第20話 文化祭準備 弐
十月七日。
終礼が終わり放課後。
さっそく僕たちは今日から衣装作りのチームと教室の飾り付け料理、などの内装準備のチームで別れて作業をやることになった。
衣装作りのチームに関しては五十嵐さんを中心に、コスプレをしたい人や裁縫が得意な人で集まっている。
「早速始めよう。内装といえば……何処から手を付ければいいのか……」
ちなみに僕はコスプレはあまりやる気はなく、当日は動物のカチューシャだけですることにした。
「まずは教室を喫茶店っぽくするために机を必要最低限にしたほうがいいかも……」
「あ、後は……テーブルクロスみたいなのもあったほうが……」
こっちの内装チームには僕と美結、そして史野森さんがいる。ちょうどそれぞれ、半分ずつ別れたのでお互い、滞りなく作業に取り組めるはず。
「とりあえず何か紙にやることをリストアップしていこう」
「けっこう出てきた……まぁこっちはそれほど時間はかからないから大丈夫かな」
あれからひとまず全員を集めて、内装、飾り付け、そして当日何人ぐらい教室に残すのか、などとけっこう内容が出てきた。
「まずは……内装。これに関しては当日はほとんどの机を使って、来てくれた人には座ってもらうとして……」
余った机と椅子に関してはどこかにおいておくしかない。おける場所があればだけども……
「飾り付け……って何かすることあるのかな?」
「風船とか、後は黒板にそれっぽいイラストを書くとか?」
「あ〜それだ。あとは折り紙とかで垂れ幕みたいなのを天井から吊るせばもっといいかもしれない」
次第に他の人からも案が出てきて、内装、飾り付けは順調に決まっていく。
「中村君。一つ質問」
「ん? 何?」
「教室前とか、後は校内回って宣伝する人とかその為の看板あったほうがいいんじゃない?」
「確かに……せっかく喫茶店をするなら宣伝もしといていい気がする……」
「となると……何かそういった看板を作る必要があるんじゃ? 中村君」
オドオドした様子で史野森さんはそう言った。
「その材料は後で購入して作るって感じかな……」
購入するなら、細めの木材とプラカードみたいなのをくっつける感じかな……あとは――
「内装チーム、ちょっといい?」
そこで衣装作りのまとめ役、五十嵐さんが教室に戻ってきた。
「どうしたの? 五十嵐さん」
「こっちは思ったより作る衣装も作る材料も早く、決まったけどそっちはどうかな〜って思って」
「こっちもそんな感じかな。少しだけ買うものができたよ」
買うものといってもこっちは主に細い木材を買うだけなので、向こうのチームのほうが買うものは多くなるだろう。
「そっか。なら早速買いに行ったほうがいいよね? 私行ってくるよ」
「それなら僕も行くよ」
「え、けど……」
「こういうのは二人のほうが何かと効率がいいでしょ?」
それに布は意外と思ってる以上に、重かったりすることがあるのを僕は既に知っている。そのためにも男手は必要だ。
「まぁそういうことなら……」
ここでようやく五十嵐さんは折れて、僕と五十嵐さんの二人で準備のための買い出しメンバーが構成された。
「それじゃあ、その間、史野森さん。お願い」
「う、うん。分かった」
買い出しに行っている間、この場は頼りになる史野森さんに任せることにした。
それに美結もいることだし、心配はないだろう。
「お待たせ。じゃあ行こうか。中村君」
「うん。そうだね」
学校の正門で五十嵐さんを待ち、合流する。
僕は予め、先生に準備のために必要な物のために予算案のお金を渡された。
ここら周辺で、で布や木材などの様々なものが売ってそうな場所はだいぶ限られる。
「よ〜し。それじゃあ駅に向かってレッツゴー!」
そう言いながら五十嵐さんは意気揚々と歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って〜!」
「え…美結⁉」
遠くから呼ばれる声で僕たちは足を止めた。
*
「はぁ……」
時間は少し遡ること、数十分前。
二人を見送ったあとの事。見えなくなったところで思わずため息が出る。
実を言うと、本当は買い出しに行こうとしてる二人についていきたいと思っていた。
「だけど……」
今度はクラスのみんなの方に目を向けてみると―
「えっと……とりあえず簡単にだけど、内装の具体的なイメージについて決めたいと思います……」
今は史野森さんが率先して教室に残っているみんなをリードしている。
留守番組である私もそれに集中すべきなんだろうけれど……
「ただ一緒にいたかったな……」
最近はなんだかんだで、中村君と一緒にいる時間は減っていった。彼が実行委員になったのが大きいけど。
「お〜い五十嵐〜いる?」
そうやって考え事にふけていると、クラスメイトの一人が教室に戻ってくる。
「ついさっき買い出しに行ったけど、どうしたの?」
「いや。あれからもう少し話し合っててさ、更に布が必要になったから伝えようと思ってたんだけど」
さっき見送ったばかりだからおそらく、まだ正門辺りにはいそうな気がする。
いや…これは逆に考てみてれば中村君達と一緒に買い出しに行ける口実ができるかも……!
