第26話 文化祭開幕! 

 十月三十日。文化祭前日の今日。まだ十月といえ、日が落ちるのは早くなっていて、窓からわずかに夕日の光が差し込んでいる。教室に関しては、折り紙で作った鎖や風船などの多様な飾りつけで着飾っている。

 さらに、机と椅子を少し減らしたり、机にテーブルクロスを引いたりして本格的になってきていた。

「よーし、みんな。明日からの文化祭。全力で楽しもう!」

 みんなが疲れ切っている中、五十嵐さんは元気そうに張り切っている。

 僕の通う汐華祭は木曜日から土曜日までの三日間の開催となり、月曜日が文化祭の振り返り休日となる。

「準備のほうはこれといったトラブルもなく間に合ってよかった……」

 そう言っている史野森さんは疲れ切った様子で椅子の腰を下ろしていた。

 「だね……あとは当日、喫茶店の運営だけだね」

 一番決めるのに苦労しそうな当日の店の運営に関しては木、金の二日間は五十嵐さんと仲良しの女子数人で回すことになり、最終日である土曜日だけ僕と美結、史野森さん、五十嵐さんの四人が担当することに。

「あ、最終下校時間のチャイムだ……帰らないと」

 スマホで時間を確認すると、もう六時前になっていてすっかり夜の時間だ。

「じゃあ、僕は先に帰るからまた明日ね。二人とも」

「うん。また明日」

 美結や、五十嵐さん、史野森さんに挨拶を済ませたところで僕は、みんなより先に一足早く教室を後にして寄り道もせず、帰路につく……はずだったのだけど。



 *

「お、いらしゃい。中村君」

「こんばんわ。斎藤さん」

 最近の僕は帰りの電車に乗る前に、ここの喫茶店で一杯のコーヒーを飲むのが最近の僕のマイブーム。ちなみに今日は準備が終わった自分へのご褒美として、焼き菓子も食べるつもりだ。

「今日はまた、一段とここに来るのが遅かったね。トラブルでもあったのかい?」

「いえ準備自体は何事もなく終わりました。ただ、準備が終わったことで疲れがどっと降りかかってきて……」

「それなら早く家に帰ってゆっくりを休めないと……」

「ここのコーヒーを飲むと結構落ち着くんですよ。好きな味、ですから」

「それは嬉しい限りだね。そういえば中村君の高校の文化祭はいつから開催するんだい?」

「明日から土曜日までの三日間の開催ですよ」

「うーん……って明日!?」

 日程を伝えると斎藤さんはオーバーリアクション気味に驚く。

「そ、そんなに驚きます?」

「そりゃ、驚くよ。だって君の文化祭の話を聞いた時には見に行こうと決めてたからね……それにして明日か……」

 それから斎藤さんは眉間にしわを寄せながら、気難しそうにしている。

「うーん、でもなぁ……」

「えっと…斎藤さん? 聞いてないや。それじゃ、また今度きますね」

 何かについて考え中であろう斎藤さんはそのままに僕は店を出て今度こそ、帰路についた。



十一月一日、木曜日。文化祭当日。

 僕は今日普段より若干早く学校に着いていた。現在の時刻は七時十分。しかし、僕の高校は早く登校しても七時三十分までは正門は開かず、それまでは校内には入れない

「ふぅ……あったかい」

ちなみに今日は日本全域で猛烈な寒波が襲来中。なので僕は今、時間つぶしがてら学校近くのコンビニで肉まんを食べて暖をとっていた。

「うー寒い。うん? ……中村君?」

 入口のほうで誰かの話し声が聞こえるなと思ってちらっと見てみると、そこには五十嵐さんがいた。

「あ、五十嵐さん。おはよう」

「おはよう。ふわぁ……あ~ごめんね」

「……寝不足なの?」

「いやーそういうのじゃないけれど、なんか今日不思議と早くに目が覚めちゃって。二度寝しようにも微妙な時間だったから……」

「あーそういう……」

 どうりで……ちょっとだけ見えているくまはそういうことか。

「ところで中村君はどうしたの? 早くに来るなんて珍しいね」

「あはは。まぁね。僕も昨日はなんだかあまり寝付けなくて。そのままいつもの流れで学校まで来て正門のところで、『あ、まだ門開かな時間だ』てことに気づいて、今こうやって時間つぶしてる感じ。」

 せめて優雅にラテでも飲みながら本でも読もうかと思ったけど、今日は忘れてしまったので、こうやってただ一人虚しく肉まんを食べている。

「まぁでもあとほんの数十分。私と話せばあっという間だよ」

「それもそうだね。ただスマホをいじって過ごすよりは誰かと話してたほうが退屈しなそう」

「そうだよ~? 誰も退屈させない女、五十嵐楓を信じなさい!」

 とても自信ありげにそう語る五十嵐さん。確かに。退屈はしなさそうだ。



「そういえば……一応聞いてみたいことがあるんだけど」

「……ん? 何かな何かな?」

「昨日、美結と一緒にメイド服を作ってたよね?」

「うん。そうだね。お互いにお披露目もしあったね~それがどうしたの?」

「やっぱり……それじゃあ!」

「ちょっと待った。中村君」

 あることを聞こうとしたところで、五十嵐さんは飲みかけのカフェラテをテーブルに置いて口を指一本を添えて遮られた。

「なんとなくだけど、中村君が私に対して聞きたいことは察っしがついたよ」

「けど……それは実際に見てからのお楽しみということ」

「……うん。わ、わかったよ。聞くのはやめるよ」

「分かればよろしい。お、ちょうど七時半になったね。じゃあ、学校に行こう? 中村君」

「う、うん。にしても……」

 さっきの五十嵐さんにはちょっとだけドキッとしちゃったな……もし、今見たいな事を美結にされたら心臓がもたないいよ……

 そんな悶々とした気持ちを抱えたまま隼人と楓は学校に登校した。



 正門はようやく開き、僕たちは早速教室のカギを取ろうと職員室に向かった。

「失礼しま……いないな。誰も」

「え、いないの? 珍しい〜あ、けど確か昨日の終礼の時に『明日の朝は先生たちは開会式の準備で忙しいので職員室は誰もいません』って」

「そういえば言ってたような気がするな……というかそれなら、僕やし史野森さんなんかは声掛かりそうなのに……」

「だね~まぁ先生が労ってくれてる。ってことで良いんじゃない?」

「それもそうだね」

 それによくよく考えれば、昨日の終礼中。先生が話してるときに僕は帰り例の喫茶店で何を食べようかと、夢中になっていて先生の話を聞いてなかったな……

「まぁいいや。鍵取って早いとこ教室に行こう。」

 自分のクラスのカギを手に取り僕らは職員室を後にする。



「ふぅ……なんだか緊張してきちゃたな……」

「けど、相手は同じ学校の生徒なんだしそんなに緊張しなくて良いとおもうけどな」 

 教室を開け、中に入ったはいいけれど実際、やることも無く、お店専用にカスタマイズ机に僕ら互いに向き合う形で座った。

「けど接客とかやったこともないし……」

「あ~そういう……」

 けどそれならやっぱり肩の力は抜くべきだとは思うけどなぁ。きっと彼女本人の気持ちの問題なんだろう。

「それなら……」

 接客の経験がないのならと思い、僕が働いているバイト先を紹介しようと思ったところで途中まで出かかった言葉をのみこんだ。

 第一、誘うも何も僕が勝手に決めていいのかどうか怪しいし、もしかしたら斎藤さんは僕以外には従業員を雇うつもりはそれほどないのかも。

「それなら…どうしたの?」

「な、なんでもないよ。そうだ! まだ朝礼には時間もあるし、ほかのクラスの様子でも見に行こうよ」

「他のクラス? そういえば私、準備に集中するあまり、他のクラスがどんなのやるのか全然知らないや」

「正直僕もあんまり聞いてないや。隣のクラスは劇でロミジュリをやるみたいだよ?」

「え、そうなの? なら早く見に行こうよ!」

「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 劇の話し始めると五十嵐さんの表情は一変して、さっきまで不安そうにしていたのが今や、楽しそうに笑みを浮かべていた。



 隣のクラスの様子を見に来てみるもまだ誰もいなかった。それどころか、ドアすら開いていないので確認するまでもなかった。

「あれ…誰かしらいると思ったけど」

「まぁ普通は僕らみたいにだいぶ早く来る生徒なんてまずいないとは思うけどね」

 部活の朝練とか重要な役職を与えれた人を除いてだけど。 

「……ん?」

 それから他クラスの様子を見ようと再び廊下を出ると、グラウンドに通ずる窓に宙を舞うボールが視界の端に映り込む。

 誰かグラウンドにいるのかと気になり、グラウンドに出ると一人の男子が佇んでいた。

「あれって……英二か?」

「どうしたの? 中村君」

「いや、ちょっと知り合いを見かけたものだから声をかけようか迷って……」

「別に気を遣わななくて平気だよ?」

「そっか…。なら行ってくるよ」

 校内を飛び出し、グラウンドに足を踏み入れる。

「おーい」

 僕の呼び声に気づいたみたいで英二はこっちを振り向く。

「中村か……珍しいな。こんな時間に早起きでもしたのか?」

「まぁ、そんなところ。そっちは?」

「俺は朝練。サッカー部のな」

 よく見ると今英二が着てるのはユニフォーム。それも結構、着古されているみたいで所々にほつれや目立つ汚れが見える。

「サッカー部か…ていうか部活してたんだ」

「してたよ。入学してからずっとな」

 いつも僕が見てきた英二は常に気だるそうにしていて、何事にも無気力。これが今までの英二への勝手なイメージだった。

 だが今は朝練というのに参加しているのが、今でも少しだけ意外だったのは言わないでおこう。言ったら多分怒るだろうし。

「というか……」

 朝練と言っているが見たところ英二以外に周囲は誰もいなかった。

「他の奴らならいつも来てないぞ。それに朝練といってもゆうて、ほぼ自主練に近いからな」

「え……まじか。毎回ひとりなの?」

「そうだけど? むしろ、周りに誰もいなくて気を遣わずに集中できるからこっちとしても好都合なんだよ」

 そうは言っても、一人は寂しいとはおもうけどなぁ……

そんな話途中のタイミングで朝礼を知らせる鐘が鳴り響く。

「あ、もうすぐ朝礼だ。英二も早く着替えないと」

「わかってる。先行っててくれ」

「おっけ。」

 そう言って僕は先に自分の教室に戻ることに。





 

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