ディープ・ステイト 後編

「……あれ!?ま、また誰もいない!」


しかし、叫び声が聞こえた場所に人の影は無い。


「甘いッ!」


「あ、が……」


頭上への衝撃。


視線を右にやると、そこには開けられた2階の窓。


背後には、おそらく「ディープ・ステイト」の能力を使ってきた本人、つまりは超能力者と思われる長身の男。

鏡だらけのブッ飛んだ服装をした、トンチキなファッションセンスの野郎らしい。


筋骨隆々とまではいかずとも、服越しに筋肉質であることが分かる。

細マッチョといった具合だろうか、互いに何の能力も持っていない一般人であったとしても、普通に喧嘩しても勝てなさそうだ。


「甘い、甘いな。あまりにも戦い慣れしていない。『背後には気を付けろ』、というセリフを聞いた事は無いのか?マヌケが」


頭頂から後頭部にかけて、内側にまで響く鈍痛。


手をやると、ドロっとしたあかい何かが付着する。


「痛いじゃんか……。『ディープ・ステイト』君」


「俺の名前は『三矢みつや 義経よしつね』。今から君という恐怖を殺す男の名だよ」


「……?怯えているのかな?僕に?」


「ああ、俺はとっても怖がりなんだ。『ディープ・ステイト』は、そんなビビりな俺に、人間の腕では足りないリーチを用意してくれる……俺にとって最高の超能力だ」


……義経は町で一番の臆病者だった。


数年前。


そんな義経は、頭こそキレたものの暗記は苦手であり、成績が良くなかったため。不良が集まる低偏差値高校への入学を余儀なくされた。


そして、臆病者な義経は真っ先にいじめの標的に……なる事も無く、逆にその性格とキレる頭が功を奏してか、学校では常に「量産型」な生徒として振舞うことで難を逃れていた。


しかし、そんな彼には想い人がいた。


「三矢さん、ずっと一点を見つめて……どうしたの?」


今日も今日とてバカ騒ぎの声が響く教室内で、そんな彼らを見つめる義経に優しい声をかける少女。


その名は「瀬々螺せせら 涼音すずね」。

義経が通っていた学校の生徒にしては珍しい、ごく普通の少女であった。


「何でもないですよ。……今日も賑やかだなと思っただけです。……ヴ、ヴン!そういえば、今日の放課後ですが……」


咳払いで緊張を解し、義経が遊びに誘おうとした時。


「涼音さ~ん!」


教室の外から、扉越しに手招きをする女生徒。


「あっ、呼び出されたから行かなきゃ。また後でね、義経くん」


「は、はい。また、後で」


何度目だろうか。

義経はまたもや、お誘い……もといナンパに失敗してしまった。


いつもこうなのだ。


放課後の話を始めようとした瞬間に、それをピシャリと止めるように何かが起き、その会話を始めることさえできなくなる。


彼は恋愛運が無いのだと、その度に思い込むことで自らの精神にかかるストレスを抑えていた。


次こそは、そう意気込む義経であったが。


翌日から、涼音が登校することは無くなった。


三日経っても、一週間が経過しても、涼音は現れない。


「先生!瀬々螺さんは!瀬々螺さんがこんなにも長い間、休んでいるのは何故なのですか!?怪我でもしたんですか、何か事情は……!」


想い人が理由も分からず一週間以上学校に来ていない、そんな状況に耐えかねた義経は、とうとう担任の元へ事情を尋ねに向かった。


しかし、その担任である老人から帰ってきた言葉は、あまりにも衝撃的なものであった。


「あぁ、瀬々螺さんね。……あえて言わないでおいたんだけど……瀬々螺さんは、左腕を失ったんだ。通り魔にやられたみたいでね……犯人は捕まったようだが、その治療がまだ済んでいない上に、精神的ショックのせいで今は面会も謝絶されているみたいなんだよ」


「な、なん……だって……!?何で、何で今まで黙っていたのですか!」


「情報の拡散を防ぐためだよ。……マスコミは私の根回しで封殺しておいた。だが、こんな時代だからね。SNSで情報を拡散されたり、悪ノリで病院に行った生徒に問題を起こされたりするのを防ぐため、情報を伏せていたんだ」


「クソッ!!事あるごとにあーだこーだと騒ぎ立てるアホ面ハゲ鷹共めが……!」


「こらこら、そんな乱暴な事は言っちゃあだめだ。……君は瀬々螺さんと仲良くしていたようだったからね、今話しているのも、そんな君がわざわざ放課後に心配そうな顔でそのことを聞きに来たんだから、特別に話してあげたに過ぎないんだよ。……もし面会が再開されたら、先生から連絡するよ。その時に病室も教えてあげよう。だから、今日はもう家に帰ってゆっくり休みなさい」


「……はい。ありがとう、ございます……」


己の無力感と共に学校を去る義経。


あの時、遊びに誘えていたら……未来は変わっていたのかもしれない。


失意のまま一晩を明かした義経に沸き上がったのは、底知れぬ程の怒りと……そしてあの時、多少自分勝手であっても遊びに誘わなかったことに対する後悔であった。


「……許さない……通り魔の気まぐれなどで、俺の涼音が……よくも、よくも……よくもよくもよくもよくもよくもォォォォォォッッッッッ!!」


義経は地団太じだんだを踏み、泣き崩れる。


親が腕によりをかけて作った夕食も喉を通らなかった昨晩と比べて落ち着きを取り戻したせいだろうか。


冷静に、しかし確かな悲しみが心を抉る。


そして、それは義経の怒りをもう一度燃え上がらせるには十分であった。


「……これを使うのは、人間の道を外れかねんが……もう我慢ならんッ!」


義経は家から飛び出して警察署の前に設置されているベンチに座り、そして人間の道から外れないために封印していた自身の超能力を発動させる。


「【ディープ・ステイト】!」


そして取り調べ室の電球から腕を伸ばし、そのまま偶然にも取り調べの最中であった犯人が涼音から腕を奪った通り魔であることを確認した義経は、すぐさまその首を絞めながら、尖った藍色の爪で喉笛を切り裂いた。


「……ハァ、ハァ、ハァ……!!」


超能力を使って犯人を殺害した快感に浸りながら、すぐに現場を立ち去る義経。


当然、超能力による殺人など警察に調べられる訳も無く、犯人は取り調べ中に狂死したということになった。


「やった……やったぞッ!涼音……私はやったんだ!!ハァ、ハァ……待っていて下さい、今日、この瞬間から……貴女は私の能力、『ディープ・ステイト』が守ります!!!」


そして警察署を立ち去った義経は、近所の入院可能な病院を回って涼音の居場所に目星をつけると、今度は院内のイスに座って能力を使い、涼音が入院している部屋の窓ガラスに腕を出現させた。


その腕が、面会が再開されるまで呆然と意識を垂れ流しているかのような涼音に認識される事は一度たりとも無かった。


しかし義経はいつまでも、涼音との面会がかない、彼女が退院するその日まで。


毎日毎日、病院へ立ち寄っては定期的に「ディープ・ステイト」で室内へ腕を呼び出し、涼音の様子をマメに監視していたのであった。


……時が流れること数年。


今まさに、僕はそんな犯罪自慢をタラタラと話す義経を前に、怒りを抑えて冷静なフリをしている。


「……俺は運に負けたんだ。そして、その運を克服するのが俺の『ディープ・ステイト』!!今では涼音さんも義手をつけ、私と同じ大学の学生として普通に生きている。そして俺はこれからも、この能力で彼女を守り続ける!このゲームに巻き込まれた時、島での戦いからも生き残り、賞金を使って涼音さんの新たな義手代の足しにすると誓った!愛する者に手が届かない苦しみを、俺はこの能力と行動力で克服する!そして!!今から目の前の恐怖に!ことごとく俺の敵に回る、忌々しき運命に打ち克つのもまた俺の能力!!『ディープ・ステイト』なのだァァァァッッ!!」


