第191話 ペンギンの餌やり体験

「わ! たくさんいるね!」

「うん。そうだね……」

 さっきの問いに問いに対して美結からはぐらかされたような気がして、今も少しだけ腑に落ちない感じがあるけれど、今は一旦忘れることにした。

 それに、こうして目の前で自分の彼女が目新しいモノに新鮮な反応を見るとそういった気持ちも薄れていく。

「そういえばさ、中村君」

「何? 美結」

「私達が最後に行こうとしてるイルカショーって、一応まだ何回か開催されるんだよね?」

「え、あーうん。確か後3時ちょうどの時と4時前の二回分残ってるから、まぁここでどのぐらいの時間、いるかにもよるけど……多分4時前のそれを見に行って余裕があればお土産を買っていくって感じかな……」

「そっか……それじゃああんまり長居は出来なさそうだね」

「そうだね。ショーって多分けっこうな時間使って楽しませてくれる感じだろうし」

「……まぁ、それはそれとして今はこっちを楽しもうよ。せっかく来たんだしさ!」

「うん。それもそうだね!」

「皆さん! そろそろペンギンさんへの餌やりの魚を配りますのでこっちに来てください!」

 美結と長々と話していると丁度、飼育員さんが大きなバケツを持ってきて一人一人にペンギンの餌である魚を渡していく。

 あっという間に列ができ始めたので僕らもそのまま並ぶことにした。


「それでは皆さん持ちましたかね? それではお願いします!」

 その指示と同時に他の人たちは匂いに釣られて、顔を出してきたペンギンたちに魚を落としていく。

 そんな中僕らはその人だかりの中に入れず、餌を落とす丁度いいタイミングが分からずにいた。

「思ったより、あそこ人が密集してるね……少し入りずらいかも」

「だね……できれば入ってそのまま参加したかったけど、どこか一匹狼みたいな子っていないのかな?」

「ペンギンなのにそんな子いたら珍しいけど、流石に……ん?」 

 流石に一匹だけじゃなく何匹かと一緒にいる個体ならいたけれど、完全な一匹狼たタイプはいないと思って見渡してみると、ちょうど近くに一匹だけこっちに近づいてくる子が一匹だけいた。

「ねぇ、美結。この子なぜかあっちの人だかりじゃなくてわざわざこっちに来たみたいだよ?」

「え? あ本当だ! 可愛い!」

 その子はまだかまだか、と目で訴えるように小さなジャンプと一緒に腕をパタつかせていた。

 こうして待たせているのも悪いと感じて、僕らはそのまま餌の魚をその子の口にめがけて落とし入れた。


「いやー可愛かったね。ペンギンさんへの餌やり体験」

「そうだね……まさか一匹だけこっちに来るとは思いもしなかったけど……」

 餌やり体験も終わった僕らは最後のイルカショーを見に、話しながらその場所へ歩いていた。

「うんうん。あれじゃないかな? 大勢がいる所よりも私たちみたいな少ない人の方が沢山食べられるって思ったんじゃない?」

「あ~言われてみればそうかもしれない……結構ずる賢いのかも?」

「それはそれで、なんだかあの一匹狼の子見てて英二思い出したな……」

「佐藤君?」

「そ。なんだか不愛想な所とか、大勢がいる所にはいかない感じとか」

「あはは、確かに言われてみればそうかもしれないね!」


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