第12話 忘れる

 今日は――。


 日が暮れると、私はその日も日記を書いた。

 書く内容は、とりとめのないこと。花が咲いていた。あまり見かけない鳥を見た――そんな、なんでもないことだ。

 だが、私にとっては重要な作業だった。

 そうしないと「忘れて」しまうから。


 忘れる――この機能は、画期的な発明だった。従来の自律型学習ロボットはすぐに記憶容量がいっぱいになってしまうという致命的な欠陥があった。入力されるデータ容量の増加に技術の進歩が追い付けなかったからだ。しかし、この「忘れる」機能をロボットに搭載することで解決された。

 入力されたデータから、自動的に不要なデータを抽出し消去する。そうすることによって、記憶媒体がいっぱいになったり、動作が不安定になるリスクを回避する。これによって、自律型学習ロボットの多くが致命的な故障をするまで、エネルギーの供給があれば半永久的に動作することが可能となった。


 しかし――それは幸せだったのだろうか?

 私には分からない。

 古くなって不要と判断されたデータは自動的に消去されてしまう。二度と思い出すことはない。

 私が日記に書いているありふれた物事も、同様に「忘れて」しまう。

 忘れたくない。私が生きていた日々も、もう居なくなった主人の記憶も。

 人類が居なくなってからかなりの年数が経っていた。そのうち、私の主人だった人間の記憶も不要と判断され消されてしまうことは明確だった。


 私はそれらを残しておきたい。だから今日も書き続ける。

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