大地震の違和感
翌日未明。
生き残りをかけた島での戦いは、僕の目覚めた日が一日目であると仮定した場合でも五日目に突入し、生き残っている人間は少なくとも妨害者含めて6人。
生存者及びその可能性がある人物の内訳は僕、麗奈ちゃん、尊くん、そしておそらくトカゲ人間と夢を見せる能力者に加えて、現段階では一切の素性が不明な一人と、「ディープ・ステイト」の義経。
この時点で僕達が義経の死に気付いていないのは、主催者が生存者に脱落者の情報を一切与えていないためである。
生存者同士が出会いにくい広めの島で、妨害者の存在によって生存者同士が信頼しにくい状況になっているというのに……。
本当に、何のためのスマートフォンだというのだろうか。
仲間との連絡にしか使えないスマートフォンを、仲間をそう簡単に作ることができない状況で支給する主催側の意図がイマイチ理解できない。
今のところ、時計と麗奈ちゃんの力を使うための投擲アイテムとして以外にスマートフォンを使った覚えが無いのだ。
そのスマートフォンを起動して、メニュー画面に表示されている時計を見る。
時刻は午前六時丁度。
僕達は、拠点の移動も兼ねて食料を探しに神社を降りることにした。
襲撃を受けたにもかかわらず長い時間同じ場所に留まっているのはケムトレイルの例にならってよろしくない。
階段を降り、森に戻って、神社へ向かう途中で無視していた分かれ道を進む。
明確に神社を目指していた時とは違い、進む道にこだわりは無い。
数時間にも渡って、相も変わらず鬱蒼とした山道を歩いている。
「「「つ、疲れたぁ……」」」
ところどころで木の根が盛り上がっていたり、枯れたツタが地面に落ちていたりと、道はこれまで以上に悪い。
僕達は何とか平地になっている場所を見つけて倒木に腰を下ろし、しばらく休むことにした。
「お腹……減りましたねぇ」
「だね……栄養バーもパンも尽きちゃったし……ふぁぁ」
腹部に手を当てて肩を落とす尊くんと、大きなあくびをする麗奈ちゃん。
「水も無いし……喉も渇いたね」
そして僕は今、付近に水源など無いものかと周囲をうろついている。
煮沸もせずに水源の水を
脳が飢え、渇いている。
生きていることが困難かといえばそれ程ではないが、普通に社会生活を営むには厳しい程度ではある。
特に渇きが、渇きがかなりの障害となっている。
しかし、見回せど見渡せど水は見当たらない。
能力者と戦って負けるだとか、運営の罠に引っかかって死ぬだとかであれば百歩譲って仕方が無いとして、流石に森林の中で干からびるのは御免である。
……僕達は、そろそろ限界であった。
昨晩のパンで腹の方は何とかマシにこそなっているものの、水があまりにも足りな過ぎる。
「「「……はぁ」」」
冷静さを失った僕達は、ついに全員切株に座って途方に暮れていた。
しかし、どうやら運はさらにこちらを見放すどころか突き放したようであった。
鋭い日光が差し込むように、視界が一瞬、無理矢理何かに区切られるように歪む。
「な、何だい、この振動は……!?」
「そんなぁ!このタイミングでですかぁ!?」
地面が、視界が、自分も含めた辺りの全てが、ガクガクと縦に上下し始める。
「地震だーーーーーーっ!!」
異常なまでの縦揺れ。
おそらく震度六は下らないであろう地震が、僕達と他の生存者達を襲った。
地面はひび割れ、つい数時間前まで居座っていた神社の境内を構える崖からは水が溢れ出している。
僕達が立っていた土の上もどんどんぬかるみ始め、このままでは立つこともままならなくなってしまいそうだ。
数十秒が経過、未だに激しい揺れは続いている。
最悪、この山ごと崩れ落ちてしまう可能性もあり得る。
「麗奈ちゃん!環くん!手を!」
