第40話 汐華祭 三日目
『えっと……もう少し詳しい話を聞いても?』
「う、うん……正直私の中でも混乱してて……」
とにかく誰かに相談という形でもいいから聞いて欲しかった私は、絵里香には言いだしずらく、悩んだ末、五十嵐さんに話すことに決めた。
「えっと……今日の最後にいつもの四人でチェキの撮影をしてくれるところに行ったんだよ」
『チェキねぇ……』
「それで、最初に私と中村君でとることになって……それで……」
『……もしかしてその時に告白したの?」
「う、うん……撮った後に中村君の顔を見ているとその、なんて言うか……」
正直、自分でもなぜ、あの時告白をしたのかあんまり分からない。気づけば口からあの言葉が出ていた。
きっと中村君は困惑してるかな……それとも迷惑させちゃったかな……
『好きかも。っていう言葉には少し引っかかるかな……もしかして、そういう気持ちになりかけてる。とかだったり?』
「……! そう…かも」
今思えば、私の中で彼への評価はある一つの感情になっていた。
『憧れ』羨ましいと思ったり、その人の様になりたいと思う気持ち。
だけどそれが直接恋心に繋がる訳じゃない……どちらかというと文化祭初日。彼が私に発した言葉。『美結のことが知りたいから』この言葉を聞いてからだ。自然と吸い込まれるように彼へ視線が向くようになったのは……
「だけど、正直この気持ちが好きっていうことなのかよく分からないや……」
『まぁ、それは無理もないよ。恋心ほど難解な感情はないし』
「うん……なんて言えば分からないけれど、ああやって口に出さずにはいられなかった……」
それこそ蓋をしていた心の感情が急に溢れて口に出してしまったというか……
『想いが溢れて、気づけばあの言葉を発していたって感じ?』
「……! そう。それ!」
五十嵐さんが言ったその例えはパズルのピースがハマるようにあの時の自分にピッタリと思えた。
それくらい私って中村君の事好きだったのかな……うん。ちょっと聞いてみようかな。
「五十嵐さん。私の相談に乗ってくれてありがとう! 考えが纏まった!」
『そう? 役に立てたのなら何よりだよ! 私も……ううん。それじゃまた明日学校でね。じゃ!』
そこで五十嵐さんとの通話は途切れ、真っ暗なスマホを見ながら軽く一息つく。
「とりあえず気持ちの整理はできたけど……ここから私はどうすれば……」
ひとまず状況はクリアに見えてきたけど、中村君とは気まずいままだし、なんだったら明日は彼と一緒にコスプレ喫茶で一緒に接客をするのに……
「……うん。よし。」
自分が今なにをするべきなのか考えた結果、私はスマホを手に取った。
『ふわぁ……もしもし~どうしたの? 美結』
「あ、絵里香。ちょっと話を聞いて欲しんだけどいい?」
*
汐華祭三日目。通学路の道中、昨日と違って今日だけは学校に向けて歩き出す足取りは重くなっていた。
特に嫌なことがあるわけではない。むしろ今日は楽しみな一日でもある。美結がメイド服を着た姿を見れるというのが主な理由。
だけど、その本人とは少し顔を合わせづらいというか……正直今日は普段通りみたいに話すのは難しい気がする。
一応斎藤さんに相談に乗ってもらった結果、『いったん様子見』という考えに落ち着いた。
「はぁ……」
考えることが多くて思わず大きいため息が零れていく。
これならまだテスト勉強をほとんどしていなくてそのままテストに臨むぐらいの悩みの方がまだマシだと思えてくる。
「どうしたのさ、そんなため息をついちゃって!」
正門に差し掛かった辺で突然後ろから誰かが勢いよくぶつかり一言言ってやろうとしたが──
「うわっ。びっくりした……ってなんだ北沢さんか」
「なんだとはなんだ。せっかく元気な挨拶と称してボディアタックくらわしてあげたのに」
「いやいや。それなら普通に挨拶してくれればいいのに……」
しかし、昨日からずっと考え事ばかりしていたのでおかげで少し冷静になれたかも……
「そーれで? 君がため息をつくなんて初めて見たけど、よっぽどの悩み事とお見受けします。若様」
「いや、誰のことよ。若様って」
「え、中村君のことだけど?」
「俺、もう北沢さんのノリがよく分からないよ……」
「え〜これでも友達にはウケたのに〜」
そんな陽キャ特有の謎のノリを流れるようにスルーしてそのまま下駄箱まで歩く。
下駄箱で履き替え、並んでそのまま教室に向けて歩き出す。
「それで? 実際になんかあったりした?」
北沢さんは不思議そうに首をかしげて気になっているであろうことを尋ねる。
昨日までは斎藤さんではなく、先に北沢さんに話す。というのも考えていた。
実際、美結と一番仲が良いのは彼女だし、現状、バイト先の斎藤さんしか話してないので彼女になら話してもいいかもしれない。
「少し長くなるんだけど……」
それから僕は少し考えた結果、北沢さんにも話すことに。主にチェキ撮影の時での出来事を……
「あ~ な、なるほどね……」
「うん。それで今日は美結とは少し気まずい感じで……」
「うん……どうりで。ぎこちないわけだ」
一通り昨日の一部始終を話したものの北沢さんにしては大して驚かなかったのは少し意外だ。
「それで……中村君はどうするの? 美結とは」
「それって美結が言ってた事への返事? それとも普通にどう接するのかって事?」
「両方だよ。まぁ、前者に関しては急いで答える必要はないと思うけど……」
「とりあえず今は様子見を兼ねてなるべく普段通りに接しようかなって……」
とは言っても、今までみたいに何事もなく接するのは難しいような気もするけれど……それは美結も同じようなことかな?
「それじゃ、私は用事あるからまたね。中村君」
「うん。それじゃ」
そんなこんなで教室前の廊下で北沢さんとは別れ、僕は先に自分の教室に入ることに。
「あ、中村君……おはよう」
「おはよう。史野森さん」
「もう文化祭もあっと言う間で終わっちゃうね……」
「そうだね。もう早いものでもう最終日か……」
今思えば今回の文化祭は美結の事でバタバタして、一件落着したと思えばその本人から告白されたりと去年、一人で見て回ってた時と比べて大違いで一生の思い出になりそうだ。
「史野森さんはどこか見に行ったの?」
「私は……五十嵐さんと一緒に適当に見て回ったかな」
「へぇ、五十嵐さんと……意外な組み合わせだね」
「五十嵐さんの方から誘ってくれて……それで二人で見て回ったの」
それからもお互い、二日間でどこを回ったのか、何をしたり、食べたりしたのかと文化祭ならでは話題で会話は弾み出す。 あ、そういえば──
「史野森さんってここで売られてる焼きそばって食べた事ある?」
「あ、うん。私も昨日、五十嵐さんと一緒に食べたよ。本当に美味しかったです」
その時の感想を話していた史野森さんの顔いつもより柔らかい感じで、美結の笑顔を見た時と似たような気持ちになった……今でも少しドキドキしている。
「お、おはよう……中村君」
「ん……あ、美結。おはよう」
そんな中、不意に後ろから聞き慣れた声で呼ばれる。いつもは意識はしていなかったけれど、美結の声は透き通った水のようでずっと聞いていたくなると思える。
いつもは相手の声は気にしたことなんてなかったけど、昨日の一件からいろいろと意識し始めていた。
「それじゃあ……また後でね」
「うん……」
挨拶が終わったところで美結はそのまま何も言わず自分の席に戻っていった。
正直、向こうも気まずいだろうに……それでも挨拶だけでもしに来てくれたでも感謝しないと。
せめて返事をしっかり考えないと、昨日あの言葉を言ってくれた美結の気持ちに応えないと……
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