第8話 手品師

 小さい頃、よく遊んでいた公園で手品を見せてくれるおじさんが居た。

 おじさんは飴玉やハンカチ等を瞬く間に消してしまうのだ。

 私はすごいすごいと言ってそれをほめた。


 ある日、両親が私の悪戯を叱りつけた。

 私としてはそんなに悪いことをした気が無かったので、どうしてこんなにも叱られるのかが分からなかった。

 私は家を飛び出し、あの公園で泣いた。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん?」

 それを見つけた手品のおじさんがそう言って傍に来てくれた。

 私はそれまでのことを洗いざらい話すと、おじさんはちゃんと聞いてくれた。

 その時、ふと私は思い付いた。

「おじさんは、私のお母さんとお父さんを消せる?」

 おじさんはそれを聞くと、少し困った顔をした。

「消せるけど、また出したりはできないよ」

「いいよ。じゃあ、消して」


 それ以来、私の両親は消えた。

 遠くの親戚に引き取られた私には、あのおじさんがまだあの公園に現れるのかは分からない。

 ただ確かなのは、それから10年間ずっと両親が消えたままだということだけだ。

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