第15話 文化祭ってラブコメみたいだよね!

 九月六日。隼人は絵梨花に誘われて放課後に駅前のファミレスに集合していた。

「あっ…お〜い、こっちこっち!」

 大きな声で呼ばれて北沢さんはのところに早歩きで向かう。北沢さんの隣には英二も立っていた。

「ごめんね。急に誘っちゃって」

「全然構わないよ。今実行委員やってて文化祭のことばっか考えてるから丁度良かったよ」

「それより絵里香の方こそ勉強大丈夫なの?」

 そこで美結が間に入って怪訝そうに聞いてくる。

「ふふん。何も問題はいらないのだよ。美結君」

 まるでホームズの真似事みたいなセリフは置いといて、その言葉には確かな自信のようなものが感じ取れた。

「そ、そうなんだ……とりあえず中に入ろう?」

「賛成。さっさと入るぞ」

 そう言って英二はそのまま中に入っていく。

「あ、ちょっと待ってよ〜」

 後を追うように僕らも入店する。


「ふぅ〜正直放課後となると混んでるね……」

「そうみたい……まぁ気にせず勉強始めよう?」  

「そうだね。美結」

 それからというもの、注文の品が来ては食べてまた勉強の繰り返し。そこで美結が質問する。

「そっちのクラスは文化祭何やるか決まったの?」

「もちろん! ロミオとジュリエット!」

「ロミオとジュリエット? 確か切ないラブストーリーだったっけ?」

「そうそう。それでいて佐藤君がロミオ役をやるんだよ。佐藤くんってこんなんだけど顔はいいからね」

「一言余計だ。」

「ロミジュリか……」

 しかもロミオ役が英二か……てっきりクラスの中でも一匹狼してると思ってたけど。ロミオ役に選ばれるぐらいにはクラスのみんなから認められているんだ……


「ちなみにそっちのクラスは何やるの?」

「ん〜まだ決まってないよ。ある程度纏まってはいるけど」

 言いながら僕は案をまとめたノートを取り出して見せた。

「へぇ……メイド喫茶にお化け屋敷、あっ、演劇は被ってるんだ」

「うん。とりあえず明日またクラスのみんなで決める予定。ちなみに美結はどれやりたいの?」

「私? う〜ん……正直メイド喫茶は恥ずかしいしお化け屋敷がいいな……」

「「お化け屋敷?」」

 意外な答えに僕と北沢さんは思わず声をハモらせながら驚く。

「そんなに驚く? 演劇はやったことから不安だしお化け屋敷ならまだ頑張れるかなって……」

「ああそういう……」

 思ったよりちゃんとした理由だったことにちょっとだけ驚いたけど言わないでおこう。

「けどけど! 絶対メイド服似合うって! ねぇ! 二人もそう思うでしょ?」

「まぁ、そうだね。僕もそう思う」

「まぁ北沢がそう言うならそうなんじゃないか」

「ほら、二人もこう言ってるよ!」

 英二は賛同したかどうか怪しかったけど正直僕も見てみたいっていうのはあるしとりあえず胸のうちにしまっておくとしよう。


「うん……飽きた!」

 途中途中、会話を挟みながら勉強をして一時間。突然そんなことを北沢さんが言い出す。

「まぁ気持ちは分からなくもないけど……」

 なにせ今回の中間試験。範囲の半分以上がす夏休みの課題から出題される。

 そうなるとまるでもう一度夏休みの課題をやることになるような気分になってやる気もなくし、北沢さんみたいに飽きていく。

「けど逆に言えば夏休みの課題の部分は覚えればなんとか点は稼げるんじゃない?」

「うぅ……私暗記系苦手なのに……実技しか得意なのない……」

「まぁ……頑張れ。北沢さん」

 僕は彼女に気休め程度に励ましを送る。

 

