閑話 ガールズトークその2
十月九日。土曜日。学校の最寄り駅にて。
十月も中旬に差し掛かり、まだほんの少しの蒸し暑さと秋特有の微かな涼しさで少しだけ過ごしやすい季節になってきた今日。私はある人と待ち合わせしていた。
「うーん、どこも変じゃないよね……」
待ち合わせの時間までまだ少し余裕があるので、スマホの自撮りモードで髪が変になっていたり、ぼさぼさなところがないか確認する。
文化祭準備でホームセンターで買い出しに行ったあの日。それから五十嵐さんとたまに話す日が増えていき、今日私は彼女と遊ぶ約束をしています。
「うん! 多分、変なところはないかな……」
今日はただ遊ぶ日という事とはいえ、こうして休日を誰かと過ごすのは久しぶりなので、髪型や服装などをお母さんに聞いたりして今日の私は張り切っています!
「ごめん~! 遅れちゃって。ちょっと寝坊してさ」
その時、五十嵐さんが駅の改札からやや早歩きで向かってくる。
今日はただの休日ということで当然五十嵐さんも普段の制服ではなく、私服。
あまりジロジロとは見れないけれど、首から掛けてある月を象ったネックレスや、パーカーとチェック柄のシャツも、上手く着こなしていてなんて言うかThe・陽キャ感、お洒落な人のオーラが半端ない……
「うんん。そんなに待ってないよ」
「本当? いやー実は昨日見たいアニメがあって、リアタイで見たくて起きてはいたんだけど途中で寝落ちしちゃって……」
「そうだったんだ……けど、間に合ってるから問題ないよ」
アニメか……そうえば、中村君とも主にアニメがきっかけで仲良くなったけ。五十嵐さんともそういう話してみたいな……
「それで五十嵐さん今日はなにをするの?」
「ふふん。それはね……」
そう言うと五十嵐さんには急いでスマホを取り出すとある画像を見せた。
「メイド服?」
「そ。この間。美結がメイド服を作りたいって言ってたよね?」
「う、うん」
「それで材料の買い出しと、まぁこっちが本音なんだけど。美結ともっと仲良くしたいな~」
その途中で五十嵐さんは何の前触れもなく、急に抱き着いてくる。
「きゃ・・・! い、五十嵐さん。急に抱き着かれるとびっくりする……」
「えへへ、ごめんね。次からは先に言うね」
「えっとそういう意味じゃなくて……」
言い切る手前で五十嵐さんは一歩前を行き以前訪れたホームセンターを目指して歩き出す。
「それで美結は学校から帰った後、何やってるの?」
「うーんと、基本的にやりたいことも無いし、お母さんのお手伝いかアニメを見たりかな……」
「へ~親の手伝いしてるなんて偉すぎ! 私なんて手伝いはほぼやってないなぁ」
「そうかな? 暇だったから。ていうのも理由の一つだけどどちらかというと、お母さんの手伝いをしたいっていうのが大きいかな」
道すがら、私たちは質問し合いながら歩いていた。とはいえ、どちらかというと主に五十嵐さんからの質問攻めにあっている気がする……
今日少し話しただけとはいえ、彼女の人物像がぼちぼち見えてきた。
それは、距離感が近いという点。さっきの時もそうだしそれとなく抱き着いたりすのは彼女の癖なんだろうか……教室でもそうしてるの見るし。
実際に抱き着かれるのは少しだけ恥ずかしいけど意外と嫌だと思っている自分にびっくり。絵里香だったら躊躇なく嫌って言ったとは思うけれど……
とはいえこの事を五十嵐さんに言ったら、もっと抱き着いてくる頻度が増えそうな予感がするから言わないけど……
「それでどんなのを作るのかは決めてるの?」
「うん。多分メイド服の中でも比較的簡単に作れるやつを選ぼうと思って……まぁ、一緒に考えながら作っていこうよ! 時間はまだまだあるんだし」
「それもそうだね。なんだかんだでまだ二週間もあるし」
そうこうする間にホームセンターに到着。そのまま以前布を購入した場所へ向かう。
「うーん。メイド服を作るとは言ったものの、布がこんなにあるとさすがに決めあぐねちゃうね」
「ふっふっふ……そんなこともあろうかと私は事前に色々と調べたんだ~」
「そうなの? それは頼りになるね」
「まぁ、二学期始まってからずっと調べてたからね。もうばっちりよ!」
そう言いながら元気そうにピースサインをする五十嵐さん。本当に楽しみにしたというのが心から伝わってくる。
「なら、あとは作るのに必要なものを買うだけだね。何がいるの?」
