第42話 多忙な一日
「美結。チーズケーキ2個注文入ったよ」
「分かった」
「中村君。空いたテーブル拭いといて」
「うん。了解」
本格的にお客さんも入ってきて、最初はそれなりに人が来て程よく忙しい感じになると思っていた。
だけど一昨日、昨日と繁盛していたのか、オープンから2時間で満席となりホールとクーラーボックスのある場所を往復するぐらい多忙となっていた。
「ひぇ〜まさかここまで忙しくなるなんて思わなかった……」
「ほら、美結。口より手を動かす。多分ここらへんのお客さんが帰ったら落ち着くはずだから」
「う、うん。頑張る……」
それからも休憩の12時までぶっ通しで僕らは動き続け、もうあまりの忙しさにほとんど何をしてたのか覚えてなかった。
「はぁ……つ、疲れた……」
「お疲れ様。はい。美結、しのっち、中村君」
教室のドアを閉じ、休憩中ということでクローズの看板を掛け、椅子に腰を下ろしていると僕らを労うように五十嵐さんは水をいれたコップを置いていくれた。
「あ、ありがとう……五十嵐さん」
「3人とも、すっごい疲れてるみたいだね……大丈夫?」
「そう見える?」
「あははっ! ごめんごめん。けど安心して、忙しいのは午前だけだから」
「うん。そうなの。午後からは体育館で演劇やってたり、軽音部がライブしたりするから……」
「あ、そっか。だから必然的は客足は少なくなる……」
「そういうこと。それで? 中村君は仲のいい女の子のカッワイイ〜コスプレ衣装を見てご感想は?」
「うっ……だって忙しくて見たり話す余裕なかったし……」
「でも、今は見放題ですよ〜? 旦那?」
「てか誰が旦那だ!」
けど確かに午前中はそもそも暇な時間はまず無かったので、ようやく美結の衣装に目を通す事ができる。
「ほら、美結も観念して可愛い衣装を見せなって!」
五十嵐さんに背中を押され、美結は今も少し気恥ずかしそうにしながら立っている。
「中村君。ど、どう……かな?」
そういって美結は軽く一回転して服の全体像を見せてくれた。
彼女が来ている衣装はメイド服の中でもオーソドックスなヴィクトリアンメイド。
胸元やスカート部分には小さなリボンが結ばれていて可愛らしさも強調されている。
「えっと……似合ってるし、その……リボンとかも可愛いと思うよ」
「そっか……えへへ。ありがとう!」
美結は心から嬉しそうに笑いかける。不器用で口下手だけど上手く美結の事を褒められたみたいで良かった。
「はいはい〜お二人さ〜ん。イチャつくのはそこらへんにして。ここには私としのっちもいるんだから……」
「「べ、別にいちゃついてない!」」
驚くほどにその時は声は見事にハモっていて内心、少しだけ笑い出しそうになった。
「というか、五十嵐さんが感想を求めたんじゃん……」
「ごめんて。けどこういうのはきっと必要なことだよ? 中村くん?」
「必要なこと?」
「そうだよ! だって誰かを褒めたりするのって以外とコミニケーションに置いても重要なこと!」
そういって五十嵐さんは必死そうに褒めることの重要さを僕に説く。
「うん……まぁ、善処するよ。大切な事だっていうのはなんとなく分かったから」
というか今のところ美結と北沢さんぐらいにしか褒めたり、したことない気がするけど……
それからも僕らは他愛無い話をしたり、午後の配置を話し合ったりして休憩はもうそろそろで終わろうとしていた。
「さてさて。そろそろ午後の部。始めますか〜!」
教室の時計の針は午後一時を指しており、もう再開前からドア越しに何人かの人影が見えていた。
「元気だね……五十嵐さんってそんなに体力あったの?」
「まぁね。私、引っ越しのバイトやっててさ。そのおかげで体力と筋力は女子の中でも人並み以上にあるよ!」
「そうなんだ。引っ越し……」
そういえば僕も含めてバイト経験者って言ってたっけ……それにしても引っ越しとは少し意外だ。
