第35話 痕跡

「では、次のニュースです」

 画面越しに淡々と話しているニュースキャスターから、その後に報道された内容に私は満足した。

 それは、深夜に出歩いていた女子高生が性的暴行された上でめった刺しになって殺されたという事件だった。警察はまだ捜査中で犯人は捕まっていないそうだが、ここ数ヶ月で起こった事件との関連性を指摘していた。

 もっとも、犯人がまだ捕まっていないことは確認せずとも知っていた。

 なぜなら、私が犯人だからだ。

 こうして深夜に出歩いている女子高生はガードが甘く、パパ活や援助交際目的で金があると見せつければ簡単に付いてくる。それをそのまま人気のない所で好きにすればいいのだ。

 はっきり言って、これ以上ない程に簡単な手口だった。


 だが、私は性的暴行や殺人に快楽を求めていない。


 ただ、できる限り惨たらしく殺したいからそうしているだけだ。

 そうすることによって、事件は凄惨さを増し、人々の記憶に残る。それが多くの人に、長い間残るのであればそうであるに越したことはない。

 ――お前が居なくなっても、代わりはいくらでも居る。

 ある日、会社で言われた言葉を思い出した。

 私はしがない労働者で、パッとしない中小企業でつまらない仕事に就いている。

 来る日も来る日も、単純作業の繰り返し。そんな時に言われた言葉だった。

 そう、私が居なくなっても代わりはいくらでも居る。たとえ過労や心労で私が倒れても壊れた備品と同じように新しいのを「買う」だろう。

 その時ふと思った。私は自分が生きていたという痕跡をどこかに刻み付けたい、と。

 もっとも、今更スポーツやらベンチャーやらで成功するには年を取り過ぎている。もしまだ若かったとしても、そんな才能は自分にはないだろう。


 だから、私は人を殺すことにした。


 殺人は、特に連続殺人は事件として大きく取り上げられる。それは自分が生きた痕跡としては十分だろう。称賛を得られないのならせめて傷跡を残したかった。

 私は事件の報道を見ながら、独りでささやかな祝杯を挙げた。

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