第27話 汐華祭 一日目

 朝礼が終わり、僕らは広々としたグラウンドに集まって開会式を聞きにきていた。

 一応、聞きたい人はどうぞ。といういわゆる任意での参加となっているので、聞く気の無い人は普通に一足先に楽しめるが、これが同調圧力というのか八割ぐらいの生徒は集まっていた。

「みんな揃ってもの好きだね〜うちの校長の話長いのに。まぁ……私も言えた義理ではないけど」

「どちらかというとほぼ全員が来てるから今見に行ってもあんまり意味ないって感じかな……」

 とわいえ五十嵐さんのいう事もごもっととも。僕らの通う汐華高校の校長の話が他校の校長よりも長いと勝手に自負している。自負するようなことではない気がするけれど。

「あっ……校長先生来たよ!」

 美結がそう言うと用意された即席ステージ横から校長先生がその姿を見せ壇上に登る。

「中村君」

「……ん? どうしたの?」

「この後一緒に回らない? 本当は絵里香と一緒に見て回りたかったけど何かのイベントに出るからって断られちゃて……」

「うん。別にいいよ。僕としても誰かと一緒に回ったほうが楽しいと思うし」

「やった……! ありがとう!」

「別に礼を言われるほどのことじゃないと思うけどなぁ……」

 それから話は終わり、校長先生の長い話を聞きながら隼人は今日一日どこを見て回ろうかと思案していた。

 まず何かしらの屋台は定番だし、外せないよな。あとは北沢さんのやってる演劇よかかなぁ……他は、美結と一緒に決めようかな……

「それではこれにて開会式を終わります」

「あ…気づいたら話終わってた……」

 開会式が終わり、各々別方向に向かいざわざわ賑やかになりだし、文化祭がいよいよ始まったのを自覚する。

「じゃあ行こう。美結。」

「うん!」

 僕らも屋台のあるエリアへ歩き出した。



「りんご飴にクレープ、あ……わたあめもあるよ!」

「本当だ。それにさっきチラッと見えたけど飲み物もだいぶ種類あったよ」

 しかも、校内の自販機でよく見るもの以外にもコンビニでもたまに見かけるぐらいには珍しいものも中にはあった。

「こんなに多いと沢山買っちゃいそう……」

「あはは…まぁこれぐらいあるとどれも目移りしちゃうよね」

 とはいえ僕たちがここで買うものは既に決めている。

「すみません。イチゴパフェ二つお願いします」

「はーい。二個で六百円になります」

「じゃあこれで」

「はい。六百円ちょうどですね。少し待ってね」

お金を渡すと屋台の中の人らがクレープを作り始めるのだが、その時の彼らの動きには一切の無駄がなく、まるでプロの人が作っていると思えた。

「お待たせしました。イチゴパフェ二つです」

「ありがとうございます」

 それでいて見栄えも綺麗なままで提供されるまで一分足らず。

「う~ん! 美味しそう! いたただきます」

そう言いながら美結は美味しそうにクレープを頬張るっている。僕も続いて一口、食べる。

「うん。思ったより甘くて美味しいね、けど甘すぎずって感じだから食べやすい」

 スピード、見栄え、そして味も文句のつけようがないぐらいに完ぺきだった。もうお店開いたほうがいいとまで思える。それぐらいにここのクレープは美味しかった。



 クレープを食べ終わった僕らは中に戻ってぶらぶら他クラスを見て回っていた。

 まだ少しだけクレープの甘味が口の中に残っていて一人だったらまた買いに行きたいなぁ……一人になったら食べに行こっと。

「英二達の二組がやる演劇は十一時からだからまだ他のところも見て回れるけど何処か見たいところある?」

「うーん、特には……あっ! 中村君。あれって?」

「あれ?」

そう言って彼女が指しているのは数字が書かれた九つの的目掛けてボールを投げる遊びだった。

 名前が思い出せない……

「あっ、思い出した。ストラックアウトだ。懐かしいな~小学生のころやって以来かな……」

「へ~ストラックアウトっていうんだ……ねぇ、やっていかない?」

「もちろんいいよ。僕も久しぶりにやってみたいし」

「やった! それじゃ、早速入ろう!」

 美結に手を引かれるようにその教室に入っていく。



「どうも~もうここって遊べます?」

「勿論! 二名入ります~!」

『ありがとうございます!』

中に入ってまず歓迎してくれたのはラーメン屋なのかってぐらい声を出すその教室の男子生徒達。