そこで美結が気になったので隣に座っている彼女の方に目をやると黙々とワークに視線を落として集中していた。

 ――これは声をかけないほうがいいかな……

 とはいえ彼女の立ち振舞にその所作の一挙手一投足につい目を奪われる。なんていうか見惚れてしまう綺麗さ? 可憐さ? みたいなキラキラしたものを感じた。

「……中村君? どうしたの? こっちを見たりして」

「あっううん。なんでもない。なんでもないよ!」

 慌ててテンパりながらもすぐに取り組んでいた課題に目を通す。こう改めて見てみると結構な量の課題だ。飽きるしまうのも頷けてしまう。

 ちなみに英二も飽きたのか勉強が一区切りついたのかスマホをいじっている。一人だけやけに余裕そうだ……ならなぜわざわざ勉強会に来てくれるんだろう……。


 その後も夕方まで勉強は続けて帰る頃には既に空はオレンジ色で満たされていた。

「ふぅ〜食べた食べた〜じゃなくて勉強した〜!」

「なんだかんだでパスタだけじゃなくてスイーツまで食べてたけど夕飯食べれるの?」

 途中から北沢さんは勉強そっちのけで食べることにシフトチェンジしていた。

「まぁ……た、多分夕飯までには消化できるよ!」

 そう言いながら北沢さんは満腹そうに腹をポンポン叩く。

「じゃあ私と佐藤くんはこっちの路線だから。また明日〜」

「うん。また明日」


 ここで北沢さんと英二とは別れ、僕と美結の二人きりになる。改札を通り電車を待ってる中、特にお互い話そうともせずただ時間だけが過ぎていく。

 そして電車が到着して……

「中村君は私のメイド服……みたい?」

 電車の到着時の轟音さえ聞こえなくなるほどの衝撃に僕は目を丸くしていてきっと変な顔をしているんだろう。

 車内の降りる人たちと見送って乗り込みすぐに空席に座る。


「まぁ見たいとは思ったよ。けど美結みたいに恥ずかしいと思う子もいるんじゃいかな?」

 それに仮にメイドカフェになった場合僕たち男子の処遇がどうなるのか分からない以上そこまで票が集まらなくて良かった……

「けど……正直見てみたいっていうのはあるかな」

 こんな小っ恥ずかしいこと我ながらよく言えたな流石に北沢さんみたいに可愛い、可愛いとまでは言えないけど。

「……そっか。さっきは恥ずかしいって言ったけど正直言うと、本当は着てみたいっていう憧れの気持ちのほうが強かった」

「そうだったんだ……」

「メイド服だけじゃなくてもっといろんな服着てみたいっていうのは本音だよ……」

 再び沈黙が訪れる。けれど不思議に僕は落ち着いている。特に気まずさを感じるわけでもない。ただただこの時間が続けばいいとすら思えてくる。


「さっきまではお化け屋敷やりたいって思ってたけど今だと……メイドカフェやってみようかなって思ってる」

「美結……」

 四月に出会った頃の大人しかった美結とは打って変わって随分変わったと思う。きっと昔の美結ならメイド喫茶なんてまずやろうとも思わなかっただろうな……

 そうこうしていると美結は荷物を手にかける。

「じゃあ私ここで降りるから」

「うん。また明日」

「また明日。中村君」

 見えなくなったところで見送るのをやめて改めて文化祭案を記したノート……けど何人か動けば決まりそう……」

 今のところメイド喫茶が十人。お化け屋敷が八人。そして演劇が十一人と均等に票は割れている。

 後はこれを話し合いで決めていくとはいえ、そう簡単にいくとは思えない。とはいえ締め切りの金曜日まで残り数日。なるべく手短にしないと……。

 それでいて誰も喧嘩することなくスムーズに決めればいいんだけど……

「……あっ! いいこと思いついた」

  これがうまく行けば明日にはきっと文化祭でやることを決めれるはず……!