「だったら私―」
借りに買い出しに外へ行くということはここを史野森さん一人に任せる事になる。
流石に私一人のわがままで史野森さんを困らせるわけには……
「普通に連絡すればいい気がする…けど……」
「加藤さん」
「史野森さん……?」
さっきまで司会を担当していたのに、私達の会話に参加するように近づいていた。
「加藤さん。中村君達のところに行ってあげて?」
「え……?」
突然、声をかけられたと思えば……史野森さん。エスパーなの?
「ど、どうしたの? 突然」
それでもなんとなく私の考えてることを当てられて気づけばとぼけ口調で返していた。
「誤魔化さなくてもいいよ? だって二人を見送った後から、ずっと寂しそうにしてたから」
「そんなに顔に出てたの?」
「う、うん……割と」
「そっか……」
確かに中村君が行っちゃったのは寂しいとは思っていたけど。顔にすら出ていたとは……
「けど……そうしたら、史野森さん一人に任せる事になっちゃうけど……」
流石にそんな状況にしてまで中村君の後を追うとは考えたくない。
「それに……これだと私が、どうしようもないわがまま言ってる人みたい……」
彼女には聞こえないぐらいの声量でボソッと呟く。
「私のことは気にしないで。加藤さん」
そう言うと史野森さんは少しだけ頼りにできそうな強い表情でシュッとしていた。
「史野森さん……ありがとう! 私。行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」
そうして私は二人を後を追うようにして足早に向かった。
そして下駄箱から外に出るようにして正門へ向かう。
「あ、良かった。ふたりともまだ行ってない」
「ちょ、ちょっと待って〜!」
*
「はぁ…はぁ……」
「大丈夫? 美結。急にこっちまで走ってきて」
突然の事に僕は唖然としていた。
五十嵐さんは冷静に荒くなっている美結の息を落ち着かせるように、背中をさすっていた。
というか、史野森さんの事はどうしたんだろう。
「どう? 落ち着いた?」
「はぁ……うん。お陰で落ち着いた。ありがとう。五十嵐さん」
「どう致しまして。それでどうしたの? 急にこっちに走ってきて」
「うん。実は、衣装作りのチームから追加の購入する品が増えたらしいからそれを渡しに来たの」
「そうなんだ……」
それなら普通にスマホで連絡くれればいいのに……と、一瞬それを頭がよぎった。
けれど今の美結を見ているとそれを言及する気もなくなる。
「じゃあとりあえず行こうか。五十嵐さん」
「うん……けど、せっかくだから加藤さんも連れて行かない?」
「美結も? う〜ん……まぁ、いいけど。史野森さんに任せきりになってるんじゃ……」
「そこは安心して。史野森さんから許可もらった上でここに来てるから」
「そうだったんだ……じゃあ改めて行こう。二人共」
「うん」
「そうだね〜」
それから校外へ飛び出し、目的のホームセンターに向かって歩き出す。
一応僕たちの向かうホームセンターは学校から歩いて十五分とそれなりの時間を必要とする。
けれど僕たちが三人で話していけばきっと、あっという間に着くだろう……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます