本編

超能力者、誘拐済み

七宮浜島ななみやはまとう


ここが、事件の舞台であった。


幼い頃にも、「お泊りイベント」と称して過去にこの島を訪れていた僕達。

例の真っ白な部屋で過ごした数日間も、麗奈ちゃんと出会ったのも、何を隠そうそのお泊りイベント中の出来事なのである。


そして帰り際、意外と近くに実家がある事を知った僕達は、毎月の1日に最寄の駅で会う約束をしていた。


そのお陰で、僕達はあれからも交友関係が途絶えることは無かった。


そして家庭電話を使えるようになってからは電話番号を交換し、同じ学校へ通うようになった高校一年生で携帯電話を持ってからは、対話型SNSで友達登録だってした。


……という具合に、ここまで交友関係が保たれている友人というのは、世俗的にも珍しいのではないだろうか。


そして、それからきっかり十一年後になるこの日。


僕と麗奈ちゃん、そして同学年と思われる数名の少年少女が、地図から抹消されたというこの島へ再び集められた。


「んん~!ふぁぁ……。一面の海、綺麗だね!環くん」


「……あまりにも環境への適応力が高すぎないかな」


「だって、こんな状況……普通ならあり得ないじゃん!楽しまなきゃ損だよ!」


「普通は楽しめないと思うけど」


「え~?そうかな~?タダで船に乗れてるんだよ?それだけでもワクワクするじゃん!」


「ええ……」


本当に唐突だが、ここは船の上だ。


それも強化ガラスと妨害電波、さらに鉄格子で厳重に封じ込められた部屋に、文字通り「身ぐるみ」以外の全てを剥がれた状態で僕達はいる。


僕達は再び「集められた」と言ったが、それはあまりにも文字通りのこと。


全員、まんまと下校中に誘拐されてそのまま綺麗に船へ……という具合だろうか、少なくとも、僕達はそうだった。


七宮浜島へ集められているという人間は全員、かつてのお泊りイベントにて数日間を共に過ごしたメンバーらしい。


といっても、僕は麗奈ちゃん以外とはほとんど喋ったことが無かったため、愛着も何もあったものでは無いが。


しかし他のメンバーの姿が船内に見えない以上、少なくとも「一つの船に」、そして「全員一緒に」乗せられてきている訳では無いようだ。


僕達のように友達同士で島へ連れていかれるメンバーもいるのだろうか。


……何のために?


と、少しすっとぼけてみるが、何となく心当たりはある。


「超能力者」。


そう呼ばれる人間は、何の前触れも無く極稀に産まれる。


そして生まれながらに完成した能力を持つ、いわゆる世界に選ばれし数少ない人間は、一芸を持つ存在として名声を得たり、裏社会を生きるエージェントとそて重宝されたりできるものらしい。


しかし僕達は、言ってしまえばその成り損ない。


未熟な超能力を持つ、下手をすると一般人よりも厄介な体質のせいで生きにくかったり事故を招いてしまったりしてしまう、厄介な体質の持ち主という訳だ。


まさしく、心当たりはそこにある。


「【コイントス】」


僕は右手の親指で十円玉を宙に投げ、左手の甲でキャッチ。


コインは裏を向いている。


……運命は、今のところ味方では無いらしい。


「あっ!環くんのコイントス、久々に見た!」


はしゃぎながら、手の甲のコインを覗き見る麗奈。


「ハハハ、喜んでもらえて何よりだよ。……裏だったけどね」


これが、僕の超能力。


「コイントス」。


運を見極める力。


普通の人が運試し程度にするコイントスで本当に自分の運勢を理解できてしまう、本当にただそれだけの超能力だ。


僕がこの能力に気づいたのは、近所のコンビニでキャラクターモノのくじ引きをする際にコインを何度も落としてしまった時。


他にも、駄菓子屋の会計で同じくお金を落としてしまった時。

メダルゲームでメダルを落としてしまった時。


落としたコインが表を向いていたタイミングでは、必ずと言って良いほど、いわゆるハズレを引くことは無かった。


コインの表裏とくじ引きの当たり外れがあまりにも一致し過ぎているのではないかと考えた僕は、コイントスと運との関係を検証してみたところ、見事にその推測は的中。


コイントスの結果と自分の運は確実に連動している、という自身の超能力を見つけるに至ったのである。


一方、麗奈ちゃんの能力はというと。


「……船外には発信源無し、と」


「麗奈ちゃん?また電波を探っているのかい?」


「うん。でも……飛んで行けるようなとこは無さそうだよ」


「だよね。……島も船も見当たらないし、本当にただならぬ事が起こってるみたいだ」


電波少女ファイブジー」。

半径百メートル以内の電波を辿り、その発信源を特定できる上に、その地点へ瞬間移動することができるという能力らしい。


諜報員としてやっていくには便利そうな能力ではあるものの、やはりそこは出来損ない。


超能力として誇るには範囲が狭く、やっていることは範囲の狭さの割に破壊力や即効性が無い「近距離ワープ」。


その上、一度使うと移動した分の距離を全力疾走した後くらい疲れるらしい。

故に、それが大した己の武器たり得ることは無いと言う。


そして、ここは海のド真ん中。


辺りには人っ子一人見当たらない。


あれから数時間後……くらいだろうか。


ロクに身を動かすこともできない船内で、そこそこ暇を持て余す程度に時が流れた。


「ふぁぁ……。おはよう、環くん」


「おはよう、麗奈ちゃん。……船のスピードが遅くなっている。もうすぐ目的地みたいだ」


隣の席に座って眠っていた麗奈ちゃんが目を覚ます。


船のスピードがだんだんと落ちていく感触に違和感を覚えたのだろうか。


目的地に近付いた瞬間に都合よく起きるアレだろう。


尤も、今ばかりは都合が良いのか悪いのか分からないが。


「【コイントス】」


……また裏だ。


どうにも運がよろしくないようである。


その証拠に、


「わっ!?」


「あ、が……」


僕達は誘拐された時と同じ手に引っ掛かったのか、口にハンカチを当てられて意識を失ってしまった。

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