撃沈

浮美うみ」と呼ばれた少女を乗せ、トカゲ人間は港町跡を駆け回る。


どこから狙われているのか、眼前にて何度も空間が歪み、その度にコンマ数秒単位での余裕しか与えられない回避を強いられていた。


「グゥゥゥ……!」


「翔太郎!大丈夫!?結構運転荒いけど!」


「シッカリト掴マッテイロッ!落チタラ顔面ガ擦リ切レルゾ!」


「了解!」


バイクのように、高速で地を這いまわりながら敵を探す翔太郎。


それに振り落とされないように、浮美は必死に翔太郎の背に掴まった。


「ドコダ……敵ハドコニイル……!」


家々の壁を破壊しながら、翔太郎は町を徘徊する。


「粉塵が……」


粉々になるまで砕かれた木やトタンが、辺りに塵を撒き散らす。


浮美は目を瞑り、鼻と口を翔太郎の背中に密着させて防御体勢ををとった。


「グアッ!」


公民館であったらしき家屋の窓を突き破った際に、どうやらその動きを読まれていたようだ。


翔太郎は窓際に発生した歪みに体勢を崩されてしまい、大広間に並んでいた埃塗れの壺を破壊しながら転倒。


「うあッ!」


背に乗っていた浮美も空間の歪みに吹き飛ばされて激突してしまった。


「浮美!」


「アタシは大丈夫。それよりも気を付けて。おそらく、アタシ達の位置は向こうにバレているッ!」


次から次へと、公民感の中で空間の歪みが発生しては消え、発生しては消えてを繰り返している。


そして、それは二人がこの公民館のどこにいるかまでは掴めていないということを意味する。


「敵……敵ハドコカラオレ達ノ動キヲ見テイル……?」


「どこかの高台と考えるのが妥当ね……!北にある廃校か、登山道か……或いは、アタシ達から逃げながら廃墟を回っている……とか」


「高台ヘ向カウゾ!乗レ、浮美!」


「ええ、お願い!」


浮美は翔太郎の背に乗り、歪む空間を切り抜けながら公民館を抜け、崖を登っていく二人。


その間も、大雑把ながら狙いを定められている空間の歪みは常に襲ってきていた。


「ドコダァァァァァァァァ!」


崖を登り、翔太郎は高台のへりへと手をかける。


しかしその瞬間、崖際に新たな空間の歪みが発生した。


間一髪、上に乗っていた浮美は反射的に高く飛び上がった勢いで歪みの範囲内から抜け出したが、翔太郎の方は激しい揺れにまたしても体勢を崩され、崖から突き落とされるかたちで崖下へと落下していってしまった。


「翔太郎!!」


「グアアアアアアアアアアアアア!!」


崖に胴体を擦り付けるようにして落下することで勢いを殺し、何とか絶命こそは避けられたものの、岩ばった崖に腹部と胸部を傷つけられ、さらに軽減したとはいえ落下のダメージで全身を打撲してしまった翔太郎。


異常なまでに頑強な肉体と治癒力をもつトカゲ人間とはいえ、もはや彼に動く力は残っていなかった。

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