第19話 穏やかな終末
「お仕事お疲れ様、大変だったでしょ?」
彼女は僕に向かって微笑みながらそう言った。
「うん、でも……生活のためだからね」
そう答えるが、悪い気はしない。そもそも、そんなに大変でもない。
「そう……けど、無理しないでね」
画面の中の「彼女」は心配そうにそう言った。
仮想彼女・仮想彼氏が流行るようになってから、結婚率・出生率は低下の一途を辿っていた。
現実の面倒くさいパートナーと違って、相手はいつも望むように答えてくれる。少額の課金のみでそうなのだから、これで現実にパートナーを求めろと言う方が酷だ。
相手のことを一切考えなくてもいい、望むようにしてくれる――それで中毒になって絶えず端末に話しかける人が続出した。
人ごみの中でも、スマホ等の携帯端末を見ていて周囲の様子を気にもしない人ばかりになった。
専門家はこれを人類の危機だと言って騒ぎ立て、法規制するように呼び掛けたが、それらを作った企業から多額の献金を受けている政治家が動くはずもなかった。
「ありがとう、おやすみ」
僕はそう言うと画面から目を離した。
本当はもっと話していたかったが、明日の朝に響くのを恐れたからだ。
もっとも、近年では事務仕事はAIがほとんどしてくれるから自分はそれに指示を出すだけでいい。現場作業も設定さえすればロボットがしてくれる。そんな時代なのに、定時に出勤する慣習は相変わらず続いている。
もはや人間が働く意義すら曖昧な時代となっていた。
21XX年、人類はロボット・AI群に「飼育」されるようになった。
そこにはSF映画のような機械との戦争や葛藤はなく、人類は笑顔で主権を手放した。
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