猛襲
丘を越えてから数十分。
木々は再び生い茂り始め、辺りの景色は平原から次第に森になっていく。
トカゲ人間と遭遇した森もそうだったが、こちら側の森も中々にジメジメとしている。
森が湿っぽいというのは、どこもそう変わらないようだ。
「もうすぐだと思うんだけどな……」
僕はと現在位置を照らし合わせようとするが、この辺り一帯は「森或いは山であることを示す緑色のベタ塗り」で描かれているため、「僕達はこの森の中にいるのだろう」ということ以外に情報は掴めない。
途中で分かれ道があったり、木々の隙間から目視できていた神社がとうとう葉に覆われて見えなくなってきたりと、この森はとうとう僕達を迷わせる気満々なようである。
せめて方位磁石でもあれば良いのだが……支給品にそんなものは無かったし、スマホにもその機能は付いていなかった。
「ねぇ、本当にこっちで合ってるのー?」
「僕にも分からないよ……歩いている方向は変わってないから、もうすぐだと思うんだけど」
「どこに出るか楽しみだね」
「不吉なこと言わないでくれるかなぁ」
進む先には緑、緑、緑、時々、黒。
どこまで進んでも草木が生い茂っている。
それは段々と薄くなるどころか、先へ進むにつれて、逆にどんどん濃くなって、やがて。
「……ねぇ、この先……行くの?」
獣道すらも無くなってしまった。
……元よりこの辺りに舗装された道路などなかったが、まさかここまで草木に通せんぼされた領域が、そうそうあるものだろうか。
「行き止まり?それとも、無理矢理進めってことかな……?」
二人は、鬱蒼と生い茂る草木を前に立ち尽くす。
「どうしよう?ここから進む?」
「麗奈ちゃん。今から真上にスマホを投げるから……思い切って、そこに瞬間移動できる?」
「できるけど……何でそんなことを?」
「どの道、ここからじゃあ何も見えない。神社すらどこにあるかも分からない。だから、上空から麗奈ちゃんに見てもらおうと思って。大丈夫、降ってくる麗奈ちゃんは僕が受け止めるから」
「そういうことかぁ!じゃあ、お願い!」
こういう時に物怖じしないのは、いかにも麗奈ちゃんらしい。
「いくよ!せェェェェェェェェーーー……のォォォォッッッッッッッッッッ!!」
「【
僕はスマホを天高くに投げ、それが最高高度へ到達した瞬間に麗奈ちゃんは能力で上空への移動を開始。
辺りの木々はかなりの密度で生い茂っているものの、そこまで高く幹や枝が伸びている訳ではない。
スマホは木々の幹を越え、枝をも越えて上空へ。
麗奈ちゃんは自分の肉体が自由落下を始める前に、一瞬でグルリと辺りを見回して何かを注視……。
……しようとしたタイミングで、身体は勢いをつけて落下し始める。
その前に、僕は麗奈ちゃんの落下地点へと移動。
「うおっ!?」
「わっ!た、環くん!?大丈夫!?」
麗奈ちゃんは無事に着地したようで何よりである。
……超スピードでのしかかられた僕はともかく。
「大丈夫。あの、早くどいてもらえるかな……?」
「わっ、ごめん」
僕に乗っていた麗奈ちゃんは急いで立ち上がる。
「ふぅ。……それで、どうだった?」
「方向は合ってるみたい!このまま進んでいけば、神社がある山に着くハズなんだけど……道は無くなっちゃってるね」
麗奈ちゃんと僕は草をかき分け、先へ向かう。
先へ先へ、まさに道なき道を進んでいく。
「この草の中行くのかぁ……。……ッ!!麗奈ちゃん、危ない!」
しかしその先で、ガサリと露骨に草が揺れる。
僕はそこに一つ、何かキラリと光る瞳を見た。
「えっ?」
「いいから離れて!蛇が!蛇がいるッ!」
しかし僕が指差すよりも早く、その蛇は麗奈ちゃんの右脚に飛びかかる。
「うわあああああああっ!?」
そして蛇は、一切の迷いなく麗奈ちゃんの露出した肌に牙を食い込ませ、毒を流し込んだ。
「麗奈ちゃん!……このォォォッ!」
一歩、間に合わなかった。
「うっ……ぐぁ……!!」
流し込まれたのは即効性の毒だったのか、麗奈ちゃんは悶えながらその場にうずくまる。
僕は手を伸ばして蛇を捕まえようとするが、蛇は飛び跳ねて僕の首筋に着地。
「後ろに……!?」
「キシャアーッ!」
そして間もなく、首筋が急速に冷えるような感触を覚える。
……何かが首筋を伝っている。
僕はすぐに、それが自身の血であることに気付いた。
「あ、が」
全身から力が抜けていき、ガクンと落ちた視界は、倒れている麗奈ちゃんとほぼ平行になる。
「環……くん……」
「ごめん、麗奈ちゃん……何も、できな、かった……」
あの「ディープ・ステイト」を越えてきた僕達が、まさかこんな蛇の一匹に殺されることになるとは……夢にも思わなかった。
次第に全身から感覚が失われていき、段々と意識が薄れていく。
麗奈ちゃんは、僕よりも一足早くに意識を手放したようだ。
……そして、崖際に生えているススキに掴まるようにして保ってきた僕の意識にも、そろそろ限界がやってきたらしい。
ダメだ。
もう、何も考えられない。
僕は、とうとう右手に握りしめていたコインを落としてしまった。
手のすぐ近くに落ちたハズなのに、もはや手の感覚がほどんど無いせいか、コインがどこに落ちているのかも分からければ、どちらの面で落ちているのかも分からない。
コインが落ちた事に気がついたのも、手から僅かな重みが消えたことに辛うじて気付けたからである。
僕が意識を失う前、最後に聞いた声は。
「【
少年とも少女ともつかない、誰かの声であった。
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