最終話 やっぱり距離感がおかしい加藤さん
「えっと……おはよう……?」
体調が優れない中、彼を見てまず真っ先に出た言葉がそれだった。一応挨拶はしたものの、それ以上になぜ彼がこんなにも早い時間帯からお見舞いとしてここを訪れているのか。今となってはそっちにばかり頭がいってしまう。
「おはよう。美結。あ…もしかしてまだ体はしんどい感じ? それならまた今度にするよ……」
そう言って中村君はそのまま私の家に背を向け、去ろうとしたところで私は彼を呼び止めた。
「……ちょ、ちょっと待って! げほっ!」
「美結……」
そして、私の呼び止める声に反応したのか、それとも激しく咳をする自分を見てなのか、彼は心配そうにしながらこっちに来てくれた。
「……とりあえず、何より看病してあげたいのもあるし、家にお邪魔させてもらってもいい?」
「……うん。今は親も仕事だし。問題ないよ」
そう言いながら私は中村君を家に招き入れることにした。
「お邪魔します……」
中村君を家に招き入れた私は、そのまま先にリビングへ通す事にした。彼が持っている紙袋の中身は分からないけど、多分、何かしらの食品だと思う。
「えっと……それで中村君。学校はどうしたの? まだ終わってないんじゃ?」
「え? あ~その事だけど……今日は就活をしてる生徒を中心に活動する。そんな日だったからさ、進学組である僕は一足先に帰れたからここにいるって訳」
「なるほどそうだったんだ……ずっと不思議に思ってたから、これでスッキリしたよ。ちなみにその紙袋は?」
「この中身はいくつか買ってきた果物があるんだけど……食欲はある?」
「えっと、あるにはあるけど……そのお母さんがお粥も用意してくれたから……」
「あ…そっか。それじゃあ、これは中に入れとくだけ入れとくよ」
「うん。ありがとうね……」
「さてと……とりあえず平気そうだけど、まだ傍にいてあげた方がいいかな?」
「それは……」
そう聞かれると簡単に頭を縦に触れない私が心の中にはいた。別に理由と呼べる理由も持ち合わせているわけじゃない。
だけどなぜかこういう時に素直に甘えることが出来ずにいる頑固な自分にはほとほと苛立ちにも近い感情を覚える。
「大丈──」
大丈夫と言いかけたところでその時随分と大きな腹の虫が鳴りだし、それははっきりと私にも彼にも聞こえていた。
「……とりあえずお粥だけ用意するね。美結は部屋のベッドで寝ててよ。出来たら見っていくからさ」
「うん。分かった……お休み」
「お休み。美結」
そう言って私は先に部屋に残って再びベッドの中に潜り、目を閉じることにした。
* * *
「用意って言ってもただお粥をこのメモ通りにチンして温めるだけだし、思ったより早くに美結の事を起こしちゃうかも……」
実際、チンするのもたった一分しか掛かっておらず、後はこれを上に運ぶだけだ。
「美結。起きてる? お粥が出来たから持ってきたよ」
「……」
ドアをノックして呼び掛けるも、向こうから反応はなく、もしかしてもう寝てしまったのかもしれない。もう一度ノックしても反応が無かったら、中に入ろう。
そう思い、再び二回ノックするもやはり反応はなく、やっぱり寝てしまっているみたいだ。
「入るね」
「すぅ……すぅ」
まず中に入ってすぐに視界に入ったのは毛布と掛け布団をかぶり、静かな寝息を出している美結がいた。
「とりあえずお粥は置いておくか」
流石についさっき寝たばっかの美結を起こすのはあまりにも忍びない。ひとまず、一旦、彼女の部屋にいさせてもらう事にした。
もしそれでも美結がぐっすり寝たままなら、ちょっとしたメモでも置いて帰る事にしよう。
* *
「うん……?」
あれからどの時間が経ったんだろう……なんだか視界がぼんやりする……
少し目を閉じて練るつもりはなかったんだけど、気づけばぐっすりだったみたいだ。
「もう少し寝てようかな……」
そう独り言を呟きながら再び、目を閉じようと思った所で彼の顔が見えた。
「美結? 起きてる?」
最初、狸寝入りしようと思ったけれど、さすがにそれは止めてそのまま起きることにした。
「……おはよう」
「おはよう。って言っても既に12時ぐらいだけどね。ちなみに食欲はある? お粥持ってきたよ」
「うん。食欲は…あるよ」
「良かった。それじゃあ持ってくるよ」
「けど……」
「けど?」
「ちょっとだけ体が動かしずらいから、食べさせてもらっていい?」
「う、うん……」
「えっと……ほら美結。あ~ん」
「あ~ん。うん、美味しい」
「そっか。それは良かった」
それからも最後の一口になるまで、あ~んさせながら食べることになった。こういう形で甘えられるのは意外だったけど嬉しかった。
「ふぅ……ごちそうさまでした。」
「良かった。とりあえず完食したみたいで。それじゃあ、僕はここいらでお暇させてもらうよ」
「え、もう帰っちゃの?」
「う、うん。それに体調が悪い以上、美結はしっかり寝なきゃ!」
「……それなら最後に一つだけお願いしていい?」
「お願い?」
「うん。最後にぎゅーって抱きしめてほしいの」
「え……? わ、分かったよ」
突然の甘えた発言に驚きこそしたものの、美結から言われるのは意外こそあっても甘えられるのが嬉しい僕としてはそれが何より嬉しかった。
そして彼女の目の前でしゃがみこんで言われた通りにぎゅーっと抱きしめることにした。
(わっ……なんだか甘い匂いがする。というか女の子とハグするってこんなに良いんだ……)
「……ありがとう。中村君。えっと、お休み!」
そう言って美結はそのまま深く布団を覆いかぶった。
「……」
そして美結の家を後にしてずっと思っていたことがあった。
僕の彼女こと、加藤美優は他の女の子より距離感がおかしい……のかもしれない。
最近仲良くなった女友達の距離感がおかしい ホオジロ夜月 @coLLectormania
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます