第17話 引継ぎプレイ

「全ての記憶を引き継ぎますか?」

 目の前の若い女性は、僕にそう問いかけた。

 不思議だ。真っ暗な空間なのにその女性の姿はハッキリと目視で来た。

「それは、前世の記憶を引き継げるということですか?」

「はい。簡単に言えばそういうことです。生まれ変わった瞬間から、あなたは前世の記憶を持った状態でスタートします」

「記憶を……引き継ぐ……」

 前世では、僕は何をしていただろうか――そう思ったが、思い出すことはできなかった。

「この狭間の空間では、前世の記憶を思い出すことはできません。誰もがそれに囚われることなく選択するための、公平な処置です」

 女性が察したように言った。

「ええ、何を考えているか分かります。しかし、選択には口を出しません」

 女性はそう断言した。

「あの……引き継げるならば、その利点とは――」

「記憶の知識や技術を引き継げば、新たに覚え直す必要はありません。もっとも、それは良いことばかりとは限りませんが――」

 要するに、『強くてニューゲーム』だ。使わない手はない。

「分かりました。引き継ぎます」

「では、引き継いだ状態で転生していただきます」

 女性がそう言うと、周囲が明るくなって辺りが光に包まれ、やがて何も見えなくなった。


 目が覚めると、僕は赤ん坊の状態でベッドに寝かされていた。

 前世の記憶は……ある。これである程度手を抜いても、成績優秀のエリートコースを歩めるはずだ。

「おやおや、○○ちゃん! 目を覚ましましたか~?」

 母親らしき女性が僕を抱き上げる。部屋の中の窓から外の様子が見えた。

 その時、窓の外を大型トラックが通るのが見えた。

 その瞬間、僕は震えが止まらなくなった。

 ――そうだ。僕はトラックに轢かれてもがき苦しみながら……。

 震えは収まりそうになかった。あの女性の言葉を思い出した。


 もっとも、それは良いことばかりとは限りませんが――

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