第32話 温眠
人類が本格的に宇宙進出して数世紀――更なる宇宙開拓のために、人間が長期間生命維持できるようにする研究が急務とされていた。
最初、多くの研究者が考案したのが冷凍睡眠(コールドスリープ)だった。これは宇宙進出するずっと前からSF小説等でよく扱われていた手段だった。
しかし、その研究はすぐに壁にぶつかった。冷凍する際に細胞を傷つけてしまったり、今度は解凍する際に心臓が未解凍なのに他の部分が解凍されて死亡したり……人体のような大きな物には向かず、あくまでフィクションの中でしか使えない手段だと分かったのだ。
こうして、長期生命維持の研究は暗礁に乗り上げた。もはや、更なる宇宙開拓のためには膨大な時間を持て余して何世代も宇宙船の中で過ごすしかあるまい――誰もがそう思った時だった。
真逆の発想で、長期間生命維持する方法が考案されたのだ。
それは、冷凍睡眠(コールドスリープ)と逆ということで温眠(ホットスリープ)と呼ばれた。
生命活動を停止させる冷凍睡眠とは異なり、温眠は本来なら身体で行う生命維持の機能、心臓を動かしたり、体温を維持したりすること等を外部から装置を接続して行うことで、身体にかかる負荷を劇的に減らす。それによって、老化を完全にではないものの遅らせ、寿命を延ばすという方法だった。
体温維持を外部装置で行うことからも温眠という名で定着していき、負荷の少ない安全な生命維持の方法として研究が進められた。
そして、研究チームは記者会見を開き、多くの記者の前に出て言った。
「温眠は、実用化するのは不可能です」
どよめく記者たちを前に研究チームの代表は言葉を続けた。
「長い間生命維持の機能を外部に依存すると、それが無くなっても身体が『サボる』ことを覚えてしまうのです。つまり――」
説明が続く。温眠から目覚めて活動を再開したマウスは、時々心臓が止まって死んでしまう。あるいは体温が維持できなくなって死んでしまう。一度、長期間に渡って生命維持の機能を外部に完全に依存すると再開するのが困難となるのだ。
それを聞いていた記者の一人が思った。
――一度でも怠け癖が付くと、直すのは難しいってことだな。
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