誕生日パーティー

 もうすぐウィル様の10歳の誕生日のパーティーだ。


 この国の主要貴族が集まる。


 まだ成人していないので、昼間のパーティーになった。


 ちなみにこの国の成人は16歳。


 16歳になると青年貴族として認められ夜会に出られるようになる。

 前の世界の私も16歳でデビュタントしたなぁ。でもすぐ死んじゃったけどね。


 この世界では絶対長生きするぞ!



 誕生日パーティーでは私は婚約者としてウィル様にエスコートしてもらうことになっている。


 

 当日になった。我が家は朝からてんやわんやの大騒ぎだ。

 母と私をパーティー仕様に侍女達がよってたかって磨き上げ、仕上げていく。


 母はともかく私はいいんじゃないの? まだ子供なのよ。


 この世界では、初めて着る本格的なドレス。

 子供なのでコルセットがないのはありがたい。


 ドレスはウィル様が贈ってくれたのだが、ウィル様の髪色と瞳の濃紺だ。生地が羽根のようにふわふわで花のモチーフが散りばめられているので濃紺だけど可愛い感じだ。


 それにしてもこんな独占欲丸出しのドレスをよく作ったものだ。


 アクセサリーもサファイア。気持ちも重量も重い。

 サファイアは王家に代々受け継がれているものらしい。


 重すぎるわ。


「ベル、よく似合っている。可愛いよ」


 出迎えてくれた腹黒王子がしれっとほめる。


「ウィル様も素敵ですわ」


 とりあえずほめておく。


「今日のパーティーはジェフリーやアデライドも来る予定だ。これは中和剤だ。もし、毒を盛られてもこれで助かるから飲んでおいてほしい」


「毒盛られそうですか?」


「念には念をいれてだ。備えあれば憂いなしだろ?」


 確かにそうだが子供に毒盛るか?


 私はパクッと口を開けて中和剤を飲んだ。


 確か前の世界でのウィル様の誕生日パーティーはウィル様の体調が悪いと中止になったはず。あの頃からもう毒を盛られていたんだな。




「皆の者、今日は我が息子ウィルヘルムの10歳の誕生日の祝いによく集まってくれた。礼を申す」


 国王陛下の挨拶が始まった。それにしてもすごい数だ。


 前の世界では王妃派と側妃派が半々くらいだったけど、今の世界はウィル様の奮闘でほとんどが王妃派で国王陛下と王妃様の仲も良い。


 今、アデライド様を王女に推そうなんて人はグリーデン公爵くらいだろう。いや、ノバック公爵もそうかもしれないな。 




「ヘンドリック、久しぶりだな」


 ノバック公爵が父に声をかけてきた。


「ベルちゃんは王太子の婚約者になったんだな。おめでとう。ジェフリーと結婚させたかったのだがなぁ」


「いやいや、ジェフリーは王女の婚約者じゃないか。ベルよりも王女の方がノバック家の為になるよ」


 父はたぬき親父の言葉に何を真面目に返してるんだ。

 本当にウィル様の爪の垢でも煎じて飲まなきゃだめだな。父は腹が白すぎる。

 利用されないようにしっかり見張ってないとダメだな。


「ベル、今日のドレスは殿下からの贈り物かい? よく似合っているよ」


 ジェフリー様が言う。この二股野郎! と思ったが、結局処刑されたんだったな。まぁ、そんなにうまくはいかないよ。


「ジェフリー様も王女様にドレスを贈ったのですか?」


「いや、打診したらいらないと言われたんだ。王女はドレスもアクセサリーも好みのものがあるらしくてね。請求書だけうちにきたよ」


 ジェフリー様はため息をついている。


「ご神託だから仕方ないけどここだけの話、なんで私がって思うよ」


「ジェフリー様、不敬になりますわよ」


「そうだね。ベルが相手だとつい本音を言ってしまうようだ。忘れて欲しい」


 これは私に気を持たせようとしているのか?


 子供の頃から貴族の会話は気が抜けない。



「あなた! 私の婚約者と何を話しているの! 離れなさい!」


 登場だよ。アデライド王女。


 真っ赤なドレスだ。品がないなぁ。アクセサリーもジャラジャラつけてる。前の世界より品がなくなっているみたいだ。


「アデライド殿下、私達は父同士が友人です。久しぶりに会ったので挨拶をしていただけですよ。なっ、ベル」



ジェフリー様の言葉に私は「はい」と返事をする。


 王女は怖い顔をして、上から私を見下ろしている。


「ベルどうした?」


 いい頃合いだと見計らってたな。ウィル様が出てきた。


「大丈夫ですわ。王女様の婚約者のノバック小公爵とご挨拶していたのを見て、王女様が勘違いしてヤキモチを妬かれたのですわ」


「わ、私は何もヤキモチなどやいておりませんわ。行きますわよジェフリー!」


 王女はジェフリー様の腕を掴んで引っ張って行く。


「いきなり来たな」


「ほんとに」


「アデライドは私と顔を合わせるのが嫌なようだ。余程側妃にあれこれいわれているんだろうな。さて、あのふたり、どうしようかな?」


「まだしばらくはあのままでよろしいのではないでしょうか。ジェフリー様は嫌がっているようなので何かアクションを起こすかもしれませんしね」


「嫌がっているのか。そうか。それにしてもアデライドのドレスの趣味は今の世界でも酷いな」


「確かに」


「ジェフリーに他の女を近づけてみようか? 面白いかもな」


 は? また二股?


 ウィル様は楽しそうにわらっている。


 やっぱり黒いわぁ~。

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