第48話 処分

「とうとう、『非生産者処分法』が可決しました!」

 テレビのニュース番組でアナウンサーがそう告げた。

 非生産者処分法――通称、ニート処分法。健常者であるにも関わらず、成人しても二年以上連続して全く労働していない者が国によって殺処分される。増え続けるニートに対して国が考えた対抗措置だ。

 この法案が出された最初のうちは人権団体が非人道的だと非難していたが、それなら対象となる人間は責任をもって面倒をみられるかと問われると多くは黙った。それでも残った団体にはどこからか多額の寄付があったそうだが――メディアはその詳細を語ることはなかった。

 ああ、ようやくか。

 私はテレビの前で淡々とそれを眺めていた。

 元々惰性で生きてきた身だ。後悔も反省もない。

 そもそも、自分では生きることも死ぬことも決められない、何の存在意義もない人間だ。

 それにしても、終わりにしたくとも、終わらせられない人間のなんと多いことか。インターネットには彼らの声が溢れている。

 そんな彼らにとっては、これはある種の救いかもしれない。

 私はコーヒーを入れると一息ついた。もちろんブラックだ。ミルクも砂糖も入れる気になれない。

 スマホが鳴っているが、取るつもりはないし画面すら見なかった。

 おそらく働きに出ている両親のどちらかだろうが、今は何も聞きたくなかった。

 安く使っておいて壊れたら適当な所に転がしておいて、最後にはどこかの山にでも不法投棄する――人間なんて家電と同じだ。どれだけ使おうと壊れたらお終い。そこに情はない。

 通っている医者から診断書をもらっておけば、多少は先延ばしにできるかもしれないが……それはなんの意味がある?

 こんな腐った世界、自分から捨ててやってもいい。

 私は財布を取り出すと、自分の全財産を入れる。ブラック企業の安月給で働いていた頃の残りだが、こうしてみるとそれなりにあった。

 最後にタクシーを呼んで遠くへ行こう。


 呼んだタクシーに乗ってこう言った。

「とりあえず、海の見える所……綺麗な海岸へ」

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