第8話
武藤四郎佐は車で上田の城まで来ていた。もう一台の車が後に続いていて、四郎佐の家に居候している五人が乗っていた。四郎佐は、俺一人でいい、といったのだが、居候たちはこの飢えなく退屈な日が続くのに耐えられなかったようだ。彼らはやることがなく、日々刺激を求めていた。人を殺すことは彼らにとって快楽に過ぎなかった。しかも、彼らが人を殺すのではなく、先生と呼んでいる四郎佐が殺すのだから余計にいい気分なのであった。
四郎佐は具足を付着し、車から降りて来た。
午後十時を回っていた。
男がひとり歩いて来る。やはり、この時間だ、酒が入っているようである。そんな状態でも、男は目の前に奇妙な風体の奴がいると気付いた。
男は足を止めた。ふらふらしながらも恐怖を感じたのか、男は奇妙な風体な奴から逃げようとする。
四郎佐は刀を抜き、男に向かって走った。
「来い!」
四郎佐は男の襟首をつかみ、二の丸橋の東のたもとから下に押し倒した。男は意志の階段から転げ落ちて行った。そこはけやき並木遊歩道で静かな散策が出来ることで観光客に人気がある。昔上田電鉄が走っていた。ここで、数日前、やはり男が辻斬りに合い殺されている。
男は立ち上がったが、ふら付いている。顔や手首から血が滲み出ている。石の階段から突き落とされたためだろう。この時、
「先生!」
二の丸橋の欄干から五人の居候たちが、ケヤキ並木遊歩道を覗き込んでいる。
「お前たち、来たのか」
「先生。ええ、来ましたよ」
「まあ、いい。そこから見ていろ」
四郎佐は剣を抜き、八相に構えた。相手は、もちろん武器は持っていない。
四郎佐は男に向かって走った。
一気に袈裟斬り・・・の積りらしい。
「この前と同じだ」
覗き込む居候の一人がいった。
「たあ・・・」
四郎佐は奇声を発した。
男は恐怖に慄き、動けない。
この瞬間、四郎佐の動きは止まった。四郎佐に向かって何かが飛んで来ていた。
「誰だ・・・」
四郎佐に向かって飛んで来たのは、木刀だった。それを四郎佐は難なく弾き飛ばした。
覗き込む居候たちの横に、少女がいた。
「誰だ?」
居候たちも一斉にその方を向いた。みどりである。もちろん、刀根警部補もいる。
「おい!」
すぐにみどりと刀根警部補を取り囲んだ。
「先生の邪魔をするな!」
刀根警部補がみどりの前に出た。
「みとりさん・・・」
みどりは頷いた。
「あなたたちね、この間の辻斬りは・・・。警察よ」
一瞬、居候たちが身を引いたが、自分たちが何をやったのか分かっているから、警察と聞いて引き下がるようなことはない。
みどりは二の丸橋の下にいる昼間に男が気になっている。四郎佐の動きを注視している。突き落とされた男はへたり込み、ガタガタと震えている。
みどりと四郎佐の眼が合った。
「刀根さん、私、下に行くよ」
みどりの手にはすでに木刀を持っている。
「分かったわ。この子たちは、私が引き受けるから・・・」
みどりは石段に向かって走った。
「待て!」
居候たちはみどりを追い掛けようとしたが、刀根警部補が、
「あなたたちは私が相手よ」
彼女は列記とした柔道と剣道の有段者である。居候たちはみんな木刀を持っている。
「俺たちに勝てるのか・・・」
居候たちは刀根警部補を取り囲んだ。
「待て、お前たち・・・私が相手だ」
この声の主は、武藤条太郎であった。
「何だ、じじい・・・」
武藤条太郎は二の丸橋の下を覗き込んだ。
「みどり、こっちは大丈夫だ。思う存分やれ!」
「じいちゃん」
「よし、やるか。刀根さん、離れていなさい」
「でも・・・」
武藤条太郎は、武器は何も持っていなかった。
「大丈夫だ。こいつらのものを使わせてもらう」
武藤条太郎の動きは速かった。餌食になったのは、それ程体の大きくない男で、気弱な感じのする青年だった。迫って来る老人から、彼は逃げようとしたのだが、遅かった。木刀を奪い取られ、左足首を打ち据えられた。
「痛いか、我慢しろ。さあ、お前たち、やろうか・・・痛いぞ。殺しはしないから、安心しろ」
武藤条太郎が居候五人を倒すのに・・・いや後四人だな、二分も掛からなかった。
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