 そうと決まればある程度決めておかないと……。





 九月七日。

「それじゃあさっそく文化祭のやることについて決めていきます」

 今日は五、六時間目が文化祭にやることを決める時間を設けられていた。というよりこの時間で決めないといけないので多少なりとも僕は焦っていた。

「それで決める前に僕と、史野森さんから提案があります。それじゃあ史野森さんからどうぞ」

「は、はい!」

 ちょっとだけ不安そうな表情を見せながら、みんなの前に立ちポケットから一枚の紙切れを取り出す。

「え、えっと……演劇で演目もある程度案を出した方が良いと思うんですがどうですか?」

「演目……例えばやるテーマ決め的な?」

「はい。そんな感じ、です」

「演目ね……確かにそこはやるやらないにしても決めたほうが良さそうだね」

 朝比奈先生が強く納得したようでとても乗り気に見える。

「じゃあ先にそっちから決めちゃおうか。中村君もそれで大丈夫そう?」

「はい。僕の提案に関してはむしろ史野森さんの話が結論が出てくれたほうが好都合なので」

 となると……最低でもこの五時間目は演目決め、六時間目は僕の提案で分けたほうがいいかもしれない。

「ということで今から十五分ぐらいみんなで話し合って決めてもらいます! じゃあ開始!」


 朝比奈先生が両手を合わせて指示しだすと近くの者同士で話し合いが開始される。史野森さんは何かある?」

「えっと、私は…シンデレラがやりたい……です」

「シンデレラ……あ〜あれね」

 シンデレラはあまり内容は知らないけれど確かガラスの靴がどうとかって感じだったかな……けど面白そう。

「中村君はどう……?」

「僕は……ロミオとジュリエットかな」

「ロミオとジュリエット……確か切ないラブストーリーでしたっけ?」

「そうそれ! それにこれを演劇としてやるとするなら定番だしアリかなって……」

 確か北沢さんはのクラスもロミジュリをやるとか言っていたけれど、多分まだ決定はしてないだろうしとりあえず僕は言うだけ言ってみる。

 話が一区切りついて前の方を向くと何人かはこちらを向いていて、おそらく何人かは既に案は考えついていそうだ。そろそろ考えを纏めよう。


「じゃあもし何か思いついた人は挙手してください」

 その一言で何人かは勢いよく挙手をする。とはいえ見たところ3人ぐらいか……僕と史野森さん込みで5人……。

「じゃあどうぞ」

「はい! 私ロミオとジュリエットがやりたいです!」

「えっ、お前も? 俺もなんだけど……」

 驚いた様子で他の二人も顔をしかめる。

「じゃあロミジュリが3票……っと」

 黒板に出てきた案を書き込む。とはいえ史野森さん以外はロミジュリなので他にでなければ、演目はロミジュリで確定となる。


「他にいますか?」

 言いながらみんなの方に目を向けるも誰も、もう挙手する気はなさそうなので打ち切ることにした。

「じゃあ演劇をやる場合、僕らのクラスの演目はロミオとジュリエットをやることにします」

 ロミオとジュリエットと書いたところに大きくまるで囲む。これにて演目決めは終了。

 そこで丁度切りよくチャチムも鳴り出す。

「じゃあ、6時間目に最終的にどれをやるのか決めるのでお願いします」

 そこで一度話し合いは終わり教室が賑やかになる。僕も自分の席で一息つく。

 

「ちょっとだけ仮眠しちゃおうかな……」

 そんなことを考え出すと自然と瞼は閉じていき視界は真っ暗闇。それでも周囲の喧騒とした声は聞こえてくる。

 本来ならうるさいと感じる喧騒も今はちょうどいい環境音のような気がして心地いいと思っている。

 そういえば……こんなに文化祭でしっかり取り組んだのあんまりなかったかも……中学の頃は確か――

 そして気づけば僕は眠っていた。仮眠ではなく六時間目の終わり際まで……ぐっすり……


「はっ……!」

 ぼやけた視界から自分が完全に寝てしまったことに気づいて思わず飛び上がる。

「あっ、起きた? 中村君」

 そしたら机の目の前にはしゃがみ込むように僕のことを美結がじっーと見ていた。立ち上がった今だと上目遣いで見ていて小動物みたいで可愛い。

「あれ……僕、寝ちゃって……」

「うん……6時間目はもう終わっててあともうちょっとで終礼なるよ」

「寝息も静かで先生も『頑張ってるだろうから寝かせてあげて』って言ってたぜ」

 隣の男子が少しだけ詳細の解説をしてくれた。先生……

「そっか……」

 やってしまった……僕が熟睡してる間、文化祭のことを史野森さんに任せきりにしてしまったことにまず謝りたい……

 

辺りを見渡せば左斜奥の席に一人ちょこんと座り、読書をしていた。まずは謝らないと……

「史野森さん…ちょっといい?」

「あっ、中村君。おはようございます」

 話しかけて僕の方を振り返る彼女の表情は何か嬉しいことがあったのか、とてもキラキラした笑顔をしていた。本当に何があった……?

「ごめんね? 史野森さん。同じ実行委員なのに仕事任せてぐっすり寝ちゃって……本当に申し訳ない!」

 僕は両手を会わせて深く頭を下げる。正直これでも足りないと思ってすらいる。

「ううん。いいんだよ気にしないで、中村君。」

「けど……」

「中村君のおかげでスムーズに決められたから」

「えっ……僕?」

「うん。中村君のおかげなんですよ?」

 僕のお陰と言われてもその意味にピンとこずただ僕は頭を抱えるばかりだ。

「実は……中村君が文化祭案についてまとめてるノートありましたよね?」

「あぁ…うん。あったね」

 彼女が言っているのは僕が用意した文化祭ノート。あれは昨日から書き始めたもので今のところ文化祭案、僕のプランなどを書いていて、今の僕に必須なアイテム。

「あれの一番最後のページに文化祭の案についてをそのまま活用してなんとかやってみたんだ……えへへ……」

 史野森さんはちょっと照れくさそうに笑いかける。とはいえ大体でいいので六時間目の詳細が知りたいな……。

「まぁ、とりあえず大体の起こったことはこれから話すね?」

 そして彼女の口から語られる。僕が一度も起きず、熟睡していた間のクラスでの出来事を……


* * *

 チャイムが鳴り全員が席について実行委員である私はクラスメイㇳ全員の視線を集めながらも教卓の前に立つ。

「おーい。中村、起きろよ〜」

「……すぅ……すぅ……」

「全然起きねぇ……死んでるみたいに静かに寝てるな……」

 確かに、彼の隣の男子が言うように優しく声をかけても揺すってみても依然、起きる気配は微塵もなかった。

「ほら、中村君起きて……」

 私も一人で仕事をこなすのは厳しいと思いながら彼の体を優しく揺らす。

「ん……?」

 するとパサッと物音と一緒にある紙束が落ちる。

「ノート……?」 

 正確には紙束ではなくノートだった。そのノートには『文化祭について』と簡略的に文化祭に関係することが書かれたのがよくわかるタイトルでした。

「ちょっとだけ拝見させてもらって……」

 何ページがゆっくりめくってみると、彼なりに文化祭への熱い姿勢が熱烈に書き込まれていた。文化祭の目標や、これまで話し合いで出された文化祭のやることの案リストなど。

「これって……」

 そしてノートの一番新しく記されていたところにはおそらく、彼が六時間目の内にやりたかったことが記されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る