第11話 伝説の剣
少年は岩に刺さった剣の前に立った。
そして、引き抜こうと柄に手をかけた時――「待て」
ふいに背後から声が掛かった。
少年が手を放して振り向くと、枯れ木のような老人が立っている。
「悪いことは言わん。その剣を抜くのはやめておけ」
「僕には、伝説の剣を抜く資格がないから抜けない、と?」
「違う。その剣は誰にでも抜ける……が、誰も抜こうとしなかったのだ」
「どういうことですか?」
「それは――」
老人は語りだした。
確かにその剣は伝説の剣――手にした者に勝利を約束する剣だと。
しかし、手にした者はその力に魅入られ、自分一人でなんでもできると思い込む。
そして、ついには手柄を独り占めしようと仲間や世話になった者まで手に掛けてしまう。
結果、気付いた時には周りに誰も居なくなってしまうのだ……と。
「僕はそんなに愚かじゃない!」
「皆、最初はそう言った――が、皆抜くのをやめた」
老人の言葉は静かだが重く響いた。
少年は剣に向き直った。
大丈夫。僕はそんなに愚かじゃない。愚かじゃない――。
少年の頭に、今まで一緒に戦ってきた仲間の姿がよぎった。彼らは、少年が伝説の剣を手にして戻ってくるのを待っているはずだった。
もし彼らを殺してしまったら……少年の目には、ほんの一瞬だが剣に向かって差し出した両手が血にまみれて見えた。
少年は、剣を抜かなかった。
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