第43話 考える時間

「という事でみんなは文化祭、楽しめた~?」

『は~い!』

「私も~! この三日間でいろんな生徒とたくさん写真を撮ったからね! みんな~後で写真ちょうだいね~!」

 文化祭最終日のホームルーム。まず普段よりはっちゃけている担任の先生のトークから始まり、いつもの真面目な話や文化祭の最後を締めくくる記念写真を撮ったりして疲れから来るため息をつく間も無く、気づけばホームルームは終わっていた。


 ホームルームは終わり、僕は美結と一緒にまったりと談笑していた。

「先生、すっごく楽しんでたね」

「そうだね。普段は結構気難しい感じだからびっくりしたよ」

「明日からまた戻るのかな……先生」

「どうなんだろう。けど今みたいな方が生徒受け良いと思うけど……」

 普段大人しい人がああやってはっちゃけるのは文化祭みたいなお祭りごとの行事だからこそなんだろうか……それとも日々の鬱憤が爆発したのか。

「やっほ。二人ともお疲れ」

「お、朝倉。お疲れ」

「朝倉君。お疲れ様」

「いや~ただのチラシ配りだったのにすげー疲れたよ。なんか配ってたら女子に囲まれてさ」

「あはは……それは災難だったね。けどおかげでこっちは繁盛していたよ」

「そう? それなら苦労した甲斐ありってもんだよ」

 そう言って朝倉はにっと屈託のない笑顔を見せる。

 こうしてみるとやっぱり朝倉は顔はイケメンだし、モテるのはうなずける。そりゃ女子に囲まれるのも当然だ。

 ……そういえば今日うちのクラスに来た人、ほとんどが女子だったような……朝倉の集客力たるや恐ろしい。

「ところで二人はこの予定はある?」

「私は特にないけど中村君は……」

「僕は実行委員っていう点で先生から体育館の片づけに行くよう言われてるんだ。ごめん」

「大丈夫。一応打ち上げは二次会まではやるつもりだし。それで加藤さんの方は?」

「私は……その…あんまり人が大勢集まる所苦手で……ごめん」

「そっか……まぁ無理強いはしないよ」

 そう言って朝倉はややしょんぼり気味に肩を落とし、去っていった。


「悪いことしちゃったかな……せっかく誘ってくれたのに」

「いや、苦手ならそれでいいんじゃない? 正直僕も美結と同じ理由で断ろうとしてたし」

「そうかな……正直行きたいっていう気持ちもあったけど、どっちかというと中村君や絵里香、佐藤君に五十嵐さんみたいに仲のいい人たちだけで集まりたいかも……」

「そっか……なら放課後集まって打ち上げしてみる? さっき美結が言ったメンツで」

「え? いいの? けど中村君ってこの後……」

「うん。だから僕だけ遅れることにはなるとは思うけど……」

「……そういう事ならやってみたい! 良い?」

「分かった。そういう事なら早速みんなに連絡しとかないと」

「中村君~そろそろ~」

 史野森さんからの呼びかけで出そうとしたスマホを一旦しまう。

「あ、そっか。もう片付けに行く時間か」

「そういう事なら私がみんなに連絡しとくよ」

「いいの? 助かるよ。それじゃ行ってくるよ」

「うん。行ってらしゃい!」



「ごめん。お待たせ」

「ううん。大丈夫。それより何話してたの?」

「さっき朝倉から文化祭の打ち上げの誘いがあって。けど片づけで忙しいってことで断ったんだけど……」

「そうなんだ……まぁ確かにこの後の片づけどのくらい時間かかるのか分からないしね」

「そゆこと。さ、行こう?」

「うん」 

  そのまま史野森さんを連れ、僕らは体育館に向かった。


 体育館に着いてみると既に何人かはステージ前に集まっていてちょうど説明しようとしていたところだった。

「まずは疲れてる中、集まってくれてありがとう!」

「まぁ片付けと言っても少し手伝ってもらうだけだからそこら辺は安心してほしい。半分以上俺らが担当するようなものだし」

 今日は体育館を使っていたのは北沢さん達のクラスと軽音部。

 軽音部の方が最後に使っていたので座って聴くための席がずらりと並んでいて、これから全てを片付けると思うと骨が折れそうだ。

「ちなみに担当に関してだけど……俺ら教師陣はステージ上の小道具とか重いものを片付けるから、みんなはパイプ椅子とかゴミがあったらこの袋に入れといてくれ」

「それじゃあ早く終わらせて帰ろう!」

『は〜い』

 先生の号令で各々、バラけてパイプ椅子を畳んではしまう作業を繰り返し始める。

 しまうときにたまに視線を足元に落とすと、たまにお菓子の袋やペットボトルが落ちているのが見える。

 軽音部がバンドをやったいたからかその時の熱狂的な雰囲気でゴミを忘れてしまったんだろうか。

「それじゃあ僕らもぼちぼち始めよう」

「うん」


* *

「ふぅ……お、重い」

 今までそれほど重いものを持ったことがないからか、今目の前に置かれているパイプ椅子二つですら持ち上げるのが苦労した。

「大丈夫? 代わりに持つよ」

 そう言って軽々と持ち上げてくれてそのまま収納場所に戻していった。こういった時は中村君の事をやっぱり男の子だなぁと思う。

「うん。ありがとう……」

 そして、今見たいな退屈な時間ですら中村君と一緒だと楽しく思える。それは言葉で伝えるべきだろうか。それとも心に留めておくべき……?

 だけど……この気持ちは今も溢れてしまいそうで……

 そんな葛藤を抱えたまま、私たちは黙々と片づけに専念することに。



「やっと終わった~!」

 私もそれなりに椅子を運びはしたけれど、特に中村君は結構な数を片付けていたのか疲労発散の為に大きく背伸びをしている。

「お疲れ様。中村君」

「ありがとう……もう腕が上がらないよ」

「お~二人もお疲れ。ほい。これ労いの飲み物」

「あ、ありがとうございます」

 そう言いながらコーラを手渡された。まだキンキンに冷えている。

「また明後日な~そんじゃ!」


 体育館の片づけが終わり帰るためにバックを回収しようと私達は自分たちのクラスに戻っていた。

「なんだかんだであっと言う間に終わったね。片づけ」

「そうだね……気づけば終わってたね」

 片づけ自体はそこまで疲れたみたいな感じはなかった。どちらかというと中村君との時間がもう終わってしまうという事が寂しく思う。

(中村君はこの後他の人と打ちあげに行くのかな……嫌だな。もっと一緒にいたい……)

 そう考えだすともうあまり自分の気持ちに蓋をすることができそうになかった。

「中村君」

「ん? どうしたの?」

 多分、中村君のこと。困らせてしまうかな……いや、この気持ちは早く伝えたいと思ってもしょうがない。

「中村君に伝えたいことがあります」





 





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