第40話 待つ人
街中で少女が立ち尽くしている。
だいたい年の頃は十四、五歳といったところだろうか。
周囲には住宅以外何もない。何を待っているのかさっぱり分からない。
ただ、家の二階の窓からその様子をずっと見ていた私は、気になって声を掛けることにした。
日は既に低く、沈みかけていた。
「何を待ってるんだい?」
私はなるべく警戒心を抱かせないように、穏やかな口調で言った。
「おじさんには関係ありません」
こちらを見ようともせず即答。取り付く島もない。
「もうすぐ日が沈む。いくら街中だからと言って危ないよ」
「あなたには関係のないことです」
「いや、あるね。ここで事件でも起きれば物騒な街として話題になる。静かに暮らせなくなる」
我ながらこじつけだと思ったが、そう言ってみる。
「そうですか……実は具体的に何を待っているか、私も知りません」
初めてこちらの目を見てそう答えた。
「分からないのに……待っている? 冗談だろう?」
「そうですね。私もそう思います」
私はこの頃になってしまったと少し後悔した。
彼女は少々頭のおかしい娘で、関わるべきではないのではないかと思い始めたからだ。
「予感……と言えば、信じますか?」
彼女は私から目を離して、遠くを見ながら言った。
「さあ……私にはそれが正しいのか分からない」
正直な感想だった。
今まで、そんな体験をしたことはない。
「私には、幼い頃から先のことが分かることがありました。例えば、今は晴れていてもあと十数分で雨が降るとか……」
彼女はやはり頭がおかしいのだろうか。もういい、関わった以上最後まで聞こう。
「それは気圧の変化を無意識に感じ取っているからじゃないのか?」
「そうかもしれません。しかし、気圧の変化が分かるのなら運命の変化も感じ取れても良いのでは?」
答えに詰まる。彼女の話は続く。
「具体的には分かりませんが……ここに居れば、すごく悪いことに巻き込まれることは分かっています。それでも、それを『終わり』にするには、それしかないことも」
「君はそれで満足なのか?」
「分かりません。ただ、そうすべきだと思うのです」
翌日、その日の晩に彼女はそこで殺されたことを知った。
犯人はすぐに捕まった。今まで何人も少女ばかりを殺していたそうだが、彼女の事件で残した痕跡が逮捕の決め手となった。
こうして、彼女が犠牲になることでその後の被害者になる者は救われた。
だが、私は納得いかなかった。
本当に彼女が犠牲になるべき必要があったのか、真相は藪の中だ。
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