愛する者がいて、彼女のことが狂おしい程に好きで、彼女の支援したい。

なるほど、真っ当らしい理由だ。


しかし、だからといって「はい、そうですか」と言って殺される程、この世に未練が無い訳ではない。


こちらだって、唯一の親友を傷つけられているのだ。


「へぇ、そうかい!!」


「【ディープ・ステイト】ッ!所詮は運に縋るしかない貴様の能力など、取るに足らんわ!!」


背後でペラペラと喋り散らかす義経にバックナックルを食らわせようと腕を引くが、構えた時点でひらりと身を躱される。


そして勢い余って体勢を崩した僕は、義経が鏡から突き出した右腕の動きを捕捉できなかった。


「ぐあッ!」


「フンッ!!」


息をすることもままならない状態で肘に取り付けられた鏡から現れた青い左腕に吹き飛ばされる。


「あ……ぐ」


肉体へのダメージが限界を越え、大量に出血していた後頭部に更なる衝撃が加わったせいか、とうとう耐え難い程の眩暈めまいを発症した。


「フフ、相手にならんな。いかにお前の運がツイていようが、力を十全に発揮できる近距離で俺の能力、『ディープ・ステイト』を相手取ることは不可能なのだよ。これで理解できたかね?ン?」


まともに動くこともできず、その場に跪く。


このままでは、このままでは何もできないで死んでいく。


麗奈ちゃんも、きっとすぐに殺される。


何か、何かしなければ。


「う、く……これを……!【コイントス】!」


どうにか、ツキを呼び込まなければ。


今、ここでウダウダしていたら本当に殺されてしまう。


義経の覚悟と狂気は生半可なものではない。


あの、クワっと吸い込まれるかのように見開いた目が、何よりそれを裏付けている。


ただでさえ不利な体格と能力の差で、このボロボロな肉体。


この状況では本当に神頼み、もとい運に頼る他に無い。


「またしても運にすがったか!さあ、惨めに死ねッ!このマヌケが!」


コインはクルクルと宙を舞い、僕と義経の間に着地。


「……いいや、マヌケは君の方だよ!僕を殴る前に、コインをよく見てみろ!『表』だ、ほら、『表』だ!!」


「だから何だと言うんだ!!今更コインが表だろうと裏だろうと、もう何も関係ない……な、うおおおおッ!!?」


眼前に迫る拳、しかし僕は目をつぶらない。


「……運が僕の味方をしている時に、君の攻撃が上手くいったことがあるかい?」


「なん、だと……?」


義経の腕が止まる。


「……それを忘れちゃあダメじゃあないか。だけど運の方だって、いつまでも僕の味方をしてくれる訳じゃあない。君が今、とるべきだった行動は……運が僕から離れるのを待つ事だった」


「な、何を言いたい……!?」


「ゲン担ぎはしておいた方が良いってことだよ」


義経が目をもう一度かっ開いたタイミングで、僕は空を指差す。


「なっ……魚……だと……!?」


「分かってくれて嬉しいよ。何度も言うようだけど、運は僕の味方なんだ。天気っていうのは不思議でね……竜巻か何かで水の中から攫われた魚やカエルなんかが、雨と共に空から降ってくることがあるらしい……。そして、日本でも幕末に起こった『ええじゃないか』という騒動……集団ヒステリーを引き起こした、この一大ムーブメントの原因……!」


