第180話 拭えない不安感

「……これはやばいかも」

 ある一枚の紙切れを見ながら僕はそんな感想をこぼす。

「どうしたの? 中村君?」

「えっと…実は自分が受けようとしてる大学なんだけど模試判定がさ……」

「ふむ? ……えっとC判定?」

「うん。担任の先生からせめてAまではいかずとも、B判定は出しておかないと厳しいって言われて……」

「そっか……ファイト!」

「うん……ありがとう。美結」

 そう励まされながらも僕たちは再び各々、自分の勉強に戻った。


 終業式が終わり、しばらくの間、夏休みとなったことでより一層僕らは自分の進路獲得のために動きだしていた。

 進学するものは模試判定でいい結果を出せるようにしたり。就職するものはその職場について詳しく調べたり面接の練習をしたりなど結構やることはある。

 そんな中、僕と美結は進学する大学は違えど、進学である事には変わりないのでこうしてどちらかの家にて勉強することになった。ちなみに今日は僕の家でやる事となる。

「そういえば自分が言えたことじゃないんだけどさ」

「ん?」

「美結の方は模試判定はどうだったの? ランク」

「あーえっと……言った方がいいかな?」

「? うん。駄目かな?」

「駄目じゃないけど……その、気を悪くさせちゃうかもしれなくて……」

「……? 大丈夫だよ。僕は別に気にしないよ」

「そうなの? 分かった。ごほん……私はA寄りのB判定でした」

「A寄りのB判定……」

 美結が僕よりも勉強が出来るのは前々から知っていたけれど、ここまで差があるとは思いもしなかった。にしたってほぼAに等しい判定結果だとは……



「ちょっと飲み物用意してくるね……美結はおかわりいる?」

「あ、お願いしようかな。いってらっしゃい」

 そう言って僕はキッチンの冷蔵庫から適当に飲めそうな飲み物を自分のコップに入れ、もう一つのコップには美結が好きそうなジュースを入れておくことにした。

「はぁ……もう今年も半分が過ぎたけどやっぱりもう少し焦った方が良いよね……」

 実際に試験が行われる二月まで残り今月を含めても後五か月弱。

 模試の結果が振るわないのは受ける前から自分でもわかり切っていた。

 確かに美結は勉強ができる。だからこそ頼りになる以上頼り過ぎは良くない気がする。

「進学か……」

 高校3年生、あるいは二年生になっていくにつれ、誰しも自分の進路について考えたことはあるはず。かくいう僕も去年は真剣にそこんところは考えていた。だけど……

「そんな急に『自分の歩いていく道を見つける』だなんて、いつの間にかその事について考えていくのを止めちゃったな……」

 そもそもとしてやりたい事、やってみたい事が何一つも思いつくことも無く、無意味に過ごしてきた一年間。


 そんなものもこれといってなく、こうして僕は進学を選んだ。

 大学まで行った方が卒業後の就職活動が多少は有利になる。ただそれだけだ。そう言われたからこうして必死に勉強に取り組んでいる。

「うーん……」

「そんなに頭を悩ませてどうしたの?」

「わっ! び、びっくりした……いたの?」

「うん。いたよ? というかさっきから声を掛けてたのに気づかなかったんでしょ?」

「え? そうなの? ごめん。気づかなくて」

 周囲からの声にも気づかないほどに僕は進路について深刻に考えていたみたいだ。

「それは良いんだけど……そこまで何を悩んでたの?」

「実は……自分の進路について考えてて」

「進路?」

「うん。正直言って今後もこれといってやりたことも無いし、つまらない人生になるのかな~ってふと考え込んでて……」

「そういう事だったんだね。それは道理で悩むわけだ」

 美結はまるで他人ごとかのように言った。

「そういう美結はどうなのさ? やりたい事とかないの?」

「あるにはあるけど……」

「あるけど?」

「中村君にはまだ秘密!」

 そう言って美結は口元に人差し指を立てながら、いたずらな笑みをこぼしながらそう言った。

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