郎は今、トカゲ人間の姿に変身している。
そして当然ながら、その肌はブ厚いの水の層でコーティングいた。
「翔太郎!逃げて、翔太郎!アンタとこの女は相性が……!」
「黙レ!!オレハ……コイツヲ越エナケレバ!『ヴィラン』ハ!負ケルトワカッテイテモ!決シテ引カナイ!コレハ!超エルベキ試練ナノダアアアアアア!!」
三度、立ち上がるトカゲ人間。
「やっぱり、有利なのは私の方だよ。能力でも、地頭の方でも!!!【
しかし、校舎へ落としたスマホへと高速移動する麗奈ちゃんは、またしてもすれ違いざまにトカゲ人間の全身へ、一瞬にして数百発の拳を叩き込んだ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!」
全身に電気が駆け巡る。
最後の一撃が、彼の心臓を破裂させたのか。
トカゲ人間は全身から血を吹き出した状態で海へと吹き飛び、そのままその身体は波に呑み込まれてしまった。
~水無 翔太郎(レプティリアン)、心不全により死亡~~
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