空から、突如として木製のお札が降り注ぐ。


そして当然ながら、運に恵まれている僕の頭上にそれが命中することは絶対に無い。


上空から降り注ぐお札は、重力による勢いを伴って義経に降り注ぐ。


そして降ってきたお札は次から次へと、義経が全身に身につけている鏡を打ち砕いた。


「うおおおおッッッ!?鏡がァァァッ!それから降っているのは……何だ!?札!?」


「僕のコインが招いた幸運!!それは、君の能力が効力を失う瞬間が訪れること!空から掃いて捨てる程に降るお札は、君の全身に貼り付けられた鏡を破壊してくれている!」


「まさか、こんなタイミングで、何故こんな現象が……!」


「それが今、僕に舞い降りたツキだった!そして!ここからは運命……じゃなくて、僕からの洗礼だッ!悔しかったら、せいぜい僕のように……最後まで足掻いてみせろッ!」


「こ……この……こンの運ばかりの、酔っ払いのゲロにも劣る泥クズ野郎がァァァーーーッ!!」


膝を突いた状態から立ち上がり、義経はこちらへ飛びかかってきた。


しかし、もはや今の義経はただこちらに突っ込んでくるだけの獣とさして変わらない。


人のことを戦い慣れしていないだの何だのと言っておいて、追い詰められればこのザマだ。


戦いはともかく、運にでもすがらなければならない窮地に慣れていないのはそちらの方ではないか。


「ふんッ!」


僕は、こちらへ向かってくる義経の腹部に拳を入れる。


「あぐッ!?」


「そらッ!」


そして、全身が宙に浮いた状態の義経を右脚で引っ掛けてバランスを崩して転倒させた。


「うおおおおおッ!?」


そして、


「泥クズ野郎は君の方さ!マヌケも、馬鹿も!全部君の方だ!!独りよがりの使命感に駆られ、許されるとあらば躊躇なく僕や麗奈ちゃんに能力を使い!想い人に対してストーキングを続けようとするその歪み切った精神!さあ、泥クズ馬鹿マヌケ野郎はどっちか、考えてみろッ!!!」


「黙れェェェェェェェェェッッッ!お前が!お前が俺と涼音を語るんじゃあないィィィ!」


「顔面から吹き飛んでいけ、義経!」


「へぶァァァァァァァァァァァッ!!」


再び起き上がって向かってくる義経の顔面に、全力の蹴りがクリーンヒット。


馬鹿力というのだろうか。

今の自分ではあり得ない程の力がかかった蹴りが命中したのか、義経はそのまま足を木の根に引っ掛け、勢いよく森の奥へ転げ落ちていく。


そして数秒後。


「バゴォォン!」と、大木が倒れるような音がした。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


胸を撫で下ろし、一先ずの安堵を噛みしめる。

ちょうと分泌されていたアドレナリンが切れたのか、一気に意識が薄れていく僕はヨロヨロとよろめきながら、麗奈ちゃんが倒れている玄関口まで移動し、そのままそこで僕も倒れ込んだ。


……一方、その頃。


「ハァ、ハァ……俺と、したことが……不覚を、とった……!」


顔面の皮膚という皮膚をサッカーボールキックで剥がされ、鼻の骨までへし折られた義経は、ゆっくりと草木をかき分けて森の奥へと後退していた。


そして環がトカゲ人間と遭遇した広場へと到着すると、詰まれた薪の山に寝転がって休憩を始めた。


「ふぅ、ふぅ、グゥ、グゥ……ン?」


そして、目を覚ますと。


そこは四方八方が鏡に囲まれた、無限にも感じられる空間だった。


「……ハ?」


辺りを探るにも周囲には鏡しか無く、さらに空間自体が薄暗いため、地形のヒントを得るどころか、辺りは見回せば見回す程に正気を奪っていく。


「ここは……どこだ……何だ……これは……!?」


状況を理解できず、あたふたと慌てる義経。


そんな彼の前に、一人の少女が宙から舞い降りた。


「【リミナル・スペース】。アタシは『一つ』理解した。鏡の世界、反射する精神……ここは、アンタの心の中」


「な、何だ!?誰だ!?」


「名乗る程の者でも無いわ。ただ、『妨害者』……とだけ言っておく」


「このゲームを開催した人間達が送り込んできた刺客か……目的は何だ、俺を殺すつもりか」


「ええ、それがアタシのやるべきことだから」


「貴様……。ここがどこだかは分からんが、俺を殺すことをそう簡単なことだと思ってもらっては困るな」


無造作に配置された何とも言い表し難いオブジェクトも、ついたてのような壁も、床さえも全てが鏡になっているこの空間において、「ディープ・ステイト」の行動範囲は、半径二百五十メートル圏内の空間全体にまで及ぶ。


