第28話 私の……

 私は驚きを隠せずにPC画面を凝視していた。

 見ているのは小説投稿サイト『ヨムカク』。私が小説を投稿しているアカウントだ。

 だが、その日見たものは違っていた。

「なんだ、これは!?」

 独りでそう叫ぶ。

 投稿されていた小説は、私には書いた覚えが全くない物だった。

 きっかけはアカウントに設定されているメールアドレスに、書いた覚えのない小説へのコメントの通知が届いたからだった。

 そのコメントは、私の作品を褒めちぎっていた。

 不審に思った私は、アカウントにログインして――今に至る。

 既にその小説には多数のコメントやレビューが付き、大盛り上がりを見せていた。

 私は誰かにアカウントを乗っ取られたのだと思い、アカウントごと削除を考えた。

 元々、私の作品は誰にも読まれていなかった底辺作品ばかりだ。それが他人に乗っ取られてウケたところで――そう考えながらも、手は止まった。

 もし、これを自分の作品だということにしてしまったら……我ながら最低な案だと思いつつ、その考えを捨てられなかった。それに、いくら今まで評価が低かったとしても、アカウントを削除すればこれまでの作品が消えてしまう。元の文は残してあるが、それは惜しい――我ながら言い訳じみているが、そう思ってしまった。

 こうして、私は知らない間に更新し続けるゴーストライターを黙認することにした。


 あれから、評価は伸びる一方で、出版社から書籍化の案内まで来るようになった。

 その頃では私は手慣れたもので、その作者を演じることが日常となっていた。

 書籍化の約束を交わし、完結したら出版するという話になった。

 「私の」作品のファンは大いに喜び、この先どうなるのだろうと期待して読んでいるようだった。

 ところが、ある日突然に更新されなくなった。それまでは毎日のように更新されていたにも関わらず、だ。

 何日か待ったが、一向に更新されない――そんな日が続くと、出版社やファンから催促が相次いだ。

 私はそれが徐々に怖くなって、とうとうアカウントごと削除して逃げ出した。


 その後、別のアカウントを作り直して投稿を始めたが、二度とそのようなことは起こらなかった。私の書いた作品は鳴かず飛ばずで底辺のままだ。

 あのゴーストライターの意図は全くの不明のままだった。自ら発表すれば大いに称賛を得られただろうに、それを放棄してこんな悪戯に走るとはどうかしている。

 それと、ふと気付いたことがある。

 部屋に飾っていた陶製の狸の置物がいつの間にか無くなっていた。記憶は定かではないが、更新されなくなった前後のように思える。

 加えて、更新された日時は私が眠っていた時間帯ばかりだった。

 それが何を意味するか――私には分からない。

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