一矢

僕は眠った二人を守りつつ、ラジコン飛行機のような何かを何とかしなければならない。


しかし何か打つ手があるかと言えば、そんなことは無い。


今の僕にできるのは、ただ迫る飛行機を殴るなり蹴るなりして軌道を逸らすこと。


「【コイントス】!」


僕はコインを弾き、飛行機との距離が離れている間にキャッチ。


向きは……裏。


どうやら運は僕の味方をしてはくれないらしい。


「来る……!」


不運によるアクシデントを警戒し、再び拳を構える。


そして。


「それっ!」


拳は命中し、三度みたび、飛行機はこちらとの距離を離した。


「……っ?」


しかし、それと同時にこちらへと強風が吹きつける。


それに乗って、ラジコン飛行機が作った雲はこちらへと流れてきた。


妙に粉っぽい、ふわふわと浮かぶ黄色の飛行機雲。


そして、僕は鼻の前へ飛んできたそれを思わず吸い込んでしまった。


「ゲッホゲホォ!ガハッ、ゴッ、ゲハァッ!」


鼻腔から食道へ、そこから胃、腸を介して全身へ。


瞬く間に、その粉は全身を蝕む。


身体が全く動かないという程では無いが、全身が痺れてしまい、どうにも動くはぎこちなくなってしまう。


「ゲホッ、ゲホッ!何だこれ……!……あの飛行機雲……!」


飛行機は大きく弧を描き、またまたこちらへと向かってきた。


今までと同じ攻撃では、あの飛行機に大したダメージは入らない。


そして、飛行機雲は吸い込むと身体が痺れる。


攻防共に、オマケに機動力でも負けている僕が、真っ正面から戦って何とかできるものでは無さそうだ。


となれば、やることは一つである。


「こっちだ!さあ、追いかけて来てみろッ!」


真っ正面から戦わなければ良いのだ。


僕は階段を数段飛ばして降り始めた。


段と段の間が狭く、一段一段が高い石の階段を下って境内を離れ、来た道を戻っている。


そして思った通り、飛行機はまんまとこちらを追って急降下を始めた。


「よし、順調順調……」


木々の合間を抜け、草が生い茂る中を潜り抜けていく。


そして、ちょうど飛行機の視界から外れるであろうタイミングを狙って、木の裏で待ち伏せる体勢をとった。


「ブゥゥゥーーーン……」と、飛行機のエンジン音が聞こえる。


まだ、まだ。

ゆっくりじっくりと引きつけて……。


「やッ!」


今までの攻撃は、飛行機が僕の構えを見てしまうことができる状況から攻撃を始めたため、拳や足が当たった瞬間に飛行機が体勢を変えて衝撃を逃がしていたため、ほとんどダメージが入っていなかった。


だから今回は、飛行機が衝撃を逃がす体勢に入る前に叩く。


「ガ……ギィ……」


ラジコン飛行機から、僅かに人間のものであるような声が聞こえる。


「そらそらそらそらそらそらッ!」


「ブベベベァ!」


コントロールを失って宙をフワフワと舞っていた飛行機を、竿にぶら下がるパン食い競争に用いられるあんぱんのように舞っていた小さな鉄の塊のような何かを、ここぞとばかりに殴りつける。


飛行機の中で操縦士として乗っていたであろう小人、おそらくは人間のような声の主は頭を揺られたのか、落下していく飛行機の体勢を立て直すこともできずに墜落してしまった。


「よしっ!大成功!」


「くぅ~ゥ~。一時退散するしかないよね~。分が悪いからね~」


「ま、待てっ!」


小人は再び、黒煙がモコモコと湧いている飛行機のエンジンを無理矢理稼働させて上空へと飛び上がる。


「じゃあね~。この場は一旦逃がしてもらうよ~」


「は、速い……!流石にここから攻撃は……いや、でも、せめて何か……当たれぇぇぇぇっ!【コイントス】!」


僕は、もしかしたら飛び上がった飛行機に命中するのではないかと期待しながら天高くへコインを放り投げる。


しかし、そのコインが飛行機に届くことはなく、むしろ敵が両翼から切り離したバレルに命中し、それを破壊。


「あっ、粉が~。……ま、いいか~」


中に詰まった粉を辺り一面にばら撒いてしまった。


僕は急いで息を止めたが、全身の露出していた肌という肌に触れ、顔面の穴と言う穴から体内へと入り込んだ粉は、徐々にに全身の感覚を奪ってしまった。


コイントスの結果は表。


もはや今の僕に為す術は無いにもかかわらず、運はまだ僕についていてくれるらしい。


「ツイてるなら……向こうのミスを待つ、しか……無いか……?」


とにかく、今の僕では何をどうすることもできない。


しかし、何を隠そう今の僕はツイているのだ。


……粉をバレルごと浴びるよりは被害を抑えられた、ということだろうか。


しかし今の状況と僕の運だけでは、どの道動けなくなるという結末から逃れることはできなかった、ということだろう。


僕は痺れる身体の回復を待ちながら、天高くへと飛んで行ってしまった飛行機を見失うまで眺めていたのであった。

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