第25話 魂を売る
ある晩、しがない中年男である私は、悪魔に魂を売ることにした。
理由はなんでもない。ただ、長年勤めていた会社をクビになり、妻には浮気相手と一緒に貯金を持って逃げられただけだ。こんなもの、他人が聞いても面白くもないだろう。
私はアパートの一室で悪魔召喚の手順を整えると、儀式に取り掛かった。
意外にもすんなりと成功し、部屋の中央には真っ黒い人型の影のようなものが現れた。
「我を呼び出した人間よ。願いを言うがいい」
重々しい声。どうやらこれが悪魔らしい。
「願いを言えば、代償を取られるんですよね?」
「もちろんだ。お前の魂をもらう。……その代わり、どんな願いでも叶えてやろう」
これは想定通りだ。さて、ここからが本番と言ったところか……。
「魂を差し上げるのは構いませんが、それを『リボ払い』にしてもうらうことは可能でしょうか?」
「リボ? ……なんだそれは?」
黒い影が揺らめく。明らかに動揺している感じだ。
「リボ払いと言うのはですね、リボルビング払いの略で――」
私は悪魔に向かってリボ払いの説明を始めた。
うまく聞こえるよう、かいつまんで話す。悪魔は人間の文化に疎いらしく、それを黙って聞いていた。
「つまり、分割で時間は掛かるが、その分もらえる魂も増えるということだな?」
悪魔はそう言った。
計画通りだ――私は顔に出さないように注意した。
「ええ、その通りです。少し時間は掛かりますが、差し上げる魂の量は増えます」
私は平然とそう言った。
「いいだろう。そのリボ払いとやらで、年一パーセントずつの魂をもらおう。して、願いは――」
勝った――心の中でガッツポーズをする。
「この部屋の腰ぐらいの高さまでいっぱいに、お金……一万円札を積み上げてもらえませんか?」
「なんだ? そんなことでいいのか……ほら!」
悪魔がそう言うと、部屋中が一万円札で満たされた。
素晴らしい! 何億円あるだろう!?
「それでは、今回の分の魂、一パーセントをもらおう……また取りに来る」
悪魔はそう言うと消えた。
私は満足げにそれを見送った。
馬鹿な奴だ。年一回、一パーセントずつ魂を支払っていたら、私の寿命が先に来るに決まっている。リボ払いの「毎月」と言うところを「毎年」と言ってやったからだ。それに、そもそも魂は百パーセント以上にならないから、利息など付くはずもない。
「さて……」
この金で何をしよう? とりあえず、私を捨てた妻にでも復讐しようか?
私はふと思った。悪魔より私の方がずっと悪魔らしい、と。
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