第37話 剪定

 休日の昼間、私は一人で散歩に出た。

 歩いていくと、庭木を剪定しているのを見かけた。

 ああ、私と同じだな、と思う。

 その名も知らぬ庭木は、人の都合によって枝を切られる。

 そちらの方向に枝をいくら伸ばしたいと願っても、叶うことはない。

 した人間はそれを酷いことだと決して思わない。

 そちらに道路があるから、そちらに伸びては見栄えが良くないから……切ったことにいくらでも理由は付けられる。

 しかし、その木が伸ばしたいと願っていた枝を切ったことを、可能性を奪ったことを悲しむ人間は居ない。

 それどころか、これですっきりしたと喜ぶ人間も居るだろう。


 どうして、私は好きに枝を張りたいだけなのに。


 そんな声がどこからともなく聞こえてくる気がした。

 私は小さい頃から習い事等をさせられ、学校での勉強もクラブ活動も親の言いなりだった。そのまま、言われるがままに就職して、言われるがままに結婚した。

 親たちはそのことを悔やむことは一切なかった。当然、詫びられたことなど無く、悪いとすら思っていない様子だった。

 むしろここまで「してやった」ことを感謝しろと言わんばかりだった。……枝を切ってくれと頼んだことは一度としてないのに。


 好きに枝を伸ばせたら、どんなに幸せだっただろうか。

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