「えっとね……はい。このメモに書いたのが必要なリストだよ」
『必要なもの一覧
・黒地の布
・リボン
・白い糸』
「意外と少ないんだね。これならすぐにでも見つかりそう」
「だね~どちらかというと大変なのは作るほうだから準備だけでも終わらせとこう!」
「そうだね。何気に二人分作るからその分、時間は倍かかるだろうし」
「そゆこと。じゃあ手分けして探そう」
「了解」
そうして一度分かれて探すも思ってた以上に早く全て見つかりどこかで一息つこうと付近にあったカフェテラスに入った。
「これで材料は完ぺき…とあとは学校で作り始めるだけだね」
「そうだね。まだお昼まで時間あるけどこのまま解散にする?」
「うーん……それでもいいけど、せっかく集まったのにもう解散は寂しいような……」
「あ! 美結じゃん!」
突然、後ろから誰かが抱き着いてきて思わず飲み物が零れかけた。
「わ! え、絵里香? どうしてここに?」
「それはこっちのセリフだよ。私は劇の小物に使う材料が無くなったからその買い出し そっちは?」
「こっちも似たところかな、メイド服作りの材料を買いにね」
「へ~ところで、美結。この人は?」
「あ、そっか、絵里香は初対面だよね。この人は最近友達になった五十嵐楓さん」
「どうも五十嵐です。始めまして……だよね?」
「だね~こうして話すのは初めてかも。ちなみに見ての通り、美結とはかなり仲がいいよ」
それからも相変わらずくっつき続けている。暑苦しいから離れてほしい……
「う、うん見ればそれが伝わってくるよ……」
五十嵐さんは苦笑いを見せながらそう言い放った。
「けど、こうやってくっつく必要ある?」
「う…まぁ、そうなんだけどいいでしょ? 美結は私にくっつかれるの嫌?」
「その言い方はずるいよ……」
別に嫌という訳じゃないけれど、それを言ったのなら尚更、絵理香は調子に乗るだろうし……
[けどけど! 私だって最近仲良くなったとはいえ、負けてないし! ね? 美結」
「え? う、うん」
絵里香のよく分からない煽りにあてられたのか、五十嵐さんも対抗するように反応する。その声掛けに思わず肯定してしまった。
正直どっちが仲良しなのかは別に気にすることじゃない気がするけど……けど。
「私のほうが!」
「いいや、私だね! なんせこっちは小学生のころからの中だからね~」
「ぐぬぬ……確かに私のほうが関わり始めたのは最近……」
さらにお互いの対抗意識はさらにヒートアップする。もうこの二人置いて私一人で帰ろうかな……
「はぁ……」
この状況に思わずため息が零れる。
「……! あ、ごめん美結。肝心の本人をそのままにしちゃってた。ごめん!」
「いや、別に私は大丈夫なんだけど……」
『ただ?』
「どっちが私と仲が良いとかそんなことよりも、その…二人ともただ、仲良くしてくれれば私は嬉しいと思うんだけど……」
『美結……』
正直こういうことは本人らの前で言いたくなかった。言い切った今も恥ずかしさで主に顔あたりに熱が集中しだして、体調不良の時の自分みたいな感じだ。
そしてこの言葉を聞いた二人は少し唖然としていたのも束の間。
『か、可愛い!!!』
「え・・・・・・?」
黙りだしたと思ったら、まさかの意外な一言に開いた口が塞がらない。
「もう! 本当に可愛いな~! 私達の美結は~♪」
「そうだね~♪ もうマスコット的、いや、小動物的な愛らしさがあるよ~!
よく分からない誉め言葉? みたいなのを言われながら急に再び二人に抱き寄せられてサンドイッチにされる。
「ちょ・・・・・・頭わしゃわしゃしないで!」
「うんうん。わかってる! だからあと一時間、いや、三十分はこうさせて……」
「はぁ……分かった。三十分たったらすぐに離れてよね……」
もうこうなった以上。諦めるほかない気がする。一応、なんだかんだで『本当に嫌』というわけではないので今回は私のほうが折れることになった。
ちなみにこの後帰りの電車の中でも、今のこれと近いことを二人にされことである事実に気づく。
この二人を言い表すとしたら『混ぜるな危険』以上に相応しい言い方はないと思う。本人たちには悪気がない分、尚、警戒してしまう二人となった。
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