僕は二人に手を伸ばし、麗奈ちゃんは無事に両手で左腕に掴まった。
「うんっ!よい、しょ……っと!」
しかし尊くんの方は、僕の腕を掴もうとした瞬間にぬかるんでいた地面が一気に崩れ去り、僕が限界まで伸ばした右腕にも届かない距離にまで滑り落ちてしまった。
「尊くん!」
「環きゅん!ぼくはもう無理ですぅ!そこまで戻るのは、もう……!ぼくはぼくで適当にその辺を歩いて何とか追いつきますから、二人も安全な場所に!」
揺らぐ岩の上に立ち、大声で叫ぶ尊くん。
確かに、かたやぬかるんで崩れ落ちそうな土の上、かたやガタガタと揺れながら濁流に巻き込まれそうな岩の上。
何とかしてここから手を繋ぐのは無理そうだ。
「……分かった!じゃあ、『廃校』で落ち合おう!」
「尊くん!絶対、生き残ってね!」
「わかりましたぁ!二人とも、ご無事でぇ!」
そう言うと、尊くんは今にも砕け散りそうな岩から飛び降りて濁流を漂う倒木や瓦礫の上を飛び石の要領で渡り始め、視界から消えていってしまった。
あの分なら、尊くんは生き残れそうだ。
心配する必要は無いだろう。
「麗奈ちゃん!足元は大丈夫!?」
「今にも落ちそうだよっ!この辺りの地面も危ないかも!」
僕はぬかるんだ地面からズルリと滑り落ちた麗奈ちゃんを引き上げ、ところどころ崩れ落ちる地面を飛び越えながら山っていき、やがて廃村へと辿り着いた。
「はぁ、はぁ……」
「死ぬかと思ったよ……?あれ?」
ついさっきまで歩いていた山道に瓦礫が崩れ落ちる。
神社も、道も、その全てが跡形も無くなってしまっていた。
この惨状が、島を襲った地震の力を物語っている。
しかし同時に、その風景は僕達に一つの違和感をも覚えさせた。
「この廃村……何で壊れてないんだろう?」
「やっぱり、気になったよね!?」
僕達が、山を下りてきた先をすぐに「廃村」だと思うことができた理由。
それは、廃棄された家屋や建造物の数々が、まるで地震の影響を受けたとは思えない程に形を残していたためである。
崖を崩し、川に瓦礫を溢れさせ、山を溶かしたあの地震が、廃屋のボロ屋を破壊できないハズが無い。
では、何故こう何事も無かったかのような、ただのボロ屋が残っているのか。
仮に震源が山の真下に位置していたとしても、この島は場所によって地震の威力に差異が出る程に広くはない。
ここで考えられる仮説は二つ。
一つはこの廃村が殺し合いの為にステージとして作られたハリボテであるため、実は耐震性が強い、という説。
しかしこちらの説は、そもそも正々堂々とした超能力者同士の勝負も求められていなければ、おそらく全員が生き残ることを期待されている訳でもないこの殺し合いにおいて、わざわざそんなハリボテ廃村を用意する意味があるのか分からないため、考えにくいだろう。
となれば、もう一つの説。
こちらは、「地震が起きたのは山の中だけである」という説だ。
山は普通に立っていることも困難な程に揺れたが、バリアや他の能力など何かしらのタネや仕掛けによって、少なくとも激しい揺れは山の中だけに収められた……と、そう考えれば、この奇妙な地震には説明がつく。
「……麗奈ちゃん。ちょっと、村を調べてみない?」
「賛成!食料もあるかもしれないしね!」
この村に何か細工がしてあるのであれば、少し探せばその仕掛けとやらはすぐに見つかるハズだ。
それにどの道、僕達は廃村に残っている建造物の中で最も山に近い「廃校」で、尊くんと落ち合う約束になっている。
僕と麗奈ちゃんは繋いでいた手を離し、それぞれ一戸ずつ、すっかり蜘蛛の巣が張り巡らされた廃屋を探索することにした。
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