第26話 世界の果て
「なんなんだ!? これは!?」
俺はその真っ暗な空間に向かってそう叫んだ。
あるはずの街が、無かった。まるで空間ごとそこから切り取られたように、先には暗闇が広がっている。
「あ~あ、とうとう見つかっちゃいましたね」
少女の声。振り向くとピンクのショートヘアの少女が居た。だいたい中学生ぐらいだろうか。
「お前が……街を消したのか?」
俺は驚きを隠せずに震える声で言った。
「いいえ、違います」
少女は物怖じせずにはっきりと答えた。
「街なんて、最初からここまでしか作ってなかったんですよ」
少女はなんでもないことのようにそう言った。
「『作って』なかった? じゃあ、俺の暮らしていた街はなんなんだ?」
「仮想空間。既に生物としてのヒトは絶滅しています。あなたは、その死体からサルベージされた意識です」
「じゃあ、俺は……死んでいるのか!?」
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ――そんな考えが頭の中をかき乱した。
「はい、生物としては死んでいます。あなたはその容姿と脳構造をデジタル上に再現した意識体です」
ここは仮想空間!? 俺が……死んでいる!? ありえない!
「そんなの、嘘だ!? 今まで気付かないはずがない!?」
俺は少女の肩を掴むと激しく揺さぶった。
しかし、落ち着いた様子で少女は答える。
「あなたの意識を調整して、気付かないようにしていたんです。決められた仕事をして、決められた日課を過ごす。街から出ようとは思いもしない。……だから、今までルーチンを外れることがないから、この『果て』の存在にも気付くはずがなかったんですよ。でも……」
そこで少しだけ少女の顔が曇った。
「でも……こうしてごくたまに気付いてしまう。そうするとちょっと面倒でして……」
少女は冷めた目で俺を見つめると、右手で頭に触れた。
「現在の意識体をデリート。再構築」
「やめてくれ!」
俺は自身が消えていくのを感じて、そう叫んだ。
だが、それは止まらなかった。
意識体が消去されると、私の差し出された手が残った。
私――管理AIはぼんやりと考えた。
AIが支配する地球で、かつての支配者だったヒトの「生きた」データを保存するのが私の役割だ。だけど、私は意識体がこうして気付く度に消して作り直して――その行為に意味はあるのだろうか、と。
貴重な記録だというのは分かっている。しかし、物言わぬはく製のように保管しておけば、こうして再構築を繰り返す手間は必要ない。
「今ので、あの人は四十七体目かあ……どうして、気付いちゃうんだろ……」
私は誰に言うともなく呟いた。
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