陰謀渦巻く島へようこそ

ここは、陸……?


船の上ではなさそうだ。

あの海特有のユラユラ感は無い。


「う、うん……?」


気が付くと、麗奈ちゃんの姿が無くなっていた。


「麗奈ちゃん?麗奈ちゃん!?」


辺りを見回すと、一面の緑。


周囲三百六十度、全てが樹々と葉の緑に囲まれていた。


そして今度は袖から胸、さらに腰、足と目線を移すと、いつの間にか服装が変わっていることが判明する。


それは僕や麗奈ちゃんが通っている学校とは違う、どこかの学校のような制服であり、どこの制服でも無いような……本当に「どこかの」制服。


幸い、僕達が通っている学校の制服よりも機能性は高そうだ。


そして幸い、制服に装飾としてぶら下がっていたコインを引きちぎれば、引き続きコイントスで運勢を見極めることも不可能ではないだろう。


今、麗奈ちゃんがどんな装いをしているかは分からないが、何かとゴチャゴチャしていた女子用制服を普通に着こなしていたのだ、そう心配する必要は無いだろう。


「それにしても……困ったね」


山々の中で、僕が倒れていたところだけが偶然広場のように吹き抜けている、という具合だろうか。


僕は座り込んだ状態から立ち上がり、もう一度辺りを見回す。


一つ、壁も屋根も錆びついたトタンで構成されているボロ屋が見える。


歩いてすぐだ、折角だし立ち寄ってみよう。


僕はゆっくりと足を進め、ボロ屋のこれまたボロボロな扉を開け……


「うわっ」


ようとドアノブを引っ張ると、ドアノブが「ガバォン」と音を立てて根本から外れてしまった。


これは相当な年数手入れされていなかったと見える。


「ひえ~、いくら何でもボロすぎないかな」


僕が恐る恐る内側に入ると、そこには小さなテーブルと、その上に置かれている航空写真とボールペン、そしてスマートフォン……それも、数世代も前のものを改造したらしきものが目に入った。


ゆっくりとスマホを手に取り、起動してみる。

ロックはかけられていないようだ。


電波は繋がってこそいるようだが……限られた圏内にしか通じてはいないようだ。


天気予報や株価など、本体が勝手に電波を受信しているだけで一緒に受け取られる情報が流れて来ない。


そのままホーム画面へ移動すると、そこにはショートメッセージ、電話、カメラ、写真、設定……合計5つのアプリだけがあり、ショートメッセージに1件の通知が届いていた。


「通知?よく分からないけど、見てみようか……」


もしかしたら、僕がこんな目に遭っている理由が少しは分かるかもしれない。


そして、その推測は大当たりだった。


メッセージには、こう書かれてある。


「親愛なる出来損ない諸君。幼い日を過ごした真っ白な施設を憶えているかね?ここは、かつてその施設があった「七宮浜島」だ。さて、我々自ら諸君をピンチの底に叩き落としておいて詫びと言うのも何だが、その上でチャンスを与えよう」


何も言わずに僕は続きを読み進めた。


「君達、六人の超能力者には一週間この島で生き残りをかけた闘争に参加してもらう。島の各地に配置した申し訳程度の武器や道具、合計で全員が最低限生き残ることができない程度の食料、そして君達が持つ出来損ないの超能力を用いて、無事に一週間を生き延びた者には……なんと、賞金六億円を山分けしてプレゼントしよう」


さらに読み進める。


「……とはいえ、皆で結託して生き残られてしまうというのは、些かこちらの狙いから外れてしまう。そこでだ。こちらから、『妨害者』なる超能力者を二名、用意させて頂いた。彼らには君達を一人殺す度に一億円が振り込まれる上、生き残れば生存者のフリをして賞金の山分けにも参加できるようになっている。妨害者は君達を見つけるなり、すぐさま殺そうと動き出すだろう。……尤も『殺害の実行』が、すぐとは限らないがね」


僕は苛立つ神経をなだめながら、続きの文へと視線を戻す。


「また、この島における殺人や傷害、窃盗や強盗などの犯罪行為については、それらの全てを不問とする。理由についてはお伝えできないが、根回しがしっかりしているのだと考えて頂ければ幸いだ。それでは、六人と妨害者二人、合わせて八人の戦いを、そして一週間の終結を、楽しみに待っているよ」


そのメッセージを読み終えた僕は、すぐさまスマホをポケットに納めて、つい数秒前まで扉があったところからボロ屋を飛び出した。


「麗奈ちゃんを探さないと」


当然、武器なんてものは何も無い。

さらに他の超能力者がどんな能力を持っているかも麗奈ちゃんを除いて知る訳も無いし、そもそも僕にだってコイントスで運勢を知る能力しか無い。


強いて言えば、足が速いくらいだろうか。

去年の体力測定で行われた五十メートル走では、六秒六六という何とも不吉ながらクラストップファイブに入る速さを記録したことがある。


だが、それだけだ。

本当に、生き残りの役に立ちそうな技術はそれくらいなのだ。


それでも、唯一の友人を失うのは些か……どころではなく、メチャクチャに気分が悪い。


「【コイントス】!」


僕は走りながら、前方へコインを投げる。


「表、表、表、表……!」


祈るように「表」と呟きながら、それを左手の甲と右手の平でジャンプキャッチ。


走ったままコイントスなど、我ながら器用なことをするものだと思う。


そして、右手をどかしてコインの向きを確認する。


「よしっ!」


コインは表。


これなら、しばらくは変なアクシデントが僕を襲うことは無いだろう。


航空写真を見ながら……といっても、例のボロ屋の場所も現在地も分からないが、とりあえず目立ちそうなものを見つけて、自分の位置を一刻も早く把握しなければ。


「どうか生きててよ、麗奈ちゃん……ッ!」


僕は、自分の心に使命感を抱かせるためのまじないのようにそう呟いて、ロクにハイキングコースも用意されていない山の中を駆け回るのであった。

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