五十嵐さんってけっこうThe、お洒落女子といったイメージだから、それこそアパレルショップや喫茶店みたいな接客業でやってるものと思っていた。
「そ。それじゃあそろそろ開けようか」
「そうだね。それなりにお客さんを待たせてるだろうし」
そうして午後のコスプレ喫茶再開となったが、格段に午前よりも客足は驚くほどに減っていきだいぶ余裕ができていた。
「おーい。中村君」
「ん? あ、斉藤さん」
「やっ。見に来たよ〜」
昨日の夕方言っていたとおり斉藤さんは確かに来た……のだけど……
「斉藤さん。すごい、私服ですね……」
「そうかい? これでも自慢のコーデなんだけどね……よくすれ違った人に二度見されたよ〜」
あまり周囲からの視線も気にせずここまで来たみたいで、斉藤さんのなんとも言えない服装には僕も感想を出すのは難しかった。
なにせ、下は普通のジーパンだけど上に羽織っているのは黒いダウンジャケット。それでいてベレー帽をかぶったりもしていて可愛いとワイルドの二重コーデみたいなん感じだ。
「あっ、昨日も来てくれたおじいさん!」
「お、昨日はどうも!」
「あ、あれ? 二人って知り合い?」
「ん? 言わなかったっけ? 僕、昨日もここで食べていったんだよね」
「そうそう。それで少し話したりもして盛り上がって私達仲良し〜!」
そういって二人は軽いハイタッチをする。けっこう仲良さそうに見える……二人共陽気な性格してるし、相性がいいのかもしれない。
「いや〜それにしてもいい雰囲気だね。ここ三日連続で来たけど気に入ったよ」
「ありがとうございます。それで注文はどうします?」
「アイスコーヒーで」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
ちょうど今訪れていたお客さんは斎藤さんぐらいで他の三人は休憩していた。
そして僕はコーヒーを出し終わった後は少し斎藤さんと話し込んでいた。
「ここのコーヒー美味しいよ。来て良かったよ」
「それは良かった……というか今日も店は……?」
「勿論。開けてないよ」
斉藤さんは曇りのない笑顔でそう答えた。そういえば昨日、一昨日も訪れていた聞いてはいたが、もしかして三日連続閉めていたのだろうか……
「……はぁ。まぁいいや」
「それにしても動きを見てて思ったけど、もうすっかり接客業が板についたみたいだね。動きに無駄がなかったし」
「そうですか? まだバイトを始めて三週間かそこらですけどそう言ってくれると嬉しいです!」
「これならホール以外にも任せられる仕事も増えそうだよ。まだまだ教えたいことは山積みだよ?」
「うぅ……頑張ります」
「あっはっはっは! まぁ気楽にね。さてと。コーヒーも丁度飲み終わったことだし帰ろうかな」
「あ、もう帰るんですね。今日はありがとうございました!」
「こちらこそだよ。それじゃあまたね」
勘定を済ませ、テーブルの片づけを終わらせた僕は三人の元に戻った。
「ふぅ……もうクタクタ」
「お~お疲れ様。あの人は帰ったの?」
「うん。ついさっきね」
「そっか……なんだかんだで後一時間で終わるしもうここでゆっくりしちゃおう~」
「顔が蕩けてる……五十嵐さん。しっかりして!」
「まぁまぁ。しのっち。もう私は燃え尽きたよ……後は三人に任せるよ」
そう言って五十嵐さんはゆっくり目を閉じた。
まさか、寝た……?
「寝てるみたい。あ……そうだ。中村君」
「ん? どうしたの?」
「私達、実行委員は放課後に集まって体育館の片づけだって」
「そうなんだ……分かった」
本当は放課後に美結と一緒に帰ってこの前の事を聞こうと思っていたけれど、仕事なら仕方ない……
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