「それでは早速、ルール説明から始めさせていただきます。まず投げるのは一人五回まで。一応景品はあそこのマスの内、三つ以上当てると景品ゲットです」

「三つ? 結構甘いんだね」

「そう思うでしょ? まぁ、聞くより実際に遊んでみればその訳が分かりますよ」

 最後の含みある言い方が少しだけ気になるけど……とりあえず挑戦だ。小学生の頃もなんだかんだで五個以上当ててたし、多分大丈夫。

「ところで景品な何が貰えるの?」

 美結が当然の疑問を投げかける。僕としても景品しだいでは、モチベも上がるし聞いておきたい。

「ふっふっふ。景品それは……これ!」

「これは……えっ、本当に何?」

 景品発表と同時に僕らの前に姿を現したのは多分ワイヤレスイヤホンと思われる物だった。

「どう見てもイヤホンでしょ? それもワイヤレスのね」

「え……景品豪華すぎない? 新品?」

「新品だよまだ箱すら開けてないからご安心を」

「いや……それは構わないんだけど、わざわざ買ってきたの?」

「いや、普通に使おうと思って買ったら俺のスマホが対応外で、このままにするの勿体無いなと思って景品にしたってわけ」

「な、なるほど……」

 とはいえ景品がこれか……うん、すごくやる気出てきた! タダでワイヤレスイヤホンが貰えるのなら挑戦しないわけにはいかない。



「それじゃあ、まずは僕から」

「は~い。それじゃこれがそのボールね」

 そう言われて渡されたボールは手のひらサイズの大きさでいかにも投げやすそうだ。

「それでは、どうぞ!」

「最初はどこ狙おう……」

 見る限り、真ん中は難しいだろうからまずは無難に上あたりから……

「んっ!」

 投げてみるもボールは的が書かれた板の手前を転がっていて力加減が弱かったみたいだ。

「大丈夫……まだ、四回チャンスはある。」

 そう自分に言い聞かせるように次のボールを握る。

「ふんっ!」

今度はさっきよりも勢いよく投げてみる。そのおかげでさっきよりも的には近いところには当たったが、的には命中ならず。鈍い音が教室に響き渡る。

「えいや!」

 それからも三球、四球、五球目と続けて投げるも結局一つも的には命中せず、ただただ腕が疲れただけだった。

「それじゃ今度は私が……」

「美結……大丈夫? 僕が言うのもなんだけど結構腕が疲れるよ?」

「大丈夫。私、こう見えても昔は割と運動してたから球技は得意だよ。……多分」

 今、多分って聞こえたような……

「よーし、がんばるぞ!」

そう自信ありげに生き込んでいたストラックアウト。さすがに僕よりは的に当ててくれるだろうと思っていた。しかし結果は僕と同じく惨敗。一回も当てれずに僕らは大敗を期した。



「全然うまく行かなかったね……」

「そうだね。あれだけやっても貰えたのは参加賞のポケットティッシュ三つだったし」

 あれからも僕と、美結は諦めきれずもう一度挑戦した。それでも結果は同じだった。

 しかし何度も投げていて、一つだけ分かったことがある。あれはスポーツとか運動を普段からやってる人がやるものだと。

 その証拠に投げるのに使った右腕はもうパンパンだ。

 教室を出ると何やらざわざわとしていていた。

「ん? なんだろう」

 よく見てみるとみんながその手には文化祭のパンフレットを握ってどこかに歩いていた。

「あれじゃないかな?」

 そう言って美結が指さしたのは体育館。あぁ、そういうことか。

「北沢さんの二組の演劇か……!」

 今思い返すとさっきのストラックアウトアウトに夢中で一時間近く時間を潰していたみたいだ。

「あんなに人が向かっているとなると、多分座れる席はほぼなさそう……美結、どうする?」

「……それでも私は見に行きたい。絵里香と佐藤君が出るのならせめて、一度はみてみたいし」

「そっか……なら早めに並んどこう? まだ時間までに十分あるとはいえ早めに並んでおいたほうがいいと思うし」

 それから僕らはやや、駆け足で体育館へ足を運んだ。



「ふ~ん。結構面白いのあるじゃん。クレープも美味しいし」

「ほら、中村君、早く!」

「ま、待ってよ、美結」

 いつしか中学のころ呼び慣れた名前が聞こえてきて思わずクレープを食べる手を止める。

「美結……へぇー結構楽しそうにしてじゃん・・・・・・」

 私とあったらどんな反応すんのか楽しみ♪ またいじめてやろうかな……











 

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