第24話 自分の気持ち

 十月二十二日。 汐華高校にて。 

 来たる文化祭までの日数が残りわずかとなった今日。

 最近は衣装作りのチームも内装作りもどちらもさやる気はヒートアップして最終下校時間まで残る人も多くいた。その甲斐もあって……

「ねぇ……ここどう?」

「う〜ん……もう少し切ってもいいんじゃない?」

「あ、じゃあさ!」

 衣装作りに関しては思ったより早く終わりが見え、各々が細部にもこだわるようになってきた。

「さてと……加藤さん。あともう少しで私達のも完成だね……」

「ふぅ……そうだね。五十嵐さん」

 かくいう私と五十嵐さんもやりたいコスプレが被っていたので共同作業という形で取り組んでいた。

「ところでカチューシャ的なのはつけないの?」

「カチューシャ……メイドってそういうのあった?」

 そう言われて想像してみたもイマイチピンとこない。そもそも来てる人を見たことすら無いから。

「まぁ無くてもいいけど出来れば合ったほうがいいかな〜」

「お〜い。五十嵐。今いい?」

「ん〜? どうしたの?」

「俺たちは後は細かいサイズ調整だけだからここ出るから戸締まり頼んでいいか?」

「もちろん〜! 後は私と加藤さんにおまかせあれ!」

「ありがとう〜じゃ」

 


 そう言って完成したと思われる衣装を手に取って皆、ぞろぞろと被服室を後にする。

 そして二人きりになった。あまり絡んだことのない五十嵐さんと二人きり……

 その間、服を作る五十嵐さんの手は動き続けたままで、ミシンの機械音が鳴り渡る。

「ありがとうね。加藤さん」

「……?」

 突然の感謝に私の頭上にはてなマークが浮かぶ。

「私本当は、メイド服作って着てみたかったんだけど……同じ意見の人がいなくて出来ずにいたんだ……」

「五十嵐さん……」

 その告白に私はある疑問が浮かんでくる。

「てっきり五十嵐さんはクラスの中心にいるからそういう意見もはっきり言うと思ってた……」

「あはは……まぁ、私ってそういう風に行動してるからね……」

 それからの五十嵐さんはさっきとは打って変わって酷く弱々しい雰囲気だ。このまま放っといたらどこかへ消え入りそうな……

「ちょっとだけ私の話聞いてもらっていい? 加藤さん」

「うん……いつまでも聞くよ。五十嵐さん」

「ありがとう……じゃあ、何処から話そうか……」



 あれは今でも忘れられない中二の夏……

「実行委員決めメンド〜誰かやれよ〜」

「え〜あたし面倒いのやなんだけど〜」

 夏休み明け、私の通っていた中学は夏休みが終わるとすぐに文化祭に向けた活動が始まった。

 始業式の日のホームルーム。早速文化祭実行委員を決めるという話になったが、立候補する人もいなくてただ私語をする生徒が多くなるばかり。

「実行委員……か」

「五十嵐さんはやらないの?」

「え……?」

「だって五十嵐さん、去年やってたんでしょ?」

「あぁ〜確かにね。やってたよ……でも」

 中一の頃はただやってみたいという好奇心で立候補したというのもあって、おまけにクラスメイトも支えてくれたから楽しくやれた。

 けど今年はそんなにやる気にはならなかった。

 特にこれといった理由は無かった。ただの気まぐれと言うやつだ。

「五十嵐さん。去年やってたの?」

 それを偶然耳にした江口さんがこちらによって来る。

「う、うん……まぁね。けど今年は――」

「じゃあ五十嵐さんがやれば良くない? 経験者がやったほうがみんな纏まりやすいだろうし」

「いや、けど……」

「ん……? 何?」

 彼女の睨んでると勘違いしてしまいそうになるような鋭い眼差しを前に私は何も言えなくなる。

「……何でもない。やるよ。実行委員」

「お〜サンキュ〜五十嵐さん。やっぱりこういうのは経験者に任せるのが安心だわ〜」

 そう言って江口さんは自分の席に戻っていった。

「本当はそんなにやりたくないのに……!」

 ボソッと小声で本音が溢れる。

 誰にも言えない。こんな本音。けど言わずにはいられない。

 ボソボソ声で誰にも聞こえずただ、私はその言葉を頭の中が駆け巡る。

「どうして私の意見、聞いてくれないんだろう……」

 そっか。頼りになるからだ。頼られるから良いように見られて押し付けられるんだ……ならいっそ、そういうの任せられないような人になれば……

 それから学年は上がり、中三、高一、高ニと上がっていくに連れて私は人との距離感を特に意識した。

 クラスの中心にいる人のように見えて実は頼れない存在になろうとした。



「って言うことがあったから私は上手いことやって無難に生きてるってわけ。悪いね。長話して」

「……」

 突然の彼女からの過去暴露の内容に驚いてしまったが、ただ聞いてあげるだけじゃ駄目な気がした。

 そう思った時には私は既に行動していた。

「……えっ?」

 ミシンに手をかけようとした五十嵐さんを覆う形で私は彼女を抱きしめる。

「正直、なんでこんなことをするのか五十嵐さんが一番聞きたいとおもうよね……」

「う、うん……突然、どうしたの?」

「ただ、さっきの五十嵐さんの話を聞いてて『こうしてあげなくちゃって』思ってというか……」

 あぁ〜上手く言葉にできない! なんて言えばいいんだろう……!

「えっと……その、今まで頑張ったね。五十嵐さん」

 多分、これが正解なはず……

「……っ!」

「ううん。なんだかこうしなくちゃって思って……」

「加藤さん……加藤さんって凄いね。そうやって、自分のやりたいと思った事、行動に移せて」

「いやいや、五十嵐さんに比べればまだまだだよ」

「いやいや」

「いやいやいや……ぷっ、あはは!」

「ふふっ!」

 お互い謙遜し合うのが面白おかしくて途中から笑いが込み上げてくる。



「あはは……けどありがとうね。加藤さん。なんだか元気出たよ」

「どういたしまして。『友達』として当然だよ」

「ふふっ。じゃあ今日から私達は友だち改め、親友!」

「し、親友……!? 急じゃない?」

「そうかな? けど私の過去を聞いてもらった上に励ましももらって……」

「親友……親友……」

 確かに。言われてみればそうなのかもしれない。五十嵐さんの言葉は不思議と納得できる説得力がある。

「それじゃあこれからは親友としてよろしくね。五十嵐さん」

「うん。加藤さ……あっ、私も中村君と同じ風名前で呼んでいい?」

「名前で…う〜ん……」

「どう……かな?」

「私と二人きりの時だけ……なら、いいよ? 普段はその……呼んでくれる人がいるし……」

「二人きりの時だけか……なんか秘密の関係みたいでいいね……あっ、そういうこと……ふふっ!」

「な、何ニヤついてるの! 五十嵐さん!」

「別に〜? それより服作らないと終わらないよ〜?」

「もう〜!」

 とはいえ、元気になってくれて本当に良かった……私もいつか……私自身のことも知ってほしいな……

 新しい友達ができたのが嬉しいのと同時に絵理香と似たような友人が増えたことへのちょっとの面倒くささはありつつも美結の胸の中は幸せで満ちていた。

 

 

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