第31話 本当の想い
「う〜ん……結局見つからないね。あらかた探したとは思うけど」
「何気にうちの高校って広いよね……三棟まであるぐらいだし、全部見て回ってたら日が暮れちゃうね……」
絵理香から美結の過去と二人の関係性を知った隼人は一刻も早くて見つけて二人を引き合わせたいと思い探し回っていた。
「けど多分だけどこの一棟のどこかだと思う……いくら無我夢中で走っていったとはいえ、ここよりもっと人が多くなる二棟や学校の校庭にはいってない……とは断言できないけれど」
「……それもそっか。ならその可能性にかけてかたぱっしから調べていこう!」
「そうだね」
改めて探す範囲を限定した僕らは今度は分かれて美結の捜索に動き出した。
「とは言ってもあとはここの空き教室のエリアだけ……」
僕が訪れたのは一棟の三階。このエリアは誰も使うことがなく、あっても進学や就職に関する講義を行うぐらいだ。それを踏まえて考えるとこのエリアが彼女にとってじっとするには最適だと言える。
「ここは……いない。こっちもだ」
僕は一つ一つ、ドアの窓から中を先に覗いてから勢いよく開けて確認する。もしいたら本人からしたらびっくりさせてしまうからだ。
だからそこらへんも考えて慎重に動かないと……
「ここは……あっ!」
いた……というよりは机に突っ伏するようにじっとしている。
何気にここら辺の教室全部鍵空いてたし、いがいと
どうしよう……北沢さんが来るのを待ってから入ろうか。いや……!
今の気分はまるでアルバイトの面接を受ける時みたいに少しだけ心臓がドキドキして騒いでいる。そんな気持ちの中、僕はその教室のドアをそっと優しく叩いた。
『……誰ですか?」
僕が行ったノックに対していつも通りの話し方で応える美結。ノックして中に入るのを決心したはずなのに、今の彼女の声を聞いていると『今はそっとしておくべきなんじゃ?』という葛藤が生まれる。
確かにそれも一つの選択。けど、このままほっぽっておくのは僕にとっては最善の選択じゃない気がした。こんな風に悩んだら直観に元ずいて行動するのが僕のポリシー。
「僕だよ。美結。入っても?」
『……いいよ』
少しの間はあったけれどそれでも彼女の口から許可はもらえた。僕はその許しを得た上で恐る恐る中へ入る。
* *
「……いた、探したよ。美結」
中村君が教室のドアをゆっくり開ける音が聞こえてきたので、もう彼がこの空間にいると思うといつまでもこのままいるのも彼に失礼な気が私は顔を上げた。
「ごめんね。中村君。あの時急に逃げ出しちゃって」
「ううん。気にしないで。誰だって嫌な人と出会ったらあんな行動をとっても不思議じゃないよ」
「え……どういう意味?」
私にとって確かに梓澤さんは嫌な人……苦手な人に分類できるけれど、そのこと中村君に話したっけ……?
「ああえっと……実は北沢さんに教えてもらったんだ。昔の美結のこと。梓澤さんと何があったのか」
それを聞いた時、私の中に簡単には言い表しずらい何かが心の中で生まれる気がした。いじめられてた過去を知られたことへの悲しみ? それともその話をした絵里香への小さな怒り?
それに親しい人のいじめられてた過去なんて知っても意味ないし……
「そうなんだ……もしかして絵里香の方から話したの?」
「ううん。違うよ。僕から聞き出したの美結と梓澤さんの事」
「え……それこそ、どうして?」
ただの興味本位? それとももっと別の理由が……?
「……なんて言うか、そのことについて聞けば何か美結のことを手助けできるかも……って思ってたんだけど一番は」
それから中村君は息をのんで一言添える。
「美結のことをもっと知りたいと思ったから」
* *
「美結のことを知りたいと思ったから」
「私の事を……?」
なんでだろう……私の事を知りたいという言葉を聞いてからドキドキが止まらない……むしろもっと早くなって……
「うん。美結の好きなものや苦手もの、嫌いな事だったり、いろいろと」
「だけど聞いても面白くないことだったり、むしろ聞かなきゃよかったって思うかも……」
そう思ったからあの時私は……思わず逃げ出してみんなに心配をかけて……後で絵里香にも謝っておかないと。
「それでもいいよ。僕自身が知りたいと思ってるだけだから」
あぁ……君のその言葉を聞いていると胸の内側から暖かくてじんじんするような気持ちになっていく。
「本当はさ……」
「うん」
「あれから私も少しは精神的にも強くなって、それこそ梓澤さんみたいな苦手な人を前にしても平気になれると思ってた。けど……」
ここから先は中村君にはもちろん。絵里香にだって言おうと思ってなかった、今私が誰かに話したかった本当のキモチ。
「私ってまだまだ弱いままだったなぁって思って」
その時からだった。気づいた時には頬を熱く透明な液体がしたたり落ちる。
「え……?」
私が一方的に話し始めた何てことないただの本音なのに、中村君は嫌な顔を見せるわけでもなく、かといって何か言葉を投げかけるわけでもなく。ただ私が発する言葉の一つ一つに耳を傾ける。
あぁ。そっか……これが中村君が言ってた『私の知りたいこと』だったんだね……
そしてそれは言葉としては聞こえなくても『もっと話していいよ』って許しをもらえたみたいで私の口はいつもより軽くなっていた気がする。
それからも沢山の思いが彼の前でなら無限に口から溢れていくような気がした。
それこそ君へのいつの日か伝えようとこのオモイでさえも……けれどこの思いを今、伝えようとする私は卑怯かな……?
* *
美結が話し始めてからもうかれこれどのくらいの時間が経ったんだろう。それこそ、中に入る前は美結の事を落ち着かせてから北沢さんを呼ぼうと思ったけど……
「けどあの時、本当は私は……」
ふふ。とりあえず美結の話したい事っを彼女が満足するまで相槌を打ちつつ、話を聞いてあげようかな。けどそれはそれとして……
よ、良かった〜! 途中から心に思った事を言うだけだったけど美結が喜んでくれてるみたいで本当に良かった……
「それで……中村君。最後に一つ良いかな?」
「うん。何?」
さっきまでとは打って変わって真面目な雰囲気に様変わり。
「少し前に言ったけど、私って弱いよね……」
確かに美結はそんなことを言っていた気がする。しかし弱いってどういう意味だ?
「美結にとって弱いことってそんなに駄目な事なの?」
「うん……だってそうじゃない? 人に見せたくないところなんだし」
「そうかな? その弱いところにもよると思うな」
きっと美結にとって弱いって言うのは……
「だってメンタルが弱くてもその分他の人にも寄り添ってあげる思いやりの気持ちがある証拠だよ」
「思いやりの気持ち……」
「そう。だからたまには誰かに甘えてもいいんじゃないかな」
「甘える……」
それからは美結も段々といつもの明るい表情が芽生えだすもすぐに何かを考えていて明後日の方向を見ていた。
「……をつないでほしい」
「え?」
「その…手を繋いでほしいです……」
突然黙り込むからどうしたのかと思ったら早速、甘えるという事を有言実行するとはその行動力に僕は唖然としていた。
「だって中村君が言ったんだよ? 『甘えていい』って」
確かに言ったけども! けど美結がこんなに素直な美結を見るのは初めてな気がする。
「分かった。これでいい?」
手を握りやすいように僕は美結が座っている窓側の席の隣に椅子を置き差し出された手をそっと握る。
彼女の手から伝わってくる体温、脈拍。何よりその細さに驚く。こっちは北沢さんに言われた美結からの好き疑惑のことで頭がいっぱいなのにこれじゃ余計に意識してしまいそうだ。
何か別の何かに意識をずらせないかと辺りを見渡すと背中から暖かい日差しとともに太陽が今朝ぶりに顔を出していた。
「あ……空。晴れた」
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