しかし、それを知ってか知らずか、少女の方は一切の恐れを感じていないようだ。


「いいえ、簡単よ。……アンタ、光の反射は知ってるかしら?」


「それがどうした。この部屋がどこだかは知らんが、そんなもので俺をどうするというのだ?」


「アンタの能力が『鏡』をどう解釈するかは、私にも感覚でしか分からない。けれど、水溜まりはどうやら鏡になるみたいだ」


「何が言いたい?」


「それだけ『鏡』の解釈を拡大できるのなら、アタシがこの空間内でアンタに勝つのは、眠っている赤子の頬をつつくのと同じくらい簡単だということよ」


「……なッ!?な、何か……何か来る!!」


「【機械仕掛けのデウス・エクス・マキナ】。アタシの『リミナル・スペース』に内包される能力。形成した空間から『一語』で連想できるものなら、何でもこの空間に起こすことができる。アタシは『鏡面』という単語から、『虫眼鏡』を連想した」


少女はどこから取り出したのやら……否、己の精神より生み出した虫眼鏡を大量に宙へ浮かべながら、薄暗かった空に光球を生み出す。


「……まさか、貴様!」


「虫眼鏡は日向に置いちゃあいけないって、教わらなかったかしら?」


そして、この宙に浮かぶ大量の虫眼鏡……そのレンズは、反射と屈折により一点に光を集める。


「に、逃げなくては!今すぐ、この空間から……!」


「無駄よ、この世界に逃げ場はない。でも安心して。アンタがここでどんな目に遭おうが、肉体にダメージは無いわ。覚えがない箇所に傷を負うことも、突然全身から血を吹き出す……なんてことも無い。……ただ」


「どういうことだ……!ここは俺の心の中と言ったな。では何だ?俺に幻を見せて脅しているとでも言うのか!」


「肉体ではないところでダメージを受けることになるのよ。アンタの心に、精神に、奥底から負荷がかかる。例えば……」


「……や、やめろ。やめろ、やめろォォォォォォォォォォッ!!」


「こんな風に、ね」


そして、少女は一点に集めた光をさらに収束させ、一本のレーザーとして義経の足先から頭部にかけて照射。


「ぐあああああああああああああああああッッッ!!!か、身体が、火が、火が!!だ、誰か!誰でもいい、誰かこの火を消してくれエエエエエエエッッッ!!!」


少女は一瞬にして、義経の全身を燃え上がらせた。


「しばらく、そこで苦しんでいるといいわ。この空間は、あと数分もすれば崩壊する。アンタの精神が壊れる方が先だったら、もっと早く消失して、アタシ達は元いた世界に帰れる。今のアタシにとっては、どっちが先であっても関係の無い話だけれど」


「うおおおおおおおお!!!クソッ、クソッ!クソォッ!熱い、熱いんだよォォォォォォッ!クソ……ア、ア、アア……ス、ズ、ネ……」


全身を炎に包まれた義経は暴れ回り、周囲の鏡を割りながら少女へと接近。


しかし、少女はスルリと躱して、遥か遠くへと消えてしまった。


火だるまの義経を残し、空間は崩壊する。


空も、地面も、壁も、この空間を埋め尽くす鏡という鏡も、やがて透けていき、色味も薄くなっていく。


やがて、数十秒をかけて空間はゆっくりと元あった広場の景色へ。


「実感は得た。後は……繰り返すだけね」


そこには「リミナル・スペース」の少女と、そして、


「……あ、あ」


その身体には火傷など一つも無く、しかし涎を垂らしながら座った目で小刻みに震え続ける義経の姿があった。


……これが、一人目の脱落。


この島で最初の決着であった。


~三矢 義経(ディープ・ステイト)、心神喪失により戦闘不能、及び死亡~

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