第10.5話 ガールズトークその1。

 中村君が家にお泊りするとになった翌日。中村君を見送った私は家に戻って昨日の出来事をビデオ通話越しに絵梨花と共有していた。

「昨日の夏祭り楽しかったよ! その後ちょっとトラブルがあったけど…、」

『そっか…ちゃんと楽しめたんだね。それに中村君とも前みたいに話せるようになってきてるみたいじゃん』

「ううん。あの時中村君が私のことエスコートしてくれたから楽しめたの」

 あの時一緒に見て回った屋台を今でも私は鮮明に思い出せる。射的屋で中村君がかっこよくぬいぐるみを撃ち落とした事だったり、一緒にかき氷を食べたときに揃って頭キーンってなったり。きっと今年で一番の思い出になるんだろう。

『う〜ん! 若いっていいね〜』

 突然絵梨花がおじさんみたいな変なことを言い出す。

「そういう絵梨花も若いでしょ」

『いやいや、私でもここまで異性と一緒に何かやったりしないからさ。単純に羨ましいだけ』

 さらっと本音を語る絵梨花。私にとって絵梨花は友達も沢山いて異性にもてっきりモテたりするキラキラ女子だと思ったけれど案外それは違った。

 そんな絵梨花でもしたくてもできないこともあるんだなと思うと少し親近感が湧いてくる。

「それで、そのトラブルっていうのは……もしかして」

「うん。中学の頃のあの頃の子だよ」

『そっか…何か話ししたりした?』

「ううん。ただ気づかれることなく素通りしていったよ。あとの時つい中村君の後ろに隠れちゃったけど……」

 もしあの日私があの子達と普通に出会っていたも思えと不思議と背筋に悪寒が走るだす。

『それでさ! 夏祭りの後お泊りしたって本当?』

「う、うん……」

 暗くなっていく私の感情を打ち消すように絵理香は話題を変えてくれた。

『それで……何か進展あった?』

 画面越しの絵理香はとても楽しそうにしている。

「進展って……? ただ一緒に寝泊まりしただけなんだけど…」

 進展って……何のことを指しているんだろう…別に私は中村君に対して何か特別な感情を持ってるわけでない……気がする。

『あ〜なるほどね。何でもないや』

「……? あ、けど寝る前にお話してて途中から中村君が私のこと名前で読んでくれたよ。」

『え!? 本当? それはいい進展だよ!』

「う、うん。私も中村君のこと名前で読んだほうがいいのかな?」

 あの時は名前で読んでくれたのが内心嬉しかったけれど今となってはこっちも名前で呼ぶべきかと悩んでいた。

『う〜ん……別にいいんじゃない? 呼びやすい方で。別に名前で呼ぶべきみたいな決まりもないし』

「そっか……」

『うん。話はちょっと変わるんだけどこれは後で中村君とか佐藤くんも誘おうと思ってて』

「どうしたの?」

『私のバイト先の先輩に有名なプール施設のペアチケットを貰ってさ。それも二枚』

 そう言いながら絵理香がそのチケットを見せびらかせる。

「へ〜楽しそうだね」

『うん。期限が今月中だから日時は四人で予定が合う日に行きたいなって思っててさ』

「私は今年の夏休みはほぼないけどあの二人はどうだろう。後で聞いてみるね」

『そうしてみて〜じゃ、私は親に夏休みの課題のことでグチグチ言われる前に課題に取り組むからじゃ〜ね〜』

 そう言い残して絵理香との通話が途切れた。真っ黒な画面が映る。

「とりあえず中村君に聞いてみようかな」

 私は続けて中村君にも電話をかけてみる。まだお昼前だから出てくれるはず……。

『もしもし…さっきぶりだね。どうしたの美結?』

「う、うん。さっきぶり……今電話かけても大丈夫?」

 電話越しでも未だに名前呼びされることにドキドキする。

『ちょっと二度寝してただけだから大丈夫だよ』

「そっか。それでね絵理香がプール施設のペアチケット貰ったみたいで。それで中村君もどうかなって……」

『なるほど……いいよ。僕も予定が無いに等しいから行けるよ。』

 中村君は二つ返事で了承してくれた。

「ありがとう! それで…よかったら佐藤くんにも言っといてもらってもいい?」

『わかったよ。後で聞いてみるね。英二なら多分…来てくれると思うよ。流石に女子二人と男子一人だと気まずいというかなんというか……』

 途中から中村君の声が口ごもってあまり内容が聞き取れなくなってきた。

「と、とりあえず日付は行く人数決まってから話し合うから」

『うん。それじゃあまた』 

 話すこともなくなり通話が終了する。ここで美結はふと冷静に考えるとある事実に気づく。

「プール……はっ! 水着を着ないといけない!」

 さっきまでは中村君を誘うという目的があったから意識してなかったけど……絵梨花や中村君も水着になるし、そうなると私も水着を着るという事実。

「あぁ……恥ずかしくて体がポカポカしてきた……」

 そのことを考え出すとどんどん体が熱を帯び始める。まるで熱を引いているみたいな……

「ちょっとベットで横になろう……」

 そう言って美結はベッドで倒れるようにベッドにうつ伏せになった。


「ふぅ……ちょっとは体が楽になったかも。熱っぽいのも気のせいだったのかも」

 今年の夏は夏祭りに行ったり近いうちにみんなでプールに行ったりと去年と違って濃密な夏休みになりそう。

「そんなにイベントが目白押しなのに。私と来たら……」

 こんな自分に時々不甲斐なさを感じてしまう……

「うん……だからこのぐらいダウンしないぐらいには頑張らなくちゃ!」

 昨日中村君がずっと嫌な顔ひとつも見せず側にいてくれた。それはきっと彼が優しくて強い心を持ってるからだ。だから私も彼みたいに、中村君みたいに強くなりたい!

「だから私も頑張る!」

 とはいえそう息巻いても水着を着たりみんなの水着姿を想像しただけで少し熱っぽくなってしまう以上。先は長いなと痛感しました。









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