第47話 ブルーライト

「画面を見ていないと落ち着かなくて」

 私の所に診察に来た青年はそう言った。

 言いながらも、スマホの画面を操作している。

 ブルーライト依存症――近年、急速に増えている病気だ。起きている間、テレビやPC、スマホ等の画面を一定時間見ていないと不安に駆られる。一日の大半をそうしていないと安眠できなくなったという症例もある。

「典型的なブルーライト依存症ですね」

「ブルーライト依存症?」

「はい。それは――」

 私は順を追って説明した。

「あの……それだと、分からないことが……」

 青年は納得いかないという風に言った。

「はい、なんでしょう?」

「従来はブルーライトを浴びすぎると、眠りに就きにくくなると聞いたのですが……」

 この青年は良く知っているな、そう思った。

「はい。通常の場合はその通りです。しかし、近年のブルーライトを大量に浴びて育った世代には、逆に一日に一定量のブルーライトを浴びないと落ち着かない、眠れないという症例が確認されています」

 青年はそれを聞くと、少し考えてから言った。

「もし今生きている世代の大半がそうなってしまったら……それは『病気』と言えるのでしょうか?」

「ふむ……難しい問いですね。確かに、生活に支障が出なければそれが『普通』となる日も来るかもしれません。あなたのような四六時中画面を見続けるのは別として」

「はあ……そうですか」

 青年は納得しきれていないようだった。

「少し、精神を落ち着けるお薬を出しておきましょう。ご自身でも、なるべくスマホを見ない等のことを意識してみてください」

「はい、分かりました。……ありがとうございました」

 青年は神妙な面持ちで出ていった。


 青年が出ていったことを確認すると、私はすぐにスマホを取り出した画面を見つめた。

 別れた妻子の画像が表示されている。

 しかし、最近ではその画像を見るためにスマホを見ているのか、スマホの画面を見る「口実」にその画像を表示しているのかもはや分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る