第44話 戻れなくなる
僕は小さい頃は病弱で、よく熱を出して寝込んだ。
そんな時、決まって見る夢があった。
夢の中で幼い僕は見知らぬ女の子、自分より年上の少女に手を引かれている。
名前は知らないが、僕はその「お姉さん」に遊んでもらっていた。
お姉さんはどこか母に似ていて、僕をいろんな所に連れて行ってくれた。
いろんな話をして、いろんな遊びをした。
僕がもう帰りたいと言うと、少し寂しげに「さよなら」と言って、そこで目が覚めた。
すると熱が下がっていて、体は治っていた。そんな夢を繰り返した。
その日も熱を出して寝込んでいる最中だった。
夢の中の公園でお姉さんが遊んでくれた。
ただ、いつもと違うことが一つだけあった。
お姉さんはポケットからお菓子を取り出すと、僕にくれた。それまでは遊んでくれることはあっても、食べ物をくれたことはなかった。
僕はなんの警戒も無しにそれを手に取って食べようとしたが、そこで手が止まった。
お姉さんが僕をじっと見つめていた。まるで、何かを監視するかのように。
「どうしたの? 食べないの?」
お姉さんは僕にそう促した。幼かったが、明らかに不自然な何かを感じた。
「要らない!」
僕はお菓子を投げ捨てると、お姉さんから逃げ出そうとした。
そこで目が覚めた。僕は体中汗だくで、心配そうにのぞき込む母の顔があった。
その時初めて、自分が生死の境をさまよっていたことを知った。
その後、そのお姉さんは二度と夢に出てくることはなかった。
ある日、実は僕には死産した姉が居たことを知らされた。
その時、なぜか夢に出てきたお姉さんのこと思い出した。
あの人は死んだ姉だったのではないか――根拠はなかったが、そう思えてならなかった。
また、それからずっと後になって「よもつへぐい」という言葉を知った。
よもつへぐい――あの世の食べ物を口にすると、この世に戻ってくることができなくなるという伝承。つまり、あの時にお姉さんのお菓子を口にしていれば……
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