ザ・クエイク
激しい横揺れに三半規管をやられてしまったぼくは、地面に倒れ込んだまま立てずにいた。
「う、うぅ……た、立てない……!?」
「俺の能力は『ザ・クエイク』。こんな風に空間を絞って、そこにブレを発生させる能力……いやー。あの山を丸々一つ揺らすのは流石に骨が折れたよ」
「う、ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぅ……!」
目が回るどころではない。
宙へフワリと浮かんだ肉体を無理矢理捻じ曲げられているような、そんな攻撃を受けている。
「さぁ~て、どう調理しようかな。折角のかわい子ちゃんだし……『アリ』、かな?」
「無いよっ!た、助けて……!」
「フフン、助けは来ないよ。……やれやれ。申し訳ないけど、手っ取り早く死んでもらおうかな」
「そんな……!ぼく、は、妨害者じゃあ、ない、のに……!」
「その言葉を信じてあげる根拠は残念ながら見当たらないんだよね~、ごめんね」
「きょ、【
軋む肉体の損傷を神門にも共有させようと、力を使おうとするが……。
「フンッ!」
「ぐ、ぁぁ!」
顔を踏みつけられ、発動に必要な能力名を唱えることもままならない。
「キミの能力が何かは知らないけど、使われたら間違いなくロクなことにはならないって事くらいは、流石に俺でも理解できるよ」
「う、うぅ」
「こうして言葉を封じれば、キミは能力を使えないハズなんだよ。何でって、俺がそうだからね」
「あ、あがっ!ああ……!」
顎を打撲してしまっているのか、踏みつけられる度に激痛が走る。
口内の違和感は、既に歯が何本か折れてしまったせいだろう。
「さぁて、トドメといこうか」
出血している口内からは絶えず血液が溢れ出し、視界ごとブレる周囲の空間は、とうとう全身の感覚をも奪い初めた。
「あ、あ……」
もはや彼の姿さえもほとんど見えないが、その手元にはキラリと光る何かが握られているのは分かる。
「さよなら、結局、君の名前も知らないで殺すことになっちゃいそうだけど……俺のことは恨まないでね」
「……し、しん……あ……」
ダメだ。
能力どころか、視界、視界どころか意識がもはや保てなくなってしまう。
あの二人の元を離れた時点で、ぼくの命運は尽きてしまったのだろうか。
「フンッ!フンッ!フンッ!ハァッ!!」
両手首、両足首に金属片を突き刺され、引き抜かれたその跡からは血がドクドクと流れ出ていることを、今際の肉体をそれでも維持しようとする神経が伝えてくれる。
続けて腹部、胸部に風を感じた。
一気に全身に力が入らなくなる。
空間の歪みが続いているのか、或いは能力を解かれているのかさえも、とうとう分からなくなってしまった。
これが「ザ・クエイク」の力。
どこかで聞いた事がある。
日本で多く発生する大地震は、大抵が人為的に起こされたものであるという陰謀論。
そして……これは、おそらくその名を冠するに値する力をもつ能力。
この人とは戦ってはいけない。
殺し合いが終わるまで、これからも降り注ぐ隕石のように引き起こされるであろう地震から逃げ続けるしかない。
このことを、二人に伝えなければ。
しかし……。
「……ぇ」
とうとう、ぼくの身体は限界だった。
ダイイングメッセージを残そうにも、もはや指の一本でさえも動かなくなってしまったのだ。
「さようなら。次は落ち着いて話せる状況で出会いたいね」
これは……魂が抜けているのだろうか。
血みどろで倒れている自分の肉体が見える。
ああ、これが……死か。
これから、ぼくはどこへ行くのだろう。
天国、或いは地獄だろうか。
それとも、このままどこかへ消えていくのか。
ぼくには分からない。
今度こそ、本当に意識が薄れていく。
もし一つだけ、願いが叶うのならば。
環きゅんと、麗奈ちゃんと一緒に……互いに生還を祝って、肩を組み、笑いたかった。
出会ってからは間もないが、大切な二人と……心の底から笑いたかった。
この世界に未練など無いと思っていたのに、ここにきて、未練ができてしまうとは。
ああ、そうだ、そうだというのに。
こんなにも、ぼくはあの島から離れてしまった。
今の自分に肉体は無いが、全身に喜びと快楽が満ち溢れるような感覚を覚える。
「さようなら、環きゅん、麗奈ちゃん。それと……ぼくのことを友達だと思ってくれていた、高校の皆……。長生き、してねぇ。ぼくがこれからどこに行くかは分からないけどぉ……あんまり、早く会いに来ないことを……オススメしたい、な……」
そして、ぼくは無い口を動かすように最後に呟いた。
~
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