第39話 白い部屋

 真っ白な部屋の角に男がうずくまっている。

 四畳半ほどの部屋には窓はない。それどころか出入口となる物すらない。

 男は自分がどうして、いつからここに居るのか知らなかった。

 ただ、この部屋から出る方法はない。だから部屋の隅にうずくまっている。

 ――自分は不幸だろうか?

 男は自問する。答えは出ない。

 ――なら、幸福だろうか?

 これも答えは出ない。

 そもそも、幸福も不幸も絶対的なものではなく、相対的なものではないか。

 それなら、比較対象のないこの空間ではどちらとも言えないのではないか。

 男は思案を続ける。

 「シュレディンガーの猫」という実験がある。

 五十パーセントの確率で猫が死ぬ箱に入れて、その猫が生きているか死んでいるかが決定されるのはその箱を開けた時……という内容だった気がする。箱を開けるまでは生きているとも死んでいるともいえる、つまりはこの状況もそうなのではないか。

 誰かがこの部屋を開けた時に、男が幸か不幸か決定される――そうなのではないか……。

 男はうずくまって、この夢とも現実ともつかぬ空間でそれを待ち続ける……。

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