飛行機雲
麗奈ちゃんが気を失ってから、数時間が経過した。
明かり一つ無い神社は、かつて小中学校の行事で経験した野外活動やらキャンプ体験やらで行った自然の家よりも暗い。
今は支給されたスマホを懐中電灯の代わりにして周囲を照らしているが、ライト無しでは義経の「ディープ・ステイト」に振り回されていた建物では味わえなかった、開かれた野外ならではの不安が精神を蝕むには十分なくらいには何も見えない。
ただ周囲が「暗い」というだけで、ここまで人というものは不安を感じるものなのだと、初めて実感した。
光に塗れた僕や麗奈ちゃんの生活圏では、決して味わえないような暗闇。
空を彩る星……麗奈ちゃんにも見せたかった。
思えば、麗奈ちゃんはまだこの島の夜空を知らないのだ。
……僕は尊くんが眠っている物置きと麗奈ちゃんを寝かせておいたお社の戸を閉め、境内の石畳に座り込んで見張りを続ける。
「……うん?」
すると、夜空を飛び回る何かを見つけた。
「小鳥……?それにしては軌道が……?」
鳥ともトンボとも蝶ともつかぬ、直線的でありながら滑らかに曲がる軌道。
そして……飛んだ後には雲のような何かしらの残滓が残っている。
「いや、違う……アレは生き物なんかじゃあ……ない!!」
飛行しながら絶えず糞便やらガスやらを吐き散らかし続けることができる生き物なんている訳がない。
そして、そもそも夜に鳥が飛ぶなんてそうそうあることでもないし、蝶やトンボだとしたらあまりにも飛んでいる中での軌道が自由自在過ぎる。
「アレは……!ラジコン!?飛行機!?何で!?そんなものまであるの、この島……!?」
明らかに生物のものではないその外装は、金属かプラスチックで出来ているように見える。
その光沢から、僕は飛んでいるソレが飛行機のラジコンのようなものであると判断できた。
飛行機は大きく弧を描きながらこちらへと向かってくる。
向こうもこちらには気付いているようで、機体の両翼に取り付けられているように見えるバレルから何かを放出しながら、さらに勢いを強めてこちらへと迫ってきていた。
「よいしょっとぉ!」
僕は、腹部めがけて突っ込んで来た飛行機を蹴り飛ばす。
普通のラジコンならば、一般的な高校生男子に蹴り飛ばされようものなら、衝撃に耐えられず内側までボロボロに壊れて墜落、というのが普通なのだが……。
やはりというべきだろうか、その飛行機は確かに蹴り飛ばされた方向へ大きく軌道を変えはしたものの、やはり弧を描いて飛び回っている。
「麗奈ちゃん!尊くん!敵襲だ!ラジコン飛行機が襲ってきた!!」
僕は飛行機との距離が離れている間に、お社と物置でそれぞれ眠っている尊くんと麗奈ちゃんを起こす。
しかし、二人はぐっすり眠ってしまって目覚めるどころか寝返りをとる素振りも無い。
このままでは、どちらかが目覚めるよりも早くこちらへ飛行機が飛んできてしまう。
「マズいマズいマズいマズい……!」
僕は二人が眠っている建物の戸を閉め、迫る飛行機を再び迎撃すべく、構えをとる。
そして、
「そらっ!!」
今度は右手から放つ全力のストレートによって、再び飛行機の軌道を大きく反らすことに成功。
相手が大きく弧を描いている間に、僕は如何にしてこの状況を脱するべきかと考えていた。
あの飛行機が味方とは思えない。
謎のバレルなのかタンクなのか分からないものを両翼に装備して突っ込んでくる飛行機が、僕達を安全な場所へ導いてくれる存在だとか、僕達の仲間として来てくれている誰かだとか、そんなものであるハズが無い。
そもそも味方なのだとしたら、そもそもこの辺りをむやみに飛び回ることは無いハズだ。
あのラジコン飛行機は、何故か朱色の飛行機雲を残しながら飛行している。
最悪の場合、飛行機雲に気付いてやってきた他の好戦的な能力者や妨害者が近付いてくるケースも考えられてしまう。
オマケに、慣れない全力でのストレートを繰り出したためか、僕の右手はビリビリと痺れている。
「ど、どうしよう……」
眠っている二人を守りつつ、あの飛行機を何とかしなければならない。
さらに夜道で視界も悪いときたものだ。
僕は今、思っていた以上によくない状況に立たされているのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます