第21話 文化祭準備 参
「着いた〜」
道中、話しながら歩くこと十五分。
僕たちの目的地でもあるホームセンターは周囲にファストフード店や、スーパなども隣接していてかなり大きい。
しかもこれほど大きな商業施設が学校から徒歩十五分圏内の場所にあると思うと、僕の行きつけのカフェといいホームセンターといい、将来は学校周辺に引っ越したいぐらいだ。
「さてと……なんだかんだでもう四時だ。早いとこ買うもの探しに行こう」
「そうだね。学校で作業できる時間も限られてる事だし」
そうして中に入り詳しい場所が書かれた案内板を探すことに。なにせホームセンターというのは何よりその広さと品数の多さが魅力。
「布…布……あった。けど、僕が買うことにしてる木材の場所からは結構離れてる……」
案内板に書かれてる建築用品の場所は地図の右端の位置に書かれている。
その対極的に、布は真ん中のそれも左よりの位置に記されていた。
「それなら一旦それぞれ手分けして目的の物探そうよ。見つけたら連絡して、レジ前に集合で」
「そうだね。ここは別れて行動したほうが時間的にもいいかも」
そうなると必然的に重い木材は男である僕が、布の方はメモを見た感じ、何種類か購入するらしいから、こういう感じに別れたほうがいいかな。
「じゃあ二人は布の方をお願い」
「ん」
「了解〜じゃあまた後でね」
そこでお互い書き分けたメモを握りそれぞれの目的の場所へ向かった。
*
目的地の建築用品のところに来て、隼人は驚きで口を大きく開いていた。
「細長い木材って書かれてたけど……結構いろんな大きさあるな……」
見渡す限りの多種多様な木材。
大きく平たいのから、少し分厚目の柱などなど。
木材と言われるぐらいだからそれほど探すのには時間はかからないと思っていたけど……
「これは丁度いいのを探すのは苦労しそうだ……」
とはいえ、何も僕たちはDIYのように一から作るのではなく、ある程度形の指定は既にされているのでそんなに時間はかからなさそうだ。
「なにかお探しでしょうか?」
突然後ろからの声掛けに思わず背中がビクッと跳ねてしまう。
「わっ…! びっくりした……」
「すみません。突然声をかけて。何やら頭を抱えてるご様子でしたので……」
「あ、店員さんか……」
背丈は何センチも上に見えるその身長からしておそらく大学生ぐらいの人なんだろう。
『研修生 佐々木』
というか普通にアルバイトだった。彼女の来ているエプロンに名札がしっかりつけられていた。
「その……短めで、それでいて少し、細めの木材を探してて」
「短いかつ、少し細い感じの木材……ところでその制服を見る感じ。文化祭で使うんですか?」
「え……そうですけど」
「はぁ……いいですね〜The・青春って感じで」
そう言いながら店員さんは何処か遠い目で天井を
見つめていた。
「まぁ……はい」
「あっ、すみません。それでお客様が探していらっしゃる木材は丁度、この周辺がそうですね」
「え、そうなんですか? まぁ…確かに形としてはほぼ合ってますけど大きさが……」
形こそ目当てのものではあるものの、大きさなんて横にしている分、具体的な長さはわからないけれど、多分2メートルはいきそうだ。
「でしたら長さを指定していただけたらこちらで切らせてもらいますよ?」
「そういったことしてくれるんですか?」
「ええ。というかほとんどの方は『長さが合わない』と仰る人が多いので自主的にそういったサービスもしています」
「そうなんですね……知らなかった」
そういった客向けのサービスもあるとは……流石はホームセンター。至れり尽くせりだ。
「それじゃあお願いします」
「はい。かしこまりました。ちなみに長さに関してはどれほどですかね?」
「長さは……」
……看板に取り付け木材ってどのくらいだろう。
とりあえず細ければいっか。
それから僕は目安で大体の細さと長さを指定して切ってもらった。
あまりの短さに店員さん驚いてたな……
* *
「さてと、加藤さん。私達も行こっか」
「うん。そうだね」
中村君の背中を見送ったあたりで、私達は反対方向にある布類が売られている場所へ歩き出す。
「こうして話すのは初めて……かな?」
「そうかも……正直、ちょっとだけ私、五十嵐さんに苦手意識を感じてたの」
「お、おっと……初手でまさかのバッシング」
そう言いつつ五十嵐さんは苦笑いをしながら話す。
「……けど『感じてた』って過去形だから今は違うって感じ?」
「うん……今、というよりはこうやって話してみて、イメージとは違ってたから」
「イメージって言うと……?」
「う〜んと……色々あって上手く言えないけど」
「うんうん。ゆっくりで良いよ」
この時の五十嵐さんは口下手な子供の話を聞こうとするお母さんみたいだった。
ニ年生になって五十嵐さんと同じクラスになったのは認知していた。
誰にでも平等に接して、それでいてその皆から認められていて、自分とは別の世界の人だと思っていた。
「なんていうか……高値の花? 言い方合ってるかわからないけど」
あるいはクラスのスター的存在? みたいな特別な人に見えた。
「高値の花……か」
それを聞いた五十嵐さんはすぐにしょんぼりしていた。
「あ……けど、『最初は』だから! 今はただ親しみやすい人で優しいなって思ってるから!」
おそらく彼女の触れてはいけない部分に触れてしまった。私は慌てて弁解するように『今』のイメージを伝える。
「そっか〜ならこれからは私、加藤さんとも仲良くなっていきたいな〜いいかな?」
「う、うん……! こちらこそ」
仲良くなった証しがてら私達は握手を交わす。
これを機に私と五十嵐さんはほんのちょっとだけ仲良くなった気がする。おまけに中村君以降、初めての友達な気がする。それも同性の。
「ふぃ〜着いたね。結構広いからここまででもう足がパンパンだよ〜」
「そうだね。私はまだ平気だけど」
とはいえ、なんだかんだで案内板のあった中心から距離は結構あった。
だけど道中、五十嵐さんと話しながら歩いていたので足の痛さなんてそもそも、気にしてすらいなかった。
「ふぅ……はぁ……」
休憩してる自分を癒そうと深呼吸する五十嵐さん。そして口を開いて――
「よしっ! とりあえずメモに書かれた柄の布をまずは探そう!」
「それにしても流石、ホームセンター。種類が沢山だね……」
「こんなにあるとメモに書かれた布以外も買ってみたい!」
「もう……ちゃんとメモ通りに買わないとオムライスを買うお金なくなっちゃうよ…?」
「安心して! 加藤さん。流石に私もそこらへんの分別はついてるよ」
何故かドヤりながらそう言う五十嵐さん。
けど確かに五十嵐さんの言う通り、ここら辺に置かれている布はどれも魅力的なのが沢山ある。
和風な雰囲気を纏った生地や洋風な花がらの生地。その一つ一つが魅力的でどれも目移りしてしまう。
「それでメモにはどんな布が必要って書かれてるの?」
「えっとね〜これ!」
『文化祭準備買い出しメモ
赤い花柄の布×2
白い薔薇の布
↑二つに合いそうなアクセサリー』
「意外と少ないね。というかアクセサリーって……」
「あはは……加藤さん。その目はやめて。結構心にグサリと来ちゃう……」
てっきり布単品だけを買うものとばかり……それともコスプレで使うのかな……?
「ところで2つとも花柄だけどそういうコスプレ?」
「うん。みんなお洒落な貴族? みたいなのをコスプレとして作りたいみたいだから」
「そうなんだ……」
コスプレっていうぐらいだからみんなてっきりアニメ、ゲームキャラ系のコスプレをするものとばかり……
「よかったら……加藤さんもやる?」
「え……いいの?」
「もちろん。やりたいならぜひ! ウェルカム!」
そう言って五十嵐さんは招き猫のようにこちらに手をこまねいている。
けど……コスプレか……
「……五十嵐さん。私。コスプレやってみたい」
「オッケー! ちなみにやりたいやつとかある?」
「えっと……」
「へ? ……あぁ!」
流石に口で言うのは恥ずかしいので耳打ちで五十嵐さんに伝えた。
「おぉ〜! 加藤さんがそれ着たいっていうのちょっと意外かも〜!」
「そ、そう……?」
「うん! だけど。うん。分かった! じゃあそれ関係の布も買っちゃおう!」
「ありがとう。五十嵐さん。私も作るの手伝うね?」
「いいのいいの! そ、れ、よ、りちょいちょい」
「うん…?」
私がさっきしたように今度は五十嵐さんが来るよう、ジェスチャーする。そして。
「中村君が喜んでくれるといいね?」
「……っ!?」
突然の囁き声プラスまさかの中村君の名前が上がってびっくりする。
「あはは〜もしかしなくても図星?」
「……どうしてわかったの?」
誰にもこういう風に見られたことなんてなかったのに……察するのが上手いのかな。この人。それとも私が分かりやすいだけ?
「う〜んとね。それはまた今度!」
「え……!?」
突然、この話の腰が折られて思わず変な声が出てしまった。
「うん。それにまだ買うものも残ってるし、ほら!」
それからも時々中村君のことでから揶揄されながら私達は無事目的の布を見つけられた。
「もう……知らない……!」
「ごめんって……加藤さん。私も悪ふざけが過ぎたから許して!」
購入する布を両手に抱え、私と五十嵐さん雑談をしながらレジ前で中村君を待っていました。
「……もうからかわない?」
「勿論! 本当っにごめんね!」
そうして心から申し訳無さそうに謝る五十嵐さんに対して、流石の私もここで許さなかったら心が狭い人になるなぁ……という感じで謝罪を受け入れた。
「あっ、だけどそれとは別に純粋に疑問なんだけどいい?」
「もしかして中村君関係……?」
また茶々を入れられると思って心の中の私は臨戦態勢を取る。
「まぁ……そうなんだけど真面目に聞きたいの。中村君のこと。どう思ってるの?」
「どうって……?」
「彼の事好きか、嫌いかってこと」
「その質問の仕方はズルいよ……五十嵐さん」
「え〜だって本当に気になるんだもん!」
そう言って五十嵐さんは食い気味に近づく。
「……好きだよ」
私がずっと彼に対して想っているこの感情は多分、友だちとしての『好き』じゃなく、彼を異性として見ての『好き』なんだと思う。
だけど今までの私はそんなことを想うことすらなかったし、誰かを本当に好きになるなんて思ってもみなかった。
「多分……異性としても、友だちとしても、彼のことは好きなんだと思う……まだよくわからないけど……」
「そっかぁ……」
それを聞いた五十嵐さんはまるで尊いものを見るような優しい微笑みでこちらを見ていた。
まるでお母さんみたい……
「お〜いふたりとも。遅れてごめん!」
するとタイミング良く中村君が遠くから歩いてくる。
そして五十嵐さんが私の背中を優しくポンッと手を添えて一言。
「叶うといいね。応援してるよ?」
そう微笑みながら一足先に五十嵐さんは中村君の元へ向かう。
私も遅れて歩き出す。そしてボソッと一言呟く。
「うん……これからも、私は中村君と一緒